第22話 体育祭:前編
今日は見渡す限り制服の生徒は一人もいない、と思う。少なくとも僕の見える範囲ではなんだけどね。
なんせ今日は。
────────体育祭だから。
「ほら、燿くん!」
入場行進、開会式、準備体操も終わり最初の種目の百メートル走もすでに男子が終わって、今は女子が始まるところだ。
夏元が僕を急かしたてる。
理由は。
「美月さんの競技だよ!」
と言うこと。
「美月さんは……」
「ほら、あそこ」
「本当だ。いたいたっ!」
百メートルのスタートライン。
スタート直前、冬野は緊張してるみたいで。
「美月さーんっ! がんばれーっ!」
夏元の大きい声で冬野も気がついたらしい。冬野と目が合う。冬野の頰が引き攣ってるように見えた。うん、なんかちょっと申し訳ない。
僕は「がんばれ」と小さい声で送る。
僕の声は隣で大声で応援してる夏元の声に掻き消えてたと思う。
その後、少しの百メートル走の準備があり。
そして、スタートの合図が鳴り響いた。
「はぁっ、はあ……はぁ。ふぅ……はぁ」
結果は五人中三位。
冬野は僕たちのところにやってきて息を整えてから「陽毬……声大きい」と恥ずかしそうな顔をする。
「でも……応援、ありがと」
冬野が夏元にお礼を言うと「うん、どういたしまして」と返す。それから冬野は僕の方に顔を向けてきた。
「えーと。冬野さん……僕の声、聞こえてた?」
「……大丈夫。わたしには届いてたよ、燿の声。ありがと」
僕の声は届いたと。
僕の声は小さかったけど。でも応援されてた冬野がそう笑うなら。
「そっか。なら良かったよ」
冬野は百メートルを走り切ったからか、体育祭の全部が終わった感が出てる。まだ体育祭自体は始まったばかりなんだけど。
僕と陽毬の競技も残ってるし。
「戻ろ。陽毬、燿」
「そうだね。それにしても大奮闘だったよ、美月さん!」
控え場に戻る途中、夏元が言うと「応援、されちゃったから」と。
「どうだった、美月さん。応援されて」
「恥ずかしい」
「あ、あはは。ごめんなさい?」
「……でも、嬉しかった……かも」
二人がスキンシップを取りながら歩いてる。後ろを僕もゆっくりと歩く。
次の競技は二百メートルだったかな。
「────お疲れ、秋山さん」
僕は校舎内に飲み物を買いに来た。
「ええ、私の競技は終わったわ。労いの言葉をありがとうね」
「どうだった?」
「見てたでしょ? あなたに自信満々にそれなりに走れるって言ったのに、五人中四位よ」
「ははっ。ものすごい組み合わせ悪かったね」
三人はかなり早かった。
運動部でも上位のレベルだったと思う。
その三人に秋山は負けたんだ。もう一人には何とか勝ててたけど。
「まあ……私、あの子達よりも年収多いから。私、人生勝ち組なの」
「うわー、嫌な女優」
まあ秋山は学生どころか、そこらへんの社会人より稼いでるだろうね。
「冗談よ」
「本当に?」
「私、演技のプロだから」
なら、冗談か。
「……で、二百メートルの話だけど。もう少しで三位は目指せたじゃない?」
「そうね」
「秋山さん、本当に頑張ったね」
「ふふ、ありがと」
そんな話をしながら僕は自販機で飲み物を買う。そして手に取った瞬間。
『続いての男子千五百メートル────』
と言う放送が聞こえてきた。
「あ、僕の競技もうすぐ始まるんだ!」
「そう……早く行ったら?」
「そうだね。また後で、秋山さん!」
僕は急いで校庭に向かう。
「ほっ……間に合った」
千五百メートル。
受付を済ませて開始位置に立つ。
冬野と夏元が応援してくれてる。
あ、春木と目があった。表情はニコニコと。応援されてるんだろうなってのがわかる。
「もう……頑張らないとね」
冬野の言ってたことがよく分かって、笑ってしまう。
友達だからかな。
応援されると、たしかに『やってやらないと』って感覚がしてくる。
僕はスタートの合図を聞いて、他の男子と同時に走りはじめた。




