第15話 春木さんは心にオスを飼っている
「平坂くん」
学校について僕は自分の机にカバンを置くと、隣の春木が待ってましたって感じの顔で身体ごと向けてた。
「ひ・ら・さ・かくん!」
「あ、おはよう、春木さん」
「おはようございます!」
いつにも増して元気がいいですね。
え、僕? 僕はお変わりないです。今日も冬野と夏元と登校できてハッピーです。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもありません! けほっ、けほ」
「おおっ、大丈夫?」
「げほ、げほっ。そ、んな事より」
そんな事になっちゃうのか。
「すー……はぁー」
春木が呼吸を整えてる間に僕も諸々の準備を終わらせる。
「……さて、それでどうしたの?」
彼女はようやく本題を口にする。
「どうしてゴールデンウィーク明けてから一度も秋谷凛の話を聞いてこないのですか?」
あ、あー。
完全に忘れてたよ。ゴールデンウィーク中には見たんだよ。見たんだけどね。
「流石に見ましたよね?」
「見ました、しっかりと。写真集とかあんまり買わないけど、秋谷凛の魅力がたっぷりと詰まって……」
「そうですそうです」
腕を組んで誇らしげに。
まるで我が子が褒められてる時みたいな。まあ、分からんでもないんだよね。ずっと小さい頃から見てるから。と言うか、僕らと同じ年齢だもん。
「私は特に部屋着ショットがお気に入りです」
「僕は……制服かな」
「平坂くんは制服フェチなんですね」
「それは流石に語弊があるかなぁ?」
制服に興奮するような変態だって思われるじゃないか。僕の制服への興味は人並み程度なのに。
「では聞いてください。春木里菜、私が部屋着の秋谷凛を推す理由」
「ふむ」
春木の主張は気になる。
「それは」
「それは?」
「それは……自分の前だけで見せてくれてるって感じの写真から溢れる、危機感のなさがグッと来るからです」
めちゃくちゃ男子の心持ってるんですけど。
そして写真集見たから、わかるぅ〜が止まらない。その手のボタンがあったら限界まで連打してる。
「一緒の部屋にいて、いろいろ緩いのが最高です」
こ、こいつできる。
心に男がいるぞ。心の中にオスを飼ってるんだ!
「け、けど、僕だって制服の写真を推す理由は負けてないけどね」
「ほほう。聞かせてください、平坂くん」
「良いかい、春木さん」
僕はたった一つの真実を知ってる。
それが。
「あれがコスプレにならないってこと」
「なっ……!?」
「人間てのはね、制服を着れるタイミングは限られてる。現役学生女優だからこそのオリジナリティなんだよ」
それがたとえ本来の制服じゃなくても、コスプレじゃないと僕は信じてる。
「た、たしかに」
「制服で学校のシチュエーション。それはもう現実的にあり得そうな感じがしてこない?」
「そうですね。私、今学校に秋谷凛が居たらと想像しました」
居ます。
もうこの教室にいます。そう声にしそうになるのをぐっと抑える。
「けどね、春木さん。君の言った通り部屋着も素晴らしいんだ」
制服で想像できるリアル学校シチュエーションと、本来なら見ることのできない部屋着のガードのゆるさ。双方が揃うことによって。
「つまりは……」
唾を飲む音がした。
「そう」
僕らは頷き合った。
「制服と部屋着」
「揃ってこその最強の魅力……ですね?」
よし帰ったらもう一回じっくり眺めよう。たぶん春木もそう思ってるだろう。
「やはり同士は必要なのだと痛感しました。さすがです、平坂くん」
「こちらこそだよ、春木さん」
認め合って、僕は春木と絆が深まるのを感じ取っていた。
「僕らはこうやって新しい発見ができる」
「はい。これからも高め合っていきましょう」
僕に差し出された右手を握る。同好の士であることを示す固い握手だ。
「ふっ」
「ふふ」
そうしてホームルーム開始まで、僕らはまた秋谷凛の魅力を語りあった。
「────秋山さん」
昼休み。
持ってきてたお弁当だけで足りなかった僕は購買まできた。昼休みも後半になればやっぱり購買には人は並んでない。僕はスムーズにパンを一個買ってから声をかけた。
「変態」
「突然の罵倒!?」
秋山の顔は僅かに赤らんでる気がする。
美少女の赤面とか……良いね、ふふ。
「何笑ってるのよ」
「おっと……ごめん」
ニヤけが浮上してしまったか。沈まれ。心の底に。
「はあ……それでどうしたの?」
「いやぁ、ホールまで来たから話しかけたくなって」
「そう」
秋山旭は秋谷凛。
ふむ、制服。
制服姿の秋谷凛。
「これ……ぶっちゃけ写真と同じようなシチュエーションでは?」
「そうね。他の人には秘密よ」
なんて言って唇の前、人差し指を立てた彼女はとてもサマになってる。
「私とあなただけ」
「特別感ぱないっすね」
現状を意識した瞬間、セリフが見事に撃ち抜いてくる。
「実際特別でしょ?」
「あの……自覚もって言ってます?」
「さあ、何のことかしらね」
秋山は微笑む。イタズラっぽく。とても魅力的な顔で。
「まったく。秋山さんは凶悪だよ」
「そうね。褒め言葉として受け取るわ」
「そうだよ。褒め言葉だから」
「……ありがとう」
今度は純粋な笑みで、まるで子供のような顔だった。
「僕はそろそろ戻るよ」
「そう。また話しましょう、平坂くん」
「そうだね。というか、秋山さん。相変わらずここで食べてるって事は」
「何かしら?」
何だか圧を感じるね。
女優の圧だ。ちょっと、いやかなり怖い。
「別に……平坂くんが時折来てくれるだけで満足してるもの」
「なら、また話しにくるよ」
「ええ、よろしく。平坂くん」
あれ。
そういえば、秋山はいつ周防と知り合うんだろ? まあ、まだってだけかな。




