アフター1-10 自由
「あの、去年も思ったけどさ」
控室、僕は衣装に着替え終えてからふと呟く。
「どうしました?」
「いや、改めて技術力に感服しましたって、っていう話なんだけどさ」
今着てる黒いドレスからすぐにボーイッシュなパンツスタイルに……という流れなんだけど、よく実現できたよね。
みんな嬉しそうな顔してる。
「ですよねー。私もこれ見た時、すごいなと思いましたから。やっぱり演劇とか、ミュージカルとか……」
「やらないからね?」
衣装係! そんなにガッカリしない!
君たちなら大手でも充分やってける可能性あるだろ! そこで存分にその能力を活かしてくれよ!
「……とりあえず、ね。みんな本当にありがとう。今回のうまくいったらみんなで打ち上げしよっか」
衣装係も今回ばっかりは用意して終わりってこともなく、僕の早着替えの手伝いがあるのだ。
「打ち上げについては終わってからで。じゃあ、そろそろ時間みたいですし……みなさん、行きましょうか」
人のいなくなった廊下を僕ら一行は堂々と歩く。きっと、美月も夏元も秋山も周防も体育館にいるんだろう。そこにはきっと魁星さんと日織さんもいる。
「あ、こちら平坂燿……準備完了です。体育館前にいますので、どうぞ」
春木が体育館で司会進行を行なっているうちの一人と連絡を取ってるのがわかった。
「平坂くん。入場です」
閉じられていた体育館の扉が開かれた。
瞬間に僕にスポットライトが向く。何回浴びても眩しいし、緊張はするもんだ。
背筋を伸ばして、堂々と。この黒い、大人の女性のようなドレスに恥じないように。
カツカツ、と踵からなる音が響く。
全員の視線が僕を見てる。
「あとはお願いします」
春木がそう言う。
そして、僕と早着替え要員以外は別の場所へ。早着替え要員とも一度、別れることに。
「…………」
僕はステージに上がって、下を見る。
うん。みんないるね。というか、相変わらず周防はそのうちわを持ってくるんだね。
『な、なんと! スペシャルゲストのヒラサカヨウさんです!』
司会進行役がそう告げた瞬間に拍手喝采が鳴り響いた。そんな中でマイクを渡される。少しずつ拍手が収まっていく。
完全に止んだのを確認した後で、僕は口を開く。
『はい、みなさん。お疲れ様です。紹介にありました通り平坂燿です。二、三年生のみなさん、お久しぶりです。一年生の方は……はじめまして、ですかね? 見たことあるって人もいるかもしれませんが。先生方、ご来訪のみなさま方もお久しぶりです、或いは一年生の方々と同じくはじめまして。すでに僕は栄聖学園の生徒ではございませんが、縁ございまして学園祭にこのような形で参加させていただくことになりました』
深々とお辞儀をする。
『みなさんがこれまでに用意し、作り上げた学園祭。僕も楽しませていただきました。それに恥じないよう……やれることは少ないですが僕たちも盛り上げられたらと思います』
とは言っても別に僕が何かしらのパフォーマンスをするとかは特にないんだけどね。ただ、僕がここに出るだけというか。
『ヒラサカさん、この後は何をしてくださるんですか?』
ふふ。これは衣装係のみんなの努力の結晶。このドレスだって素晴らしい衣装だけど。
『早着替え……変身をみなさんにお届けしましょう。このドレスはもうすぐで見納めですのでしっかりと焼き付けておいてください。あ、いや……もしかしたらDVDとか出るかもしれないか』
例年考えたら絶対出るね。早期予約で写真集もついて出るだろうね。
『それではみなさん、準備はいいですかー!? カウントダウンを』
僕は段の上に乗り、チラリと衣装係にアイコンタクトを送る。衣装係が段の裏で頷くのが確認できた。
『お願いします!』
僕は『スリー』というと、ツーと返ってきて。ワンで僕を含めた全員の声が重なった。
そして僕の変身が完了する。
ドレスからボーイッシュな雰囲気のショートパンツスタイルに。
『ふふ、こういうのも悪くないんじゃないですか? どうでしょう?』
僕は段を降りてから、くるっとその場で時計回りに回る。そして春木たちの注文通りにウインクをして右目の近くで右手でピースを作る。
するとまたしても拍手の雨。
『さ、最高かよ……』
司会者さん? 声乗ってますよ?
『えー、みなさん』
僕はこの一言を。
『僕の変身、どうでしたか?』
相変わらずの拍手。これは満足してもらえたってことでいいんだよね? 司会者の女の子も最高って言ってたし。よし、そう思うことにしよう。そして話を進めよう。
『僕は今回、ドレスからこの格好に変身したわけですが……僕はなんとなくこっちの衣装は自由って感じだと思ってます。僕の感覚になってしまいますけども。みなさんはどう思いますか? えーと……その、そう! 変身するってのも悪くないんじゃないでしょうか?』
そうして僕は最後に『みなさん、貴重な機会をいただきありがとうございました』と告げ頭を下げた。
拍手を浴びながら僕は舞台袖に歩いていく。日織さんは見ていてくれただろうか。




