アフター1-8 旧交を温める
「言ってしまえば二つの衣装になるのでギャップが求められることになります。それに技術なども必要になりますが……」
僕を含めて何人かでカラオケに集まっていた。
「みなさん。正直それ行けそうですか?」
春木の質問に全員が顔を上げて頷いた。その顔は『全然やれるが?』というような顔に見える。
「いやぁ、頼りになりますね。みなさん」
カラオケに来てるっていうのに皆さん歌とか歌わないんですか?
「学園祭楽しみですね。この通りみなさんやる気ですし……まあ、着せれる衣装が実質一個増えたみたいなものですもんね」
なるほど。
「ドレスを脱いだら、ちょっとスポーティな感じとか……」
「ふむふむ……素晴らしい。実に見てみたい」
何を着せるかでめちゃくちゃ盛り上がってるね。春木もギャップが必要って言ったからだろう。ボーイッシュ路線も入れるのはどうかっていう話になってる。
春木もそっちの会話に積極的に参加してる。
あ、暇そうにしてる人発見。
よし、マイク持ってくか。
「はい、周防くん」
僕は周防にマイクを差し出す。
「歌えと?」
そうそう、と僕は頷く。
「無理にとは言わないけどさ」
「……まあ、せっかくのカラオケだもんな」
お、歌うのか。
「その前に……ほら、久しぶりに会ったんだしちょっと話そうぜ、平坂」
周防は手に持っていたマイクを一度テーブルの上に置いた。
「ん? いいけど」
なんか気になることとかあるんだろうか。
「そうだなぁ。まず、冬野は元気か?」
「……あれかな? 周防くんは親戚のおじさんなのかな?」
僕は周防の隣に腰を下ろす。
「しょうがないだろ、大学別なんだし冬野と直接会ってないんだから」
「会ってたら僕がお前を殺す」
「え? 殺……ちょ、怖ぇよ?」
僕はニコリと微笑みかけた。
「……お願いだから、冗談って言ってくんない?」
「ふふ」
どうだろうね。
「……ていうか、それで言ったらお前この前里菜と会ってたろ」
「それは、ほら……なんか、僕らってビジネスパートナーみたいな感じになっちゃってるし」
僕の説明に周防も「そうなんだよなぁ」と納得したように。
「……あのさ、周防くん」
「うん?」
「そういえばなんだけどね?」
「どうしたよ?」
「いや、単純な疑問で。周防くんは今日何のためにこの集まりに参加したの?」
特に衣装組に参加するわけでもないだろうし。
「…………俺も里菜と一緒に居たかったし、お前とも久しぶりに会いたかったんだよ」
そう言って周防は椅子から立ち上がった。そして、曲を入れるためにタブレットの置いてある方へと近づいていく。まあ、照れ隠しってやつだろう。
「ほら、平坂。マイク」
あ、僕もか。
というか、僕も知ってる歌だし。春木の方をチラリと見るとテンション上がってるみたいだ。
「しかたないなぁ」
「女神の美声、ってやつ? 聞かせてくれよ」
女神ってねぇ。
「僕、思っくそ男の声なんじゃが?」
僕もマイクを受け取って立ち上がる。
旧交を温めるとしよう。いや、そこまで古くはないんだけどね。




