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アフター1-6 人それぞれの悩み

 とあるファミレス、うん……マストだ。マストに僕はいる。

 僕の左隣には美月がいて、向かい側に日織さんが座ってる。

 

「美月、ポテト頼もっか」

 

 僕の提案に嬉しそうにキラキラと瞳を輝かせ、こくこくと美月が頷いた。

 

「それとドリンクバーもつけちゃおう」

「おお」

 

 ふふふ、そんなに喜ばれたらもっと色々食べさせてあげたくなっちゃうなぁ。

 

「日織さんは何食べるか決まってます?」

「……そうだね。ならわたしはオムライスにするよ」

 

 僕は……なんにしよっかなぁ。いろいろ気になるけど無難にハンバーグにしようかな。

 

「わたしは……これ気になる」

 

 美月の指差したのはグリルチキン。パリッとジューシーで、少しスパイシーとのこと。

 

「……僕にも少し分けてもらえる?」

「燿のも分けてくれるなら。何頼むの?」

「僕はハンバーグにしようかなと。ソースはデミグラスで」

 

 全員メニューが決まったことで店員に伝えるとさっそく美月がドリンクバーを取りに行った。僕と日織さんの分も取ってきてくれるとのこと。

 

「仲、いいんだね」

 

 ドリンクバーのマシンに向かった美月の背を見つめながら日織さんが呟いた。

 

「ええ。それは僕ら相思相愛ですから」

「…………妹とその彼氏のイチャイチャを見せられるのってすっごい複雑なんだけど?」

「まあまあ。お義姉さん、長い付き合いになるんですから」

「お義姉さん、かぁ」

 

 少し考えるような顔をした。

 

「……しょうがないか」

「それで、就活の方はどうですか?」

 

 僕が聞くと「……考えたくなかったー!」と頭を抱えてしまった。

 

「美月と付き合ってるってのでいろいろ気になり過ぎて……」

「日織さんは就活生なんですから」

「あの写真送ってきた君が言う……!?」

 

 あ、あれは美月に頼まれたからしかたなかったんじゃよ。

 

「…………なんか、さ。美月、変わったね」

「かもしれませんね」

 

 僕には冬野家での実際の美月の様子ってのは詳細にはわからないけど。でも、見てきたであろう日織さんがそう言うのだから。

 

「楽しそうだし、幸せそうだ」

「……そう見えるんなら彼氏冥利につきますね」

 

 日織さんが「お兄ちゃんも、今の方が幸せなのかな」と呟く。

 

「魁星さんも?」

「……そう。お母さんはお兄ちゃんに対してすっごい怒ってたけど、ちょっとさ……羨ましいって思ったんだよね」

 

 しみじみと呟く。

 

「わたしは、さ。お母さんに怒られるのが怖くてしかたないんだよ」

 

 そうして溜息を吐き出した。

 

「お兄ちゃんみたいに、本当になんでもできるわけじゃない。美月みたいに頼れる誰かが助けてくれるわけじゃない。だから、お母さんのところから離れる勇気がない」

 

 そこまで居心地がいいわけでもないのに。

 

「所詮凡人なんだよ、わたしは。たまたま今までなんとかなってきたけどさ……凡人にはお母さんの期待が重すぎるんだよね」

 

 優秀なお兄ちゃんにかかってた期待が全部のしかかってくるんだもん、と日織さんが卑屈に笑う。

 

「お母さんが紹介してくれる会社に落ちる度、顔を合わせるのが怖くなってきてるんだよね。次会った時になんて言われるのか、とか。自分はなんて言い訳しよう、とか。そういうことを考えてる」

 

 それは、健全な家族関係とは言えないと思う。いや、美月への態度でわかってはいたけどさ。

 

「……ごめんね。普通に考えたら、いきなりこんな話されても困るよね」

 

 僕は少し考えて。

 

「この話って、他にも誰かに話したりしたんですか?」

「誰にも話してないよ……ただ、幸せそうな美月を目の当たりにして口が滑っちゃった」

 

 申し訳なさそうな顔をする。

 

「別に迷惑でもなんでもないですよ。それに、ちょっとでも力になりたいって思える人間は一人増えましたから」

 

 僕が笑みを返せば日織さんは黙り込んでから「…………ずるい」と呟く。

 

「浮気はダメだよ、燿?」

「いやいや、してないよ!?」

 

 戻ってきていきなり何を言い出すの!?

 僕は美月一筋なんだから!

 

「うん、知ってる。冗談」

 

 そういって美月はジュースの入ったグラスを置いて席に座る。


「姉さん」

「…………」

「…………わたしは姉さんのことなんでもそつなくこなす人って思ってた。だから、今回もそつなくやると思ってた」

 

 美月はまっすぐに日織さんを見つめてる。

 

「器用だって。要領いいって。でも……そうじゃないんだ」

「…………」

「姉さんも……兄さんも、みんな同じ。それぞれに悩みがあるんだ」

 

 美月が「わたしは……姉さんが悩んでるなら、燿と同じで力になりたい、と思う」と言う。

 

「わたしが……燿と、友達と、兄さんに助けてもらったから」

 

 日織さんが震えそうになる声を無理やりに抑えて、潤んだ目をして「ありがとう」と小さな声で告げた。

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