85話 番外編Ⅵ ~あの日、私が失ったもの2~
お母さんは、周りに聞こえない様に、収納スペースの隙間から私に話しかけてきた。
「ユイ。いい? よく聞いて」
「これから先、何があっても……絶対にそこから出てきては駄目よ」
「お母さん……?」
「本当は、まだまだいっぱい喋りたいことはあるけど……時間がないから」
「お母さん、死んじゃ嫌だ!」
「ユイ。あなたは自分の思うまま、好きなように生きなさい」
「ユイならいつかきっと、綺麗な色をいっぱい作れると信じているから。頑張ってね」
「あなたの夢が叶う事を、ずっと見守っているからね」
「それと……今回の事を、決して自分のせいにしない事」
「大好きよ、ユイ。私の子供に生まれてきてくれてありがとう」
そしてお母さんは、皆と一緒に馬車から降りて行った。
遠ざかる足音。私を置いて。
「ユイちゃんは見つかっていないと思うか?」
「ああ、あの馬車は特殊だから、あそこに収納スペースがあるのはわからないはずだ」
「そうか、じゃあ出来るだけ、ここから遠くに離れるぞ」
「ああ、わかっている」
「私がおとりになります。その間に反対側に逃げてください」
お母さんの声だ。
「バカを言うな!」
「どうせ死ぬなら、俺は誇れる死に方をする」
「そうだ」
「……わかりました。ごめんなさい」
「じゃあ行くぞ」
「オヤジ」
「何も言うな、わかってる」
「ああ、そうだな」
「わしが絶対に道を開ける、二人はユヅキさんを護衛しながら走り抜けろ!」
「わかった!」
無駄な事だと誰もがわかっていた。
戦った経験すらないおじさんが、武装した盗賊を倒す事なんてできないだろうと。
「うおおおおおおおお!!」
両手に鎌を持ったおじさんは盗賊に突っ込んでいったけど、相手に触れる事無く斬られた音がした。
でも、おじさんは倒れなかった。
倒れる事無く、盗賊の群れの中に入って行った。
目的の為に命を捨てる覚悟をした人は、簡単には死ななかった。
斬られても、刺されても、腕をもがれても……動ける限り鎌を振るった。
結果、そこでおじさんは油断していた5人もの盗賊を道連れにして、一瞬の道を開いた。
「今だ! 走れ!!」
3人で走り抜けたけど、盗賊の数が多すぎて直ぐに追いつかれてしまった。
でも二人の息子も父親と同じように、出来るだけ多くの盗賊を道連れにしようとした。
腕を斬られても、足を斬られても、這いつくばってでも盗賊に噛みつき、武器を振るった。
最終的に20人程いた盗賊は、10人以下にまで減っていた。
農民の捨て身の特攻は、盗賊たちを恐怖させるに十分だった。
けど、さすがにそれが限界だった。
リーダーらしき盗賊が出てきて、二人は首を跳ねられてしまった。
「ちっ、こんな雑魚に何手間取ってんだアホが」
お母さんは捕まり、リーダーらしき男の前に連れて行かれた。
私は隙間からその光景を見ていた。
お母さんは、魔法を使わなかった。
いや、使えなかった。魔法の触媒を装備していなかったお母さんは、ただの無力な女として捕まった。
そして、大勢の男達に……犯され続けた。
獣のような声と、下卑た笑い声。
でも、お母さんは表情ひとつ変えず、声も全く出さなかった。
痛みに耐え、屈辱に耐え、ただ一点を見つめていた。
もし「助けて」と叫べば、もしそれを見て私が悲鳴を上げれば、私が気づかれてしまうかもしれないから。
泣き叫び、命乞いをする姿を期待していたのか、盗賊達は苛立ち始めた。
「なんだこいつ、つまらねえ女だ」
「声ひとつ上げねえぞ?」
「気味のわりぃ」
リーダーが刀を抜いた。
「つまらねえ」
ドスッ。
お母さんは、最後まで私を守り抜いて、死んでしまった。
「おい、馬車の中も探したか?」
「ああ、荷台は空っぽだ」
「ちっ、引き上げるぞ!」
そして盗賊達が去った後。
私は這い出して、変わり果てたお母さんの横に座り込んで泣き続けた。
声が枯れるまで、涙が枯れるまで。
それから数日後。 街からの捜索隊の人が来て、衰弱した私とお母さん達の遺体を馬車に乗せて街へ戻った。
それが、私の記憶。
私が男を憎み、強さを求め、そして……**「復讐」**を誓った原点。
読んでいただきありがとうございます。
基本は一週間ごとに更新するつもりです。
ただ状況によってはきりのいい所まで連発で投げるかもです。
また今後の展開について。R15に収まるように調整はしていますが、残酷な描写や、少しHな描写が入ってきます。この事を不快に思ったり、苦手な方はここで閉じていただき、続きを読むのは控えてください。
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