210話 オーク討伐
「……わかった。やってみる」
覚悟を決めたメティナとテミスが、深く深呼吸をする。
二人はそれぞれ、契約している中位精霊のエフェイルとリリナを召喚した。
淡い光が集まり、美しい精霊たちが姿を現す。
「エフェイル、あれをするよ」
「リリナもお願いね?」
「わかった~! 目標はアレかな?」
「うん、あのオークの群れだよ」
私たちは、地響きを立てて蠢くオークの群れに向かってゆっくりと歩を進めた。
最初は向こうもこちらを警戒して立ち止まっていたが、距離が残り百メートルを切った瞬間。
「ブゴォォォォォッ!!」
一斉に醜悪な咆哮を上げ、巨大な肉の塊たちが私たちに向かって猛突進を開始した!
地鳴りが響き、土煙が舞う。控えめに言って、トラウマレベルの恐怖映像だ。
メティナとテミスは目を閉じ、必死に詠唱しながら魔力の調整に集中している。
このままじゃオークの突進に轢かれてペチャンコだ。
仕方ない、少しだけ手助けをしてあげよう。
私は右手を前に突き出し、魔法を口にした。
「『ゲフェングニスウォール(牢獄の壁)』!!」
ズゴゴゴゴォッ!
私の声に呼応し、私たちの前方に巨大な黒く輝く光の壁が、地面を割って出現した。
「えっ!? 何これ!?」
「これ、結界!?」
「うわ~、高すぎて端が見えないよ!」
仲間たちが驚きの声を上げる中、猛スピードで突っ込んできたオークたちが、次々とその黒い壁に「ベチャッ!」と激突して鼻を潰していく。
「ははは、やっぱりユイは凄いね」
ディネが感心したように拍手をする。
「これはただの結界じゃ無く、闇属性の相手を閉じ込める魔法だよね? それを長方形の巨大な壁の形に『形体変化』させたのね?」
「正解。さすがディネ、よくわかったね」
「こんな事、常識外れの莫大な魔力を持っていないと絶対に出来ないよ。それに、本来の魔法の理をねじ曲げるとんでもない力業だよ、これ」
オーク達は黒い光の壁に向かってドスンドスンと攻撃を仕掛けているが、壁はびくともしない。完全に足止めに成功している。
「ユイ~! 準備が終わったみたいだよ!」
ブルーナの声が響く。
見ると、メティナとテミスの周囲に凄まじい密度の魔力が渦巻いていた。
「じゃあ、壁を解除するよ? 三、二、一……ゴー!」
私が障壁を消し去った瞬間。
テミスとメティナの渾身のシンクロ魔法が、オークの群れに牙を剥いた。
「「≪カタストロフィ≫!!」」
ドギュゥゥゥゥンッ!!!
水と風を極限まで融合させた上級魔法が炸裂した。
局地的な大竜巻が発生し、無数の水の刃がチェーンソーのように回転しながらオークの群れを飲み込む。
轟音を轟かせ、指定された範囲内のモノは全て――文字通り、巨大なオークの肉体ごと、ねじ切られながら粉微塵に消し飛んでいった。
「ふう~……っ、疲れたぁ~」
「せ、成功してよかったぁ~」
魔法が収まると同時、メティナとテミスがその場にへたり込んだ。
「うん、よく出来たね!」
「二人とも、魔力自体はまだ低いから威力は弱いけど、魔法の構成とコントロールは完璧だったね」
私が褒めると、ディネも満足そうに頷く。
「ありがとうございます」
「ユイの壁のお陰で、落ち着いて発動できたよ」
私はアイテム袋から取り出したMP回復薬」を二人に渡した。
「はい、これ飲んで休んでて」
「「ありがとう……」」
「さて、残りの生き残りは殺っていいよ?」
「本当!? じゃあ私が貰うわ!」
竜巻の範囲攻撃からギリギリ生き残っていた一匹のオークに、リアが嬉々として突進する。
「ああっ! リアだけズルい~!」
マニカも慌てて後を追いかけたが、リアの刀が一閃した瞬間、オークは綺麗な縦半分になって倒れた。
瞬殺である。
「ふふふ、二人の魔力コントロール、急成長してるね。これはもっと、もーっと、厳しく教え込まないとね~」
ディネが恍惚とした表情で呟く。
「「…………っ!!」」
メティナとテミスは再び涙目で私を見てきたが、私は無言で顔を左右に振って全力で目を逸らした。
「それにしても、エフェイルとリリナも、まだ中位精霊なのにあんな高度な上級魔法をよく制御出来たね」
私が精霊たちを撫でると、リリナがクスッと笑った。
「私達も、今は成長を望んでいるからね。あの子たちが出来ると思ったから、あえて無茶な魔法を教えたんでしょう?」
「そうね~」
「リリナ達って、生まれてからどれぐらい経ってるの?」
「まだ五百年ぐらいだよ」
「五百年!? いや、人間からしたら大先輩だけど……そっか、精霊の世界じゃまだまだヒヨッコなんだね」
「うん。あの規模の魔法を安定して使うなら上位精霊にならないと難しいんだけど、五百年じゃあ普通は力が足らないのよ」
「長い時間を生きれば生きる程、力が増すって事?」
「まあ、簡単に言えばそうだよ。もちろん、自ら力を求めて修練を重ねれば早く力を得る事は出来るけど……基本的に楽しい事しか考えない私達精霊が、あえて辛い修練をするなんて滅多にないからね」
「そっか。リリナ達は、テミス達の為に強さを求めて一生懸命頑張っているって事ね」
「うん!」
精霊達って、やっぱり優しくて健気な子が多い。ホッコリするなぁ。
「ちょっといいかしら?」
不意に、オークの死体を検分していたリアが声を上げた。
「どうしたの?」
「私が止めを刺したこの一回りデカいオークなんだけど、アレってレアタイプじゃ無くて、『ロード(王)』かも?」
「えっ!?」
私たちは慌ててその死体の元へ駆け寄った。
「本当だ。 ただの腰巻きじゃなくて、無駄に豪華な鎧の切れ端着てるし、なんか王冠っぽい骨の兜被ってる!」
「装備とか戦利品のドロップアイテム見ても、間違いなくオークロードだよね、これ」
「え? じゃあ、ギルドで言われてた『クーラの街近郊のオーク被害問題』って」
「うん。多分、これにて解決! って事かな」
押し付けられた地味な依頼が、まさかの道中のワンパンで片付いてしまった。
「まあ、取りあえずコレの討伐証明部位は、クーラの街の冒険者ギルドに持って行って確認してもらおうね」
「うん、そうだね」
「じゃあ、アイテム袋に回収するよ~」
こうして私たちは、予想外の特大ボーナス(オーク王の素材)をゲットし、再びクーラの街を目指して歩き出したのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
私事で大変申し訳ありませんが、今後の投稿(更新)間隔に関する予定を活動報告に記載しておきます。
また今後の展開について。R15に収まるように調整はしていますが、残酷な描写や、少しHな描写が入ってきます。この事を不快に思ったり、苦手な方はここで閉じていただき、続きを読むのは控えてください。
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