208話 オーク討伐依頼
翌朝。
ミリルナの街を出発する前に、私たちはやらなければならないことがあった。
『ミリルナの転移魔法陣を起動させること』だ。
そして予定通り無事に転移魔法陣を起動(解放)させた私たちは、そのまま街の出口へ向かって歩き出した。
その途中、ふと大きな建物の前を通りかかる。剣と盾の看板が掲げられたその場所は――『冒険者ギルド』だ。
「ちょっと寄って行かない?」
誰からともなくそうなり、私たちはギルドの扉を押し開けた。
ギルドの中は、朝から一仕事終えたのか、あるいはこれから向かうのか、屈強な冒険者たちでごった返していた。
むさ苦しい男たちの熱気。そのフロアに足を踏み入れた瞬間。
――ピタッ。
ギルド内の喧騒が、嘘のように止まった。
そして、昨日街に入った時と同じ現象が起きた。リアとマニカの顔を見た瞬間、男どもが一斉に顔を引き攣らせて視線を反らし、壁際に張り付くように道を空けたのだ。
「マニカ?」
「ん? 何~?」
「あんたたち、この街で一体何したの?」
「えええ~? 何もしてないよぉ?」
マニカは首を傾げて無実を主張する。
「いや、絶対なんかしたでしょ! この男たちのビビりよう、異常なんだけど!? まるで天敵に出会った草食動物じゃん!」
「ねえ、リア? 私たち何もしてないよね?」
「そうね。いつも通りに、絡んできたバカどもをちょっとシメただけよね?」
「ほら! やっぱり物理的にシメてたんじゃん! 『ちょっと』の度合いが絶対おかしいから!」
「何にビビってるのか、直接聞いてみたら?」
リアがスッと冷たい視線を向けながら、近くにいた大柄な戦士風の男に一歩近づく。
「ヒ、ヒィッ!! お助けェッ!」
男は情けない悲鳴を上げて、脱兎のごとく逃げ出した。
それを皮切りに、「やべえ、目をつけられた!」「逃げろ!」と、男たちは我先にと冒険者ギルドから飛び出していってしまった。
嵐が過ぎ去った後のフロアには、ポツンと残された女性冒険者数人と、呆然とする私たち、そしてカウンターの奥にいる職員だけになってしまった。
「まあ、空いてるから掲示板もゆっくり見れるし、いっか」
私がポジティブに思考を切り替えようとした、その時。
「よくありません!!!」
バンッ! とカウンターを叩く音が響き、いつの間にか受付嬢のお姉さんが私の隣に仁王立ちしていた。笑顔だけど、目が全然笑っていない。怖い。
「もう、マニカさん、リアさん! 無暗にウチの冒険者を脅さないで下さい!」
「え~、何もしてないよ?」
「してないわね。ただ立ってただけよ」
「してます! 物凄く冷たい氷のような目で、男達を威圧してました!」
「え~」
受付嬢の剣幕に、さすがのリアも少しだけたじろぐ。
「じゃあ、どうしろって言うのよ?」
「ニコニコ笑って下さい!」
「え? いや、私はそんなスキルは持ってないわ」
「それが出きるのは、ブルーナとメティナとテミスぐらいよね~」
いや、この世界にそんなスキルなんてないでしょ。
「ん!? ちょっと待って。私は?」
名前を呼ばれなかった私が思わずツッコミを入れると、全員が一斉に私を見た。
「え? ユイの男を見る視線は、私達よりもっと冷たいでしょ?」
「えっ」
「そ、そんな事無いよ! 私はいつも愛想よく笑顔で・・」
「「「え~?」」」
リア、マニカ、さらにはメティナたちまでが、疑いの目を向けてくる。
「自覚ないのかしら?」
「ね~」
マジか。私、自分のこと愛嬌のある美少女ポジションだと思ってたのに、周りからは「男をゴミを見るような目で見る氷の女王」みたいな扱いだったの!? ちょっとショック!
「もう、とにかくギルド内では威嚇禁止です! それに、二人ともせっかく可愛いんですから、そんな顔してたらもったいないですよ!」
受付嬢さんがビシッと指を差す。
「うん、うん、それは同意するよ」
「あと、あなたたちのせいで今日の仕事(依頼を受ける冒険者)がいなくなってしまったので、責任取って何か依頼を受けて下さい!」
「え? いや、私達は旅の途中だから、、」
「どこの街まで行く予定ですか?」
「一応、クーラの街だけど」
「じゃあ、丁度良い依頼があります! これ! これをお願いします!」
半ば強引に、受付嬢さんは一枚の依頼書をバシッと私たちの前に突き出した。
「えーっと……『オークの討伐』?」
「はい!」
「最近、クーラの街の近郊でオークの被害が多発しているんです。まだ未確認の噂レベルですが、上位種の『オーク王』がいるのではないかとも言われています」
オークかあ。ただの凶暴でデカい豚の魔物で、美味しいお肉の供給源って感じだけど。
「なので、旅の途中でオークを見かけたら、ついでに討伐をして欲しいのです」
「なんか地味な依頼ね」
リアがつまらなそうに言う。
「でも、クーラの街に着くまで何も見かけなかったら、依頼失敗になって違約金とか取られるんじゃない?」
私が懸念を口にすると、受付嬢さんはブンブンと首を振った。
「それは大丈夫です。この依頼は『オークを見かけたら討伐』という条件付きですので。遭遇しないままクーラの街に着いて、向こうのギルドで依頼の取り消しをしても、失敗扱いにはなりません」
「なるほど、ノーリスクってことね。オークのランクはどれぐらいの魔物なの?」
「オーク自体はランクBです。個体の種類や、討伐した数によって報酬額は変動します」
それなら悪くない。道中のちょっとしたお小遣い稼ぎ、もしくは食料調達だ。
「わかった。じゃあ、その依頼受けるよ」
「ありがとうございます! 助かります!」
こうして私たちは、半ば押し付けられるようにオーク討伐の依頼を受け、ギルドを後にした。
改めてミリルナの街の出口をくぐり抜け、クーラの街を目指して、私たちの旅が再び幕を開けたのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
私事で大変申し訳ありませんが、今後の投稿(更新)間隔に関する予定を活動報告に記載しておきます。
また今後の展開について。R15に収まるように調整はしていますが、残酷な描写や、少しHな描写が入ってきます。この事を不快に思ったり、苦手な方はここで閉じていただき、続きを読むのは控えてください。
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