女王やめます
クロエは他の人たちの視線に耐えきれず、ジュリアとカイルに言った。
「これだけの方がいらっしゃれば安全ですので御二方もお忙しいでしょうからどうぞお構いなく……」
「何かあったら言うのよ」
「すぐに逃げてこい」
二人がいなくなった途端クロエの噂話が始まった。
覚悟していたのだが実際聞くと嫌な気分になる。
「自分の血がつながった人を殺すなんて」「本当可愛い顔して好戦的ね」「計算高いのよ」
人の悪意の源は嫉妬だ。
努力しない人間は常に誰かを羨む。
物語の一部だけを切り取って新しい物語を自分の都合よく解釈して相手を蔑むのだ。
クロエは黙って聞いていた。
物の見方を変えると彼らが言っている事は事実なのだ。
「そういえば、エイミー様の注文されたドレス、誰かさんの横やりが入ったせいで今回間に合わなかったらしいわ。本当やる事えげつない。」
クロエは思った。ああ、このドレスのことね。あ、そういえばこのデザイナーは私の感謝祭の姿を見て作って下さったと聞いたわ。
改めてお礼を言わないと、、、。こう言う悪口も役に立つのね。
クロエは少し微笑んだ。
「ちょっとご覧になりました?今のお話で笑っていましたわよ。」「なんてこと」
クロエは馬鹿馬鹿しくなってきた。悲しいことでも思い出して悲しい顔でもしてみようか。
「ちょっと、あの短い髪、淑女が、女王があんな髪をしているなんて。」
「いくら国の行事だからって、国民のために髪を差し出すなんて下賎な国の考えはわかりませんわ」
「本当、威厳もないのね」
クロエはこの言葉を聞いて黙っていられなくなった。
自分のことは良い。だけど自分の国の国民を馬鹿にされた主人は戦う時なのだ。
クロエは陰口を言う女の前に立ち言った。
「私の考えは、国民あっての私です。国民のためなら髪どころか命も差し出す覚悟があります。私の国の国民を馬鹿にした貴方に私は命をかけて抗議致します。今すぐその発言を撤回なさって下さい」
「私の悪口なら甘んじてお受けいたしますが、国民の事は断じて受け入れるつもりはございません。」
女達はクロエの迫力に圧倒され震えている。
クロエは本当に命をかけて抗議しているのだ。
皇帝が主催するパーティーでこのような問題を起こすことは許されないと知っている。
だけどだからといってクロエは自分の信念を曲げるつもりはない。
最悪クロエがその罪で死んだとしても、あの国はやっていけるところまで成長した。
こんな人生でもいいかな、、そう思った。
「髪の毛の事を言っているの?」いきなり三人のうちの一人が言った。
「髪?髪がどうしました?」
「あなた私達の髪が羨ましいのでしょう?だからお怒りになったのね」
クロエは驚いた。全然違うんだけど、、はぁ、ため息をついた。
冷静になって周りを見渡すと人が幾重の輪になりクロエ達を取り囲んで見ている。
「え、、と、髪?のことではありません。国民の為だったら髪くらいなんてこと無いと言いたいのです。」
「そんなわけないわ!淑女たるもの髪は長く美しい方がいいのよ!!」
三人はお互いを見て頷きあっている。どう説明したらいいのかしら?
クロエはある意味で吹っ切れた。
「髪、、髪なんて国民じゃなくても捧げますわ。今あなた方にも捧げましょうか?但し、先程の発言を撤回してくれると約束下さい」
クロエは条件を出した。
三人はクロエがそんなことが出来るとは思っていなかったので承諾した。
「いいですわよ。貴方が私達に髪を捧げるなら土下座でもいたしますわ」
「その言葉決して撤回されぬように。。」クロエはそう言って近くにいた騎士に剣を借りた。
「承認は今ここにいる皆さんです」クロエはそう言って前下がりになっているサイドの髪を握ってバッサリと切った。
会場がどよめいた。
その切った髪を持って三人の淑女の前で髪を手から離した。
サラサラと舞いながら下に落ちていく髪は美しかった。
まさかクロエが本当に髪を切るとは思っていなかった三人は震え泣いていた。
そんな三人を見下ろし相手にする価値もなかったと思いクロエは騎士に剣を返し、この馬鹿馬鹿しい会場から出て行った。




