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だからあなたは愛せない  作者: 篠月珪霞


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年号を確認し、わたしは現在9歳なのだと知った。残されたのは、あと8年ということになる。

その間に優先してやるべきことは、人脈作りもだが、魔法の鍛錬もある。特に真っ先に覚えなければならないものがいくつか。とはいえ、過去に素地ができているから、教師も教本も不要。後は練度を高めるための訓練と実践といったところ。

婚約の話が出るまでに、収得が必須だ。使えるだけでは及第点、綻びがないくらいに使いこなせなければ、今後に差し支える。

授業は科目が少ないので兄と比べると自由時間は多いが、日中は人の目が多すぎて練習すら憚れる。完全にひとりになるのは就寝するときくらいだから、鍛錬は夜に集中してやるしかない。

攻撃系の魔法でないのは、室内で実践できる分、よかったというべきだろう。


さて、空いた時間はどうするか。この年齢のときの行動を思い出してみる。

確か、余暇は散策やお茶会にほぼ費やしていたような記憶だ。…本当に何もしていなかったことに我ながら頭痛を覚える。

やるべきことは多いが、あまり今までと違う動きをすると怪しまれかねない。下手に人を使うと内容含めて家族の耳に入るだろうから、ある程度の知識は書物で得るつもりなのだが。

わたしが図書館に通い詰めても不自然でないように、徐々に書物に触れていくことにしよう。

城内であれば、基本的にわたしの行動は制限されない。侍女と護衛がついてくるくらいである。

手始めは、女性が興味を持ってもおかしくない物語を中心に、段階を踏んで行こうと思う。




「最近、図書館によく顔を出しているそうね、ヨセフィーナ」


食事の席で母にそう言われたのは、2週間ほどしてからだった。

父はともかく、母の執務は最小限らしいと侍女たちの噂話を耳にしたのはいつだったか。何せ、頻繁にお茶会を開いていて、王妃として他の公務はどうなっているのか疑問に思っていたら、なるほど放棄に近い状態だったのかと納得したものだ。

わたしよりもある意味で時間は余っているだろう母は、貴族の社交くらいしかしていない。

本来なら、孤児院や修道院などの視察や援助、慈善事業、奉仕活動なども公務のうちであるというのに。

家族の動向に目を配っていたら、色々と思うところが出てくる。

公務の件もそうだが、わたし個人に対する対応に関しても。

わたしは愛されているし、可愛がられてもいるが、やはりそれは、飼っている愛玩動物を気紛れに構うようなものなのだと。

情がないわけでは、たぶんないのだろうけれども。


「はい。侍女から聞いて、興味を持ちまして」

「ほお? 今は何を読んでいるのだ?」

「王女と騎士の恋物語です。現実にはあり得ないですが、展開が非常に面白くて」

「なるほどなるほど。お前もそんな年頃になるのだな…」


無難な答えを返したわたしに、感慨深そうに父がしみじみと呟く。

毒にも薬にもならない内容。わたしが手に取ってもおかしくない本。

最近読んだ本であることは間違いないので、もし何かを聞かれても閊えることはない。


「お前もそろそろ、婚約者を決めねばなるまいな」


選定を始めた頃ではと思っていたので、その言葉は何らおかしいものではなかった。

だが内心を隠し、戸惑いの表情を浮かべて見せる。


「ですが、お兄様の婚約もまだですのに…」

「私はもう少し様子を見てから決めようと思っているから、気にせずともいいよ」

「そうなのですか?」

「ああ。未来の王妃となると、基準や資質というものがあるからね」


前回で婚約が決まったのは、学園に入ってからだった。

彼(・)女(・)が元から非の打ち所がない淑女であったことはともかく、兄との婚約を承諾したのは別の企みもあったからなのだろう。

年齢差で言うと、わたしとマテウスは同年、カタリーナは1つ上、兄が2つ違いである。


「わたしのお義姉様は、どんな方になるのでしょうね」

「フィーナとの相性がいい女性を選ぶつもりだよ」

「そこは、お兄様の相性ではありませんの?」

「それは大前提だからね」

「…そうですわね」


朗らかに笑う兄に、苦笑を返す。それもそうだ。

家格は言うまでもなく、人柄、教養、品格、それに相性。

王妃とは国の象徴に並び立つ存在だ。

では、カタリーナは兄のお眼鏡に叶ったということか。


「いい相手が見つかるといいな、フィーナ」

「…はい」

「私が選ぶのだから、間違いなどあるはずがないではないか」

「そうでしたね」


そう言って笑い合う、わたしの家族たち。

和やかな会話であるはずなのに、どこか空々しく、虚しかった。




マナー講師には完璧とのお墨付きをもらい、教養などの授業を淡々とこなし。

図書館でわたしの姿を見るのが不自然でなくなった頃には、今まで知らなかったこと、知りたかったこと、知識は積みあがっていって。


『知識は、重さのない財産だよ。そして武器でもある』


いつかの、彼の言葉を思い出す。

…本当にそうね。




──緩やかに見せた忙しい日々は過ぎていく。

そうして1年が経ち、わたしの婚約が決まる。

相手は、リンドロート侯爵家嫡男、マテウス=リンドロート。

かつての、婚約者だった。




俺たちの戦いは~には、残念ながらなりませんでした(笑)。

次回、かつての婚約者と会うの巻。

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