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万象の魔女、子育て奮闘中!~娘は全員マザコン、4人目は召喚獣付き~  作者: 浅沼まど
第5章【 赤ん坊がいると、全員おかしくなります 】

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第27話『最終兵器はお母さんです』

 フェニックス騒動の翌日。花籠の館で、緊急家族会議が開かれた。


 食卓に全員が揃っている。ダリア、カミリア、マギー、そしてリリアーナ。赤ん坊は揺り籠の中で眠っている。光の玉が一つだけ浮かんでいるが、マギーが指先でぽふっと消した。もう慣れたものだ。


 ダリアが仕切った。会議の進行は長女の仕事だ。


「状況を整理します。この子の召喚魔法には三つの発動条件がある」


 食卓の上に紙を広げた。箇条書きが書かれている。騎士団の作戦報告書と同じ書式だった。


「第一条件。泣く。中型から大型の魔獣が召喚される。昼間に発生しやすい」

「第二条件。眠る。小型の光の玉が漏出する。夜間に発生。じわじわと増殖する」

「第三条件。笑う。予測不能。フェニックスの幼体が出た。最も危険度が高い」


 整理されると改めて絶望的だった。泣いても出る。寝ても出る。笑っても出る。


「つまり、この子が何もしていない時間——起きていて、泣いておらず、笑ってもいない状態——だけが安全です」


 カミリアが首を傾げた。


「それって、きょとんとしてる時だけってこと?」

「そうなります」

「……赤ん坊にきょとんとし続けろって言うの?」

「言えません。だから対策が必要です」


 ダリアが各自に視線を向けた。


「対策案を聞きます。カミリアから」


 カミリアが眼鏡を直した。学院の首席が、魔法理論の観点から分析する。


「魔力抑制の術式を赤ん坊にかける方法はある。理論上は。でも赤ん坊の魔力回路はまだ発達途中だから、外から抑制をかけると成長を阻害するかもしれない。……やめたほうがいいと思う」


 リリアーナが頷いた。カミリアの見解は正しい。赤ん坊の魔力を無理に抑えれば、将来の成長に影響が出る。それは避けたい。


「マギー」


 マギーが護符を三枚、食卓に並べた。


「護符による軽減は可能です。揺り籠に施した護符で、眠っている間の漏出は三割ほど抑えられています。ただし、泣いた時と笑った時の爆発的な魔力放出は護符では受けきれません」


 三割。ゼロにはできないが、ないよりはましだ。


「お母様」


 ダリアがリリアーナに向いた。


「万象の魔法で完全に抑制することはできますか」


 できる。理論上は。万象の魔法ならば、赤ん坊の魔力を完全に封じることも不可能ではない。

 しかしリリアーナは首を横に振った。


「できるけど、しないわ」


 三人が顔を見合わせた。


「この子の力は、この子のものよ。抑え込むのは違うと思うの」


 あの夜、庭で見た光景を思い出す。赤ん坊の魔力が花に触れて、花弁が光った。あの光は、壊すための力ではなかった。触れて、応えて、繋がる力。

 この子の召喚魔法は確かに厄介だ。でもそれは、この子が持って生まれた才能でもある。封じるのではなく、付き合っていく方法を考えたい。


「では……どうなさるのですか」


 ダリアが困惑している。抑制できない、封じない、でも放置もできない。


 リリアーナは微笑んだ。


「出たものを、片付けるの。みんなで」


 単純な答えだった。魔法理論でも、騎士の戦術でも、付与魔法の技術でもない。ただの力業。出たら片付ける。全員で。


「ダリア。あなたは物理処理班。剣で対処できるものは、ダリアが一番速いわ」

「……了解しました」


「カミリア。あなたは魔法防壁班。召喚獣が暴れた時に、被害を最小限に抑えて」

「……わかった」


「マギー。あなたは護符班。軽減と、壊れたものの修復。あと、光の玉の日常的な処理」

「はい、御母上様!」


「そして私が——最終兵器」


 三人が黙った。


「私がいれば、大抵のものは何とかなるわ。フェニックスだろうと、ドラゴンだろうと」


 さらっと言った。さらっと言ったが、内容は凄まじかった。ドラゴンが出ても何とかなる、と言い切れる人間は世界にそう多くない。


 ダリアが報告書に書き加えた。


「花籠の館・召喚対策部隊。隊長、ダリア。防壁班、カミリア。護符班、マギー。最終兵器、お母様」


 カミリアが「最終兵器ってひどくない?」と呟いたが、全員が「正確だ」と思った。


 マギーがメモ帳を取り出した。


「聖典に——」

「「「記録しないで」」」


 三つの声が揃った。マギーがしょんぼりした。しかしリリアーナだけは笑っていた。


「マギー。聖典はだめだけど、活動記録なら書いてもいいわよ。対策部隊の日誌として」

「……活動記録! 承認されました!」


 マギーの目が輝いた。聖典ではない。対策部隊の日誌だ。崇拝の記録ではなく、家族の記録。マギーが家族の記録係になった。

 あの聖典出版の時と同じだ。聖典は却下するが、書くことは止めない。ただ、書く場所を変えてあげる。


 会議が終わった。紙の上には、役割分担と連絡体制と、カレンの名前が「支援班」として追記されていた。カレンはこの場にいなかったが、ダリアが勝手に書き加えた。


「カレンさんには後で伝えます」

「カレンに怒られないかしら」

「人手は多いほうがいいのは事実ですので」


 赤ん坊が揺り籠の中であくびをした。光の玉がぽうっと二つ浮かんだ。

 マギーがぽふっと消した。カミリアが「かわいい」と呟いた。ダリアが「油断するな」と言った。


 花籠の館・召喚対策部隊、結成初日。

 活動記録の第一行は、マギーの几帳面な字で、こう書かれた。


 『本日、対策部隊を結成。隊員五名(支援班含む)。最終兵器は御母上様。なお、御母上様は結成直後に自分のお茶を忘れた』

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