11話:転校生
「今のボール、絶対彩芽ちゃん狙ってたよね」
「ひでぇやつ」
確かに彩芽のことは狙っていた。しかしこれこそ彩芽の言ってたおあいこなのではないだろうか。普段彩芽は私に嫌なことをしてくるし、最近に関しては暴力を振るってくることもある。それなのに、私がドッジボールで彩芽を一度狙っただけでここまで言われるなんて、おかしいと思う。しかしこれを言ったところでクラスメイトたちは誰も信じないため、心にしまっておく。そしてこれは、おあいこにするためにしたことだから、私は悪くないと、自分に言い聞かせた。
10月8日、今日の教室はいつもとは違い、ざわついていた。なぜなら転校生が来るからだ。みんな転校生の子の事ばかり話している。それは彩芽も同じだった。
「転校生ってどんな子だろう?女の子だったらいいなー」
「そうだね」
私も正直どんな子が来るのか気になって少しワクワクしている。仲良くしてくれたらいいなと考えていたその時、担任の先生が教室に入ってきた。みんなは一斉に自分の席に座り、そのまま朝の会が始まる。
朝の会が始まってしばらく経った頃、先生が転校生を紹介し始めた。転校生は教室に入ってくるなり、黒板に自分の名前を書き始めた。
「若松奈月、です……よろしく、お願いします」
教室中は拍手で埋まった。そしてそのまま授業が始まり、中休みになった。中休みになった途端、クラスメイトたちは奈月ちゃんの机に集まり、質問責めをしている。私はそんな奈月ちゃんをみて、怖くないのかと思いながらも、彩芽と一緒に奈月ちゃんのもとに寄る。そして彩芽も質問責めに参加する。
「ねえねえ、奈月ちゃんってどこからきたの?」
「名古屋から……きた」
「へー、結構遠くから来たんだね!!」
「うん」
みんなすごいと言っているが、奈月ちゃんは満更でもなさそうな顔をしている。私も奈月ちゃんと話してみたかったが、みんなから避けられているため、なんとなくやめておいた。理由はわからないが、やめておいた方がいい気がしたからだ。すると奈月ちゃんが私の方をまじまじとみてきた。
「あなた……名前は??」
「え??」
突然私の方を指さして、名前を聞かれた。周りの子たちは私の方を見て気まずそうにしている。
「……私、平井遙」
「え、遙ちゃん??」
奈月ちゃんは私の名前を聞くなり、ギョッと驚いた顔をしている。
「幼稚園って、どこ??誕生日は??」
「えーっと、幼稚園はさくら幼稚園、誕生日は1月28日だけど……」
私は突然奈月ちゃんに質問責めされた。幼稚園、誕生日、好きな色、好きな動物。そして目を見開いた奈月ちゃんは息を呑んでこう言った。
「え、それって……もしかして、はるちゃん??」
はるちゃん。その呼び方に聞き覚えがあった。
幼稚園の頃、人見知りでなかなかクラスに馴染めなかった時、一人の女の子が話しかけてくれた。
「一緒に、遊ぶ??」
その一言が幼稚園時代の私を救ってくれた。それまでずっと一人だった私は、その日からはその子とほとんど一緒に遊んでいた。その子こそこの若松奈月、通称なっちゃんだった。
「え、本当の本当になっちゃんなの!?」
「うん、正真正銘、本物」
嬉しさと気まづさが同時にきた。みんなの前で二人だけでこんなに盛り上がっていいのかと考えつつも、久しぶりになっちゃんに会えたことへの喜びで複雑な気持ちになる。そんな中、1人のクラスメイトが口を開く。
「そのころの遙ちゃんとはもう多分違うと思うよ」
「どうして??」
「だって、遙ちゃんって影で彩芽ちゃんをいじめてるから」
心臓が跳ね上がる。なっちゃんに会えたことによって忘れていたが、クラスのみんなは今、彩芽が流したデマ情報を信じている為、私のことを酷いやつだと思っている。
「あれは嘘だよ!!遙があたしにそんなことするわけないじゃん!!」
「え、でも腕にあったあざは??」
「それは、本当に誤解で……私は、そんなことしてない!!」
シーンと静まり返る中、なっちゃんが口を開き、こう言った。
「それは私が、実際に見て、決める」
そこでチャイムが鳴り、みんなが席についた。私は少し緊張しながら、なっちゃんの席を後にする。なっちゃんは私の噂を聞いて驚いただろうか、嫌いになってしまっただろうか、せっかくまた会えたのに今後関わらなくなってしまうのか。でも最後のなっちゃんの言葉を聞いてまだ時間はあると自分に言い聞かせる。
昼休み、なっちゃんがこっちに寄ってきて、一緒に遊ぼうと言ってきた。私は即座に承諾して、一緒に校庭に向かった。
「はるちゃんは、いつもは何で遊んでるの??」
「普段は彩芽と一緒にいるよ」
「彩芽って、朝こっちに寄ってきた時に、一緒にいた子??」
「うん」
今改めて考えてみると、1週間のうち平日のほとんどは彩芽と一緒に過ごしていることに気がついた。紫苑と遊べるのは彩芽が学校を休んだ日しかないため、ほとんどは本当に彩芽だけだ。自分から彩芽に話しかけに行った回数はほぼゼロに近い。つまりこんなに毎日一緒にいる理由は、彩芽が私に寄ってくるからということになる。そう考えると恐ろしい。
「その子、置いてきてよかった??」
「大丈夫、今はなっちゃんと遊びたいから」
「ふーん」
なっちゃんは昔から勘が鋭いため、ちょっとした嘘もすぐ見抜かれることが昔はよくあった。今はどうかはわからないが、昔は本当に不思議なくらい当たっていたのをよく覚えている。
「はるちゃん、無理してない??」
「え?」
「なんか、無理してない??」
突然なんのことかわからなかったが、すぐに心当たりが出てくる。彩芽に関することだ。紫苑にも顔に出ているとよく言われるが、久しぶりに会ってまだ数時間しか経っていない人にもバレるほどなのだろうか。
「今は無理はしてないよ」
「じゃあ、私の勘違い、だったかも」
勘とは恐ろしいものだ。まだ彩芽のことを何も話していないのに、うっすら感じとっているなっちゃんはすごい。それか私がわかりやすいのか。どちらにせよ気がつくなっちゃんはすごい。そのまま私となっちゃんは2人で一輪車をして遊んだ。珍しく彩芽が来なかったことに少し驚きつつも、まあいいかの一言でことを済ませる。
それからというもの、私は1日のほとんどをなっちゃんと過ごすようになった。彩芽はというと、意外と寄ってこない。しかしところどころで彩芽と目が合うと、睨まれるようにはなった。しかしまあ別に大した問題ではない。なぜなら私にはなっちゃんがいるからだ。なっちゃんがいれば全然何が起きても大丈夫だと、私は思っている。
「まさか、はるちゃんとまた遊べる日が来るとは、思わなかった、正直嬉しい」
「私も、またなっちゃんと遊べて嬉しい!!」
こんな幸せな日々が毎日続くと思っていた。しかしそんなことはなかった。私となっちゃんが遊ぶようになってから、彩芽は彩芽で、何か考えている様子だった。
〜12話の宣伝〜
どもども、ろったりかです♪
彩芽が何やらせこい技を思いついたらしいですよ?^^
遙も大変ですねぇ……
ぜひその目でご覧ください!




