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第25話 ヒロインレースで敗北しそう

【早見綾乃──視点】


「はぁ~。モテる女は辛いわね」


 そう呟きながらも、ニヤケて上がった口角を自覚した私は、ゆっくりと口元を元のアルカイックスマイルの角度まで戻す。


『話があるから校舎裏に来て欲しい。 by2組男子 佐原慶喜』


 私の下駄箱に入っていたのは、ルーズリーフを折りたたんだ簡易な手紙だった。


 ──ふーん。校舎裏への呼び出しなんて、また古風ね。ママの書く、女にゲロ甘な小説みたい。


 まぁ、こんなシチュエーション、普通の女だったら、興奮しまくってその場で昏倒するか、鼻息荒く校舎裏に向かうんだろうな。


 でも、私は違う。


 何せ私は、クラスを束ねる正妻。

 俊英が集まるこの月詠学園の中でも、更なる上澄みの女子だ。


 正妻はこんな事で動揺なんてしない。


 そう思いながら、私は何てことは無いという風に、校舎裏へと向かった。


 ──まったく、私も罪な女よね。この男子が希少な社会において、複数の男から言い寄られちゃうなんて。


 自分の魅力が怖いな。

 まるで、ママの書く、妄想モンスターエンジン搭載の御都合展開ラブコメの主人公だわ。


「悪い。待たせたな早見」


 そんな事を考えていると、手紙で呼び出してきた2組男子、佐原君が待ち合わせ場所へ来た。


 割とシュッとした男子ね佐原君って。

 まぁ、うちの清彦の方が格好いいけど。


「い~え。うちの清彦君が仲良くしてもらってるみたいで。それで、何の用ですか? 佐原くん」


 その辺の女子なら、男子に話しかけられただけで舞い上がっちゃうんでしょうけど、そつのない私は極めてビジネスライクに佐原君に接する。


 冒頭に、自分は清彦の物なんだよという事をアピールする。

 だって、2組の女の子たちに誤解されちゃったら困っちゃうし~。


「単刀直入に聞かせてくれ早見」

「はい、なんでしょう」


 ──私とは初対面のはずだけど、妙に慣れ慣れしいわね佐原君。男子にしてはちょっと珍しいタイプだな。


「早見は、佐野清彦とは、もう男女の仲なのか?」

「……はい?」


「分かってる。この質問が、例えこの世界の男だったとしても、非常にデリカシーが無く不躾な質問であることは……。でも、大事な事なんだ! 答えてくれ!」


 目の前にいる佐原君は、とても真剣な目をして私に訊ねてきた。


「えっと……まだ、ですけど」


 その真剣な眼差しと気迫に気圧されて、私もつい正直に答えてしまう。


「マジかよ、ちくしょう!」


 そう叫ぶや、佐原君は頭を抱えてその場にうずくまった。


 ──え……。なんで、この人、私が処女な事を知って頭を抱えてるの? 普通に失礼じゃない?


 だが、そんな私の困惑にはお構いなしに、佐原君はすくっと立ち上がり、私の両肩をガシッと掴んでくる。


「いいか、よく聞け早見。君は今、ヒロインレースで敗北しそうになっている」

「……はぁ?」


「疑問はもっともだが、俺の方も混乱している。まさか、初期からこんなシナリオになるなんて想定外なんだ……。だが、やるしかないんだ! これは世界平和のためでもあるし!」


 何言ってんだコイツ。

 一人で言って、一人で悲壮な顔つきになって。


 貴重な男じゃなかったら、絶対に友達に何てなりたくないタイプだ。


「とにかく! 早見は、全力で佐野清彦の事を墜とせ!」

「それは、言われなくてもそうしますけど……。っていうか、心配なさらなくても清彦との交際は順調ですよ。うちの母親とも仲良くしてもらってて。もう同居しようかなって思ってて」


 なぜか分からないけど、どうやら佐原君は私と清彦の仲について気を揉んでいるようだ。

 どうやら、佐原君は清彦君とは男友達みたいだし。


 ならばと、私は佐原君が安心できるように、明るい未来を提示した。


「ヤメロ……。それは絶対にヤメロ」

「え?」


「同居は、君の場合は色んな意味でバッドエンドだ! 詳しい事は俺から伝える勇気はないが、とにかくやめるんだ!」


 も~、何なの。

 新婚の時には2人きりの生活に徹した方がいいってこと?


 その後も結局、佐原君からは色々と意味が分からない事を言われた。


 まぁ、要は私と清彦の事を応援してくれてるんだなと、私はその後の佐原君の熱弁を右から左へ受け流すのであった。

動き出した慶喜。


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