第94話 これからのバンドの話をしよう その2
「華さんとはなんの関係もないバンドに…私たち四人だけのバンドにしたいんです!」
いきなりこんな事を提案されても困るとは思う。
けど…どうしても華さんとこのバンドの関係をすべてリセットしたかったのだ。
「もうすぐバイトの時間やのにえらい話始めるんやなぁ」葵さんが呆れた声を出す。
「すみません。あ、でも新しいバンド名を決めるのは今日じゃなくて全然いいです」
ベッドに寝そべる葵さんを振り返ってそう言うと、私の前に座っている凛子さんがため息を吐いた。
「おい春香、まだ誰も改名に同意してないだろ」
「だからその話し合いをしたいんです」
すると凛子さんは険しい表情で続ける。
「蘭子がいないのに話し合いも何もあるかよ」
「わかってますよ。蘭子さんが戻ってきたらその時に4人で決を採るんです」
凛子さんがもし喫煙者なら確実にタバコの煙を吐いただろう感じで、フーッと深く息を吐く。
「お前は違うかもしれないけど…私は今のバンド名気に入ってるんだよ。はじめて自分で付けたバンド名だからな」
「そ…そうなんですか?」
ちょっと気まずくなる。凛子さんが今のバンド名をそんなに気に入ってるとは知らなかった。
「うちは検討してもええと思うで」
「本当ですか?!」
私は上半身をひねって援護射撃をくれた葵さんを振り返る。
「なんだよ…お前も今のバンド名に不満があるのかよ?」
凛子さんはかなりご機嫌ななめになってる。葵さんはそんな彼女をまっすぐ見て答えた。
「うちは春香ちゃんの意見を尊重したいんや。だってこのバンドの事で自分から何か提案するん、はじめてやろ?」
凛子さんが少し驚いた顔をする。それから前に座る私の顔をまじまじと見てきた。
「そういえば…そうだな」
「そういえば…そうかも」
葵さんに指摘されて自分でもそのことに気付く。
確かに大事なことはいつも大人組の3人が考え、気づいた時には何もかも決まっていた。
だから私もそれで別に構わなかった。
「春香ちゃんもウチらのメンバーやねんから、そういう提案は全員で検討するべきやん?」
「まあ…確かに」
葵さんの言葉に凛子さんが小さく頷く。それから渋々といった感じで言った。
「わかったよ…仕方ないな。蘭子が戻ってきたら全員で話し合うか」
「ありがとうございます!」
私はサッと頭を下げる。
「でも私は今のバンド名でいいけどな…」凛子さんはぶっきらぼうにそう付け足した。
葵さんにもお礼を言おうと思って振り向くと、ベッドから起き出して上着に袖を通しているところだった。
メンズのアウターを着た彼女と目が合う。
「ほんなら、なおさら華との対バンは勝たなあかんな。蘭子が帰ってきたときウチらがズタボロやったら格好つかへん」
「もちろん!絶対に勝ちましょう!」
私は座ったまま腕を伸ばし葵さんと拳をぶつけあった。
「そんなに今のバンド名が嫌かよ…」とまだムスッとしてる凛子さん。
とにかく、これでTRUE BLUEに勝たなきゃいけない理由がまたひとつ生まれた。
次の日曜の対バンで絶対に勝つ。
そして蘭子さんと私たち4人でこのバンドの新しい名前を考えるのだ。




