第3話 凛子さんとの出会い その1
凛子さんに初めて会ったのは2年前。私の高1の夏休みのことだ。
場所は神戸の海に浮かぶ人工島ポートアイランド。
この大きな島にある小さな集荷倉庫だった。
その夏。咲ちゃんの勧めで求人サイトに登録し、ものは試しと単発のバイトに入ってみたのだ。
よく女子高生の初めてのバイトが集荷倉庫だった事に驚かれるけど、何を隠そう極度の人見知りの私だ。
コンビニみたいな接客業はたぶん、死んでもできない。
求人にあった『高校生・人見知りOK』の一文でそこに決めた。
で、そのバイト先の先輩が凛子さんだった。
仕事着は全員私服。はじめて会った時の凛子さんは全身まっ黒。黒のTシャツに黒のデニム。
スラリと背が高くて、背筋を伸ばして立っているだけで本当にプロのモデルみたいだった。
その一方で、カラーリングとサバサバした口調が相まって、ちょっとだけ怖い印象だった。
けど、2度目に単発バイトで入った時。私の事を覚えてくれていて、凛子さんから話しかけて来てくれた。
第一印象と違ってすごくお喋りで、話しやすいお姉さんだった。
休憩室で一緒にお昼を食べることになり、趣味の話から私のギターの話になった。
「それじゃなに、ギターやってんの?」
「あ、はい。エレキですけど」
「いいじゃん。歴は?」
「えーと、中1からなんで…3年ちょっとですね」
私はお母さんが作ってくれたお弁当。凛子さんは近くのコンビニで買ってきたカップ麺とおにぎり2つ。
凛子さんはご飯を食べながら、自分は神戸の東灘区に住んでる大学生で、趣味でドラムをやっていると教えてくれた。
「かっこいいですよね。ドラムロールっていうんですか? こうドラムを縦横無尽にタツタツタツドゥダダダダダパーンって」
「おー擬音上手いね」
「へへ」
「春香ちゃんさ、ニール・パートってドラマー知ってる?」
「あー、わかんないです」
「じゃあ暇な時にでも聴いてみてよ。マジでカッコイイからさ」
凛子さんは笑顔でそう言うと、ズズッと豪快にカップ麺をすすった。
この人が「カッコイイ」と言うなら本当にかっこいいのかもしれない。
その時私はそう思い、帰りのモノレールの中ではじめてハードロックを聴いた。
それまで邦ROCKしか聴いて来なかった私には、あまりにも鮮烈な音楽体験だった。
『A Farewell to kings』
その日聴いた凛子さんの尊敬するドラマーのバンドのアルバム。そして今は私の大好きなロックアルバムだ。