第102話 Session!! その6
「このままだと…オーディションは1次審査の合格も諦めたほうがいいと思います」
嘘を吐いてもなんにもならないと考えそう述べる。
すると私たちの背後から「えっ」「そんな…」と呻く部員たちの声が聞こえた。
夏の甲子園出場を賭けた大事な試合で大空高くホームランを打たれたような、悲痛の籠った嘆きだ。
「すすすっすみません!部外者の分際で偉そうなことを!切腹でも何でもするので今のは許してください!」
あわてて全部員に対して頭を下げまくる。
「春香さん謝らないで」
「で…でも」
「いいの。私も今の状態でオーディションを通れるなんて思ってないから」
森園さんが苦笑して続けた。
「それにみんなも…ちょっと困ってるし」
「へっ?」
言われて部室を見渡すと、私を見る部員たちの顔が思いっきり引いていた。
「うっ…うおおおおおおおお」
恥ずかしさに耐えかねて両手で顔を覆う。やばい。顔が死ぬほど熱い。大勢の後輩が見ている前でとんでもない醜態を晒してしまった…
叶うことならこのまま海の底で貝になりたい。
「なーなー春ちゃん」そんな貝…じゃなくて私の二の腕を咲ちゃんがグイグイと引っ張る。
「さっきの演奏どこがダメなん? めっちゃ上手かったやん?」
咲ちゃんは不思議そうに私→森園さん→バンドの順で何度も見た。視線が3往復ぐらいする。
その眼差しに向井さんは困った様子で目を逸らした。鎖骨が隠れるくらいの長さの巻き髪をいじり、稲沢くん中尾くんは面映ゆそうにしている。
「それは……えーっとぉ」
森園さん、そして部室中から物凄いプレッシャーを感じながら私は続けた。
「む…向井さんも、中尾くんも、稲沢くんもそれぞれは上手いんだよ。でも…バンドの演奏として聴くとバラバラっていうか」
咲ちゃんは顎に指を当て首を傾げた。
「スポーツで言うたら本当はチーム競技やるはずやのに全員が個人種目しとるってこと?」
「そ!そんな感じ!」
さすが咲ちゃん。私より言語化が全然うまい。
「にゃるほど。3x3じゃなくてマラソンをやってるってことですか」
「スリー…なにそれ?」
「そういう名前の3人制バスケがあるねん。だから3人組バンドの理想は3x3なんやなって」
咲ちゃんがそう答えると、部室のあちこちから「スリーエックススリー…」と繰り返す声が聞こえた。
「纏まりが良くない事は向井さん達も改善点だと思ってるの」
森園さんが説明する。
「でも具体的な改善点が私にも他の部員にも分からなくて」
「あー…なるほど」
森園さんやバンドのメンバーの行き詰まりはよく分かる。
それぞれの演奏は下手ではない。むしろ上手い。
なのになぜかバンドになると全体的にチグハグな感じが生じる。
こういうのはなかなか厄介だ。たんなる楽器のテクニックの問題じゃない。
「よしっ」
さっきまで貝になりたかった私だけど稲沢くん達の苦労は他人事じゃない。
だからひとりのバンドマンとして、彼らの先輩として立ち上がった。
そして先輩らしく堂々と3歩ほど前に歩み出る。
「あっあの…向井さん」
「はい?」
私は勇気を出し、目の前にいる凄くカーストが高そうな後輩ギャルにパンッと両手を合わせた。
「お願い!ギ…ギター貸してください!」




