望まれた邂逅 ~wish~
もういっそのこと、ここで終わりにしてしまおうか。
そんな考えが、未桜の頭にふと過った。
未桜はもう一度周りを見回す。
どこにも出口は無い。
上を見れば、炎が火の粉を散らして舞っている。
目を閉じた。後ろに倒れようとした時だった。
「助かりたいとは思わないのか」
頭上から声が響いた。
人間のようでいて不思議なその声は空中に浮いているそれから発せられていた。
未桜は声のするほうを見た。
そこには、先ほどまでいなかった人がいた。
いや、人かどうかすらわからない。
整った顔には、一切の表情という表情が抜け落ちていた。
だがしかし、少し疲れているようにも感じる。長すぎる時間に、疲弊しきった感じだ。
漆黒の不思議な服を着ていた。所々破れている。
着ているというより、纏っていると言ったほうがしっくりくる服だ。
手には巨大な鎌を持っている。
「………死神?」
未桜が呟いた言葉が、一番しっくりくる姿だった。
死神、そう呼ばれても、相手は否定も肯定もしない。
まるで名に意味がないかのように。
「助けることができる。私なら」
無表情に死神は言う。
表情のない人形のように綺麗で、しかし冷淡な雰囲気は、尻込みするのに十分なもの。
「願え、未桜。私に」
「名前…どうして」
この問いにも、死神は答えない。
時間が止まってしまったかのようだ。
炎が燃え広がる、ゴウゴウという音も、今の未桜には聞こえない。
未桜は想像してみた。この炎にすべて委ねるか。
自分の体が炎に焼かれる姿は、ぞっとしてもしきれないものだ。
人間とは自分勝手な生き物だ。今まで、それを嫌というほど目の当たりにしてきた。
ならここで、自分の命を惜しむのも、人間としては当然の行為ではないのか。
幸運にも、どうやらこの目の前の死神は助けてくれようとしている。
それが嘘かもしれないという可能性は、無理やり押し込めた。
焼かれるのは、嫌だ。苦しいのも、嫌。
「助けて、くれるの…?」
死神は無言で頷いた。
「未桜。しかし、今ここでお前は死んだことにならなければいけない」
死神の言葉に、未桜は首を傾げた。
「私がお前を助ければ、お前は人としては生きていけなくなる。人としての理から弾かれ、人としての生はおろか、時間さえ…」
「簡単に言えば、私は私が住んでいた世界では死んだことにされる。でも、貴方の世界でなら、生きていけるって。…そういうこと?」
死神は、黙ってうなずいた。
未桜は初めて、頬が勝手に笑みを作るのを感じた。
笑ったのだ。嬉しそうに。
なぜかは本人にもよくわかっていなかった。
だがしかし、心の内側から何かが未桜に訴えたのだ。
この人の傍にいたい。この人の隣に。
その感情を、なぜか未桜は懐かしいと感じていた。
「いい。それでいいよ」
死神は、じっと未桜を見つめた。
言葉に偽りが混じっているかどうか、探るように。
やがて、死神は未桜に手を差し伸べた。
未桜は躊躇なくその手を取った。
緊張が緩んだのか、未桜は気絶した。
それを愛おしそうに死神は抱きかかえる。
「やっと、手に入れた。私の…」
その顔は、ほほ笑んでいるように見えた。
二部目です
サブタイトルの横についている英語の意味は『願う』です
望むからきています




