望まれた邂逅 ~cause~
この話には、少しだけ残酷な表現を描写しています。
不快に思うほどではないとは思うのですが、もし苦手な方はそこの部分だけ読み飛ばすか、読まないかしてくださるとありがたいです。
夢を見ていた。
全体的に暗い。
よく分からないが、前景岩、岩、岩。
切り立った崖に、私は立っていた。
私は一歩、足を動かす。私はそれを黙って見ていた。
自分の体ではあるが、自分では動かせない。
まるで過去の体験を経験しているような心地。
後ろから声がする。
どうやら、飛び降りようとする私を止めたいようだ。
私は振り向く。誰かが走ってくる。男の人のような気がする。
顔は見えない。
なぜか泣きたいような気持になった。
しかし、気持ちとは真逆に頬が上に動くのを感じる。私は笑った。
男の人が何か叫んだような気がする。
それを合図にしたかのように、体が宙を舞った。
視界が真っ黒く染まった。
未桜は、はっと目を見開いた。
数秒息を整えた後、のそりと起きあがる。
額に手を当て、目をつぶった。
寝汗がすごい。顔色も悪かった。
「嫌な夢…見た気がする」
ポツリとつぶやいた後、下から聞こえる声に顔を上げた。
どうやら、下で誰かが未桜を呼んでいるようだ。
未桜は下に向かってすぐ行く!と返事をした後、着替えるためにベッドから出た。
そのころには、顔色は普通に戻っていた。
「今日は家にいてね。母さん、午後には戻ってくるつもりだから」
「うん」
「散歩もあまりしないほうがいいわね。昔からあんた、事故にあうことが多いんだから」
「うん」
「それも、食べ終わったら洗っておいてね」
「わかった」
「それじゃ、行ってくるわね」
「いってらっしゃい」
どこに行くかは聞かなかった。
大体の予想がついていたからだ。
自分の父親以外の人と仲睦まじく寄り添っていたのを目撃してしまったことがあったからだ。
軽蔑はしていない。それほど興味はなかった。
まるで赤の他人と生活しているような居心地。
事故が多いというのは、未桜も辟易していた。
信号を渡れば、信号無視の自動車が突っ込んでくる。
プールでなぜか足が抜けなくなり、溺れそうになった。
小さい怪我から、なぜか死にそうになった。
しかし、死んだことは一度もない。
死にそうになったことは何回もあるのに、どれも結局致命傷にはならなかったのだ。
しかし、面倒なことはこれ以上味わいたくない。
治療費を払うにも限度がある。
だから未桜は必要最低限は外に出ないようにしていた。
事の始まりは、未桜の母が泥酔して帰ってきたことと、そのとき丁度帰って来ていた父がそれを見て激怒したことだった。
「お前はまた!何回も何回もこんなになるまで飲んで!誰が家計を支えていると思っているんだ!」
「私だってちゃんと仕事はしているじゃない!今日のだって、ちゃんと全部私のお金よ!」
「そういうことを言っているんじゃない!」
「じゃあなんだっていうのよ!」
がん、と未桜の母が怒り任せに叩いたところは、不運にもガスコンロのスイッチだった。
「キャァ!熱い、なんなのよ、もう!」
指に炎が当たったのか、顔を歪めた後もう一度スイッチを押した。
…だが、火は消えない。
何度も何度も押せども、火は消えない。
どうやら、力任せに押したせいか、変な力が加わってしまったようだ。
様子を見ていた未桜の父もスイッチを力強く押してみた。…が変化なし。
「これ、どうすればいいの?」
「取りあえず、消防車を…」
「嫌よ。ご近所さんに騒がれるじゃない」
「じゃあどうしろというんだ」
「火なんて、水でもかければ消えるわよ」
「おい、よせ!」
泥酔していた彼女は考える力を持っていない。
制止の声も虚しく、勢いよく水がかけられた。
炎は勢いを増し天井に届く。
そこからはあっという間だった。
コンロの近くにいた母はあっけなく火に焼かれ、助けようとした父も焼けてしまった。
未桜はとにかく外に出ようとしたが、火の回りは予想以上に早く、出口さえも塞いでしまった。
とにかく焼かれないようにと自分の周りに水を撒く。
中にいた金魚は犠牲になった。
申し訳なさそうに未桜は金魚を見ていたが、そうゆうわけにもいかなくなった。
火は、自分の周り以外を遠慮なく焼き尽くしていく。
天井の柱が崩れるまで、そう時間はかからないはずだ。
助からない、という志向が未桜の頭を埋め尽くした。
脱力し、座り込んだ。
周りを見渡せば母であった、父であった顔が見つかった。
吐き気が襲う。炎に焼かれたその顔は、もう原形をとどめていなかった。
この小説は、まえに挙げたものをちょっと変えて連載にしたものです。
連載といっても、四部構成にしようと思っているので、短いです。
http://ncode.syosetu.com/n6422bq/
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