第5話 最初の共同作業
高橋くんに続いて、技術室の隣にある準備室へ入った。
「……狭っ」
思わず声が出た。
部屋の中には棚がぎっしりと並び、工具や段ボール箱が所狭しと積まれていた。箱の中には、何に使うのか分からない部品が詰まっている。
人が通れる場所は、棚と棚の間にある細い通路だけだった。
「ここ、全部道具なの?」
「うん」
「すごい量だね」
「……必要だから」
「……そうなんだ」
高橋くんは慣れた様子で狭い通路を進むと、棚から工具の入った箱を取り出した。
「これ、机に持っていってください」
「うん。分かった」
箱を受け取り、技術室の机まで運ぶ。
準備室へ戻ると、高橋くんはもう次の道具を探していた。
「次、これ」
「はいはい」
今度は金属の棒が何本も入った箱だった。
それを運んで戻ってくると、また別の箱を渡される。
「これも」
「……まだあるの?」
「ある」
即答だった。
私は言われるままに、準備室と技術室を何度も往復した。
工具の入った箱。金属の部品。車輪のようなもの。コードが絡まった袋。
何に使うのか、さっぱり分からない。
気がつけば、技術室の大きな作業机は、運んできた道具や部品でいっぱいになっていた。
「……ねえ、高橋くん」
「何?」
「これ、全部使うの?」
「まだ分からない」
「えっ?」
「使えるものを確認するから」
私は机の上に積まれた箱を見つめた。
……これから確認するんだ。
ロボットを作るって、もっとこう、部品を組み立てていくものだと思っていた。
まさか最初の仕事が、荷物運びになるなんて。
私は小さく息をついた。
バレー部を引退してから、久しぶりに体を動かした気がする。
……いや、こういう運動を期待していたわけじゃないんだけど。
田口先生は、まだ来なかった。
技術室にいるのは、高橋くんと私の二人だけだ。
作業机の上には、運んできた箱や道具が山積みになっている。
「次は何をするの?」
私が尋ねると、高橋くんは段ボール箱を一つ開けた。
中には、大小さまざまな歯車が入っていた。
「ギアボックスか……」
高橋くんは小さくつぶやき、箱の中身を机に並べ始めた。
「これ、高速、中速、低速に分けるか」
「高速、中速、低速?」
聞き慣れない言葉に、私は首をかしげた。
「歯車の組み合わせで、回転する速さが変わるんだ」
「へえ……」
説明を聞いても、まだよく分からない。
高橋くんは気にする様子もなく、歯車を一つずつ手に取って確かめている。
「高速はこれだ」
高橋くんは、いくつかの歯車を机の端に並べた。
「中速はこっち。低速はこれ」
今度は、別のギアボックスをそれぞれの場所に置いていく。
「歯車の組み合わせで、回転する速さが変わるんだ。速く回す代わりに力が弱くなったり、遅く回す代わりに力が強くなったりする」
「へえ。そんなことができるんだ」
「ロボットを動かすときに必要だから」
高橋くんは、当たり前のことのように答えた。
私には、目の前にあるギアボックスがどれも同じように見える。
「……私、見分けられるかな」
「さあ」
「えっ、教えてくれないの?」
「教えた」
「そうだけど……」
思わず頬をふくらませると、高橋くんはギアボックスに目を落とした。
笑ったのかどうかは、よく分からなかった。
「高速回転のギアボックスは、歯車が少ないから、見分けられるかな? それを集めてください。中速と低速は僕が集めるので」
「うん、やってみる」
私は机の上に並んだギアボックスを見比べた。
……うん。確かに、歯車が少ないものは分かる。
たぶん。
私は一つ手に取って、そっと中をのぞき込んだ。
「そういえば、二年の技術の定期テストに、歯車の問題が出たんだ。覚えてる?」
「どうだろう……。テスト勉強のときは、教科書を見て暗記したから」
私は正直に答えた。
テストの前には覚えたはずなのに、今となっては、はっきりと思い出せない。
「じゃあ、少しは分かるんだ」
「少しだけね」
私はもう一度、机の上のギアボックスを見た。
教科書で見たときは分かったつもりだったのに、実物を前にすると、どれも同じように見えてしまう。
私はギアボックスを手に取っては、机の上に並んだものと見比べた。
うーん……やっぱり難しい。
そんなことを考えていたとき、技術室の扉が開いた。
「おっ、ずいぶん進んでるじゃないか!」
田口先生だった。
先生は作業机に目を向け、並べられた道具やギアボックスを見て、感心したように声を上げた。
「高橋と藤井、二人でもうここまでやったのか。いやあ、驚いたな」
田口先生に褒められて、私は少しうれしくなった。
まだ道具を運んで、ギアボックスを分けているだけなのに、ちゃんと進んでいるんだ。
ふと隣を見ると、高橋くんも少しだけ口元を緩めていた。
……あれ?
高橋くんも、うれしいのかな。
そう思ったら、私まで、もう少し頑張れそうな気がした。




