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マジカルロマンス詐欺師  作者: 朝霧


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3/4

ファミレスがぶっとんでしまった

 大変な目にあった。

 とても大変な目にあった。

 私は今、マジカルな警察のお世話になってしまっている。

 暗に『お前詐欺師だろ』と言った直後、マジカルロマンス詐欺師はブチ切れた。

 その直前から感じ取っていた不穏なそれは彼奴がその時抱え込んでいた激情のせいで制御しきれずに漏れ出していた魔力だったらしく、それが私の一言でドカンと爆発したらしい。

 結果、ファミレスの屋根が文字通り吹っ飛んだ。

 私を含んだ人間は全員パニックに陥った、だって屋根が凄まじい轟音と共に一瞬でなくなってしまったのだから。

 屋根を吹っ飛ばした下手人はその時点で完全に暴走していたようで、言葉が通じなさそうな感じになっていた。

 その顔を見た瞬間に死を覚悟せざるを得なかった、それでも死にたくはなかったので逃げようとしたけど、失敗。

 見えない何かに押しつぶされるような感じで、べしょっと床の上で潰れることしかできなかった。

 ああ、死ぬんだなあって思った。

 けど、その直後に人間界で発生した異常な魔力を感じ取ったマジカルな警察の人達が迅速に現場であるファミレスに駆けつけてくれたのである。

 警察の人達は完全に暴走状態に陥っていたマジカルロマンス詐欺師を取り押さえにかかった。

 死闘の末、ファミレスは屋根どころか壁も備品も何もかもがぶっ壊れたけど、マジカルな警察の人達の適切かつ素晴らしい対応によって、死者は出なかった。

 二十人掛かりくらいでようやくマジカルロマンス詐欺師は鎮圧された、二十人いなければどうにもならなかったのが本当に怖い。

 それでひとまず事態が収集、ぶっ壊れたファミレスもマジカルな警察な人達のマジカルなパワーによって、なんか綺麗に元通りに。

 魔法ってすごいと月並みに思う。

 マジカルロマンス詐欺師は確保、ぶっ壊れたファミレスはマジカルなパワーで元通りに、死者は一人も出ず、私含め数人いた軽傷者もマジカルなパワーで治療してもらって傷一つない状態に。

 解決である、ハッピーエンドと言ってしまっていい。

 そこまではよかった。

 そこで『助けてくれてありがとうございました』の一言で終わらせて、お家に帰れたら百点満点だった。

 が、当然そうはならなかった、人生って世知辛い。

 そういうわけで事情聴取のためにマジカルな警察に連行された。

 私、なんもしてないのに。

 無実を主張するために事実だけを話した。

 ファミレスに行ったら突如謎の魔法使いと同席する羽目になったこと、その後の会話の流れ及びつがいだと言われたが全然それっぽい感じじゃなかったのでマジカルロマンス詐欺を疑ったところ、唐突にあの魔法使いがファミレスの屋根をぶっ飛ばした、と。

「重ね重ね言いますが、あの魔法使いさんが私のつがいってことはないです。全然それっぽい感じないですし。綺麗な方だとは思いますけど、それだけです……というか綺麗すぎて近くにいることすら烏滸がましいとすら思うというか、なんというか」

 そう答えるとマジカルな警察の方は「だからマジカルロマンス詐欺を疑ったのですね」と。

 首肯すると何故か溜息を吐かれた。

 今何時位なんだろうか、さっさと帰りたいのだけど。

「ええと、私がお話しできることはこのくらいで……そういうわけですので、もう帰ってもいいでしょうか?」

 話せることはこれ以上ない、あの魔法使いがマジカルロマンス詐欺師だったで話が終わるか、あるいは私なんかをつがいだと誤認してしまった間抜けな魔法使いさんだったというオチ以外にはしたくないので、そう言ってみた。

 首を横に振られた、何故なのか。

「……お話できることは話しきったつもりです。もうなにも」

 と困りきった声色で言ってみたら、マジカルな警察の方は「今、本当にあなた達がつがい同士でないかを確認している途中です」と。

 何それ?

 話を聞いてみると、一部の魔法使いは誰と誰がつがいなのかを調べる魔法が使えるらしい。

 ごく稀に物心ついた頃から自らのつがいを追い求めて大暴れする魔法使いがいるらしく、そんな彼ら彼女らをおとなしくさせるため、つがいを探す魔法というものが作られたらしい。

 けれどもその魔法は習得するのがとてつもなく難しいらしく、使い手は数人程度しかいないとかなんとか。

「はあ、そういう魔法もあるんですね。……まあ、ほぼ確実に違いと思いますけど、絶対に違うという保証がつくというのなら、それはそれで安心かもですね」

 とか言いつつ内心冷や汗が、本当につがい同士だった場合かなり面倒なことになる。

 しかしと我が身を振り返る、ついでにあのマジカルロマンス詐欺師の麗しい顔も思い浮かべてみる。

 どう考えてもつり合っていなかった、ここまで不似合いな組み合わせもないだろうと。

 なので、ただのマジカルロマンス詐欺事件で解決するに違いないと呑気に結果を待つことにした。


 数十分後に結果が出たと取調室にマジカルな警察の人がもう一人やってきた。

 つがいじゃなかったです、彼奴はマジカルロマンス詐欺師です。という回答以外に何もないと思っていたのに、言われたセリフは全くの別物だった。

「なんと?」

「ですから、彼はあなたのつがいです」

「マジカルロマンス詐欺師では?」

「ないです」

 マジカルロマンス詐欺師では、ない。

 ないらしい、詐欺じゃなかったんだって。

「そ、そうですか……んなアホな、全然それっぽくないのに」

「ごく稀にいらっしゃるんですよね、つがいをつがいだとわからない人間さん。あるいは」

「あるいは?」

「そうだとわかっていても全力でそれを否定する方」

 マジカルな警察の方はこちらを真正面から見据えてそう言った。

 勘づかれてしまっている、けどられないようにしていたはずなのに。

「強力な力を持つ魔法使いのつがいは我が強い方が多い。だからつがいがいるとわかっても利己的な理由でそれを否定する方がいる……自分自身の夢のために魔法使いに嫁ぎたくない、故郷を離れたくない、あるいは純粋に面倒臭い……なんて理由で」

「へぇ、そうなんですか」

 図星を突かれたことを察されないように、極々自然な声色でそう言った。

 うまくできているかはわからなかった。

「そうなんですよ、実は自分の父もそういう人間でしてね……母と出会った時はそのせいで大いに揉めた、という話を聞かされたことがあります」

「そうですか、そうですか……それでその、私って何時くらいに帰れるんですかね?」

 ひとまず帰れる前提で話を進めるべく、そもそも帰れるのかどうかは聞かずにそう尋ねた。

「そ、その……あの魔法使いさんと私がつがいらしいということは把握しました、把握はしましたけど……だからと言ってテンプレ通りに一緒になるとかならないとかは別問題ですし、そもそも私、まだ学生ですし、その、一緒になるとかそういう話はせめて卒業後というか」

 今日はもう一旦お開き、ちゃんとした話はまた後日ということにしてしまいたい私だった。

 ここでいやお前は帰れません一生あの魔法使いの、ってなったらそれはあまりにも地獄すぎる、気まずさがやばい。

 普通に今、顔を合わせたくない。

 謝るべきだとは思うけど、マジカルロマンス詐欺師扱いしたことには深々と頭を下げるべきだとは思ってるけど。


 無駄な抵抗は無駄に終わった。

 駄目だった、普通に駄目だった。

 私は今、マジカルな警察の方の立ち会いのもと、例の魔法使いさんと引き合わされている。

 睨まれている。

 無言で睨まれている。

 少し前までの自分の所業を思い出した、当然の結果だった。

 けど本当にマジカルロマンス詐欺だと思っていた、万が一そうじゃなかったとしてもつがいとか面倒臭いし全然つり合ってないから全部気のせいでしたで済ませようとしてた。

 どうしようか、これ。

 どうしろというのか、謝ってどうにかなる問題じゃないだろうこれ。

 いっそハラキリするべきだろうか。

 ハラキリできるような刃物を所持してるわけないじゃんこちとらただの一般市民だぞ。

 帰りたい、今すぐ帰りたい。

 なんだってこんなことになっているんだ、昼ごはん食べにちょっと外出ただけだったのに。

 とはいえ、もう多分どうしようもないというか手遅れだろうけど、謝るしかないか。

 謝っても許されないだろうし、多分一生嫌われっぱなしだろう、愛想とか尽かされてるに違いない。

 ……そっちの方が都合がいいか、嫌われているのならそれでいい。

 お前なんかと見捨てられればいいのか、それで今日はただの苦い記憶になって、あとはこれまで通り。

 とはいえ、ここでヤベェ人間ムーブをする勇気もなければそれを平然とできるほど倫理観がずれていないので、今回は普通に謝ろう。

 謝って終わらせよう、終わらなかったどうしよう。

 どうなるんだろうか、殺されるんだろうか、殺される方がマシな目に合わされるんだろうか。

 腹を、くくるか。

「ええとその……この度は大変申し訳ありませんでした」

 頭を下げた、この後どうすればいいのだろうか、なんも思いつかん。

 ひとまず謝る、謝るしかないけど、それ以外に私にできることってあるだろうか?

 ものを壊したのなら弁償するべきで、怪我を負わせてしまったのなら治療費を払うべきで、犯罪を犯したのなら然るべき罰を受けるべきだ。

 けれども今回の私のやらかしはあちらをマジカルロマンス詐欺師扱いした、それだけなのだ。

 ファミレスをぶっ壊したのはあっちだし、そのファミレスもマジカルなパワーで完全修復されたらしいので、ファミレスの立て直し金などを支払う必要は魔法使いさんにも私にもないらしいとさっき聞いた。

 というか今回の件では基本的にどっちかが公的機関から罰を受けるとか賠償金を払うとかはないそうだ。

 つがいに出会ったばかりの魔法使いは暴走しがちなので、どうしようもなく修復不可能なものを出したり誰かに後遺症が残るような大怪我させたり死なせたりしなければ、とりあえず許されるらしい。

 だから逆に、どうすればいいのか。

 誠心誠意謝るしかないが、私の謝罪程度で何かが変わるというのだろうか。

 無能な一般人である私に、魔法使い相手にできることなんてそれ以外に一つもない。

 できることなんて何もないんだったら、もう何もしない方がいいのでは。

 多分こう考えるのは絶対に間違っているのだと思う、けれども私はそういうふうに考えてしまう人間なのだ。

「顔、あげたら?」

 そんなお言葉をかけていただいたので、そろりと顔を上げる。

 怒りが全く消えていない顔で睨まれる、今すぐおうちに帰りたい。

 怖、魔法使い怖い。

 どうすれば、どうすればいい。

 穏便な解決はもう無理だ、私がこの魔法使いをマジカルロマンス詐欺師だと決めつけた時点でそれができる可能性は潰えていた。

 時が戻せるのなら戻したい、戻ったところでどうせどうにか関わり合いにならないようにと下手な手を打って、似たような状況に陥るのだろうけど。

 綺麗な顔が怖い、超怒ってるのが怖いどうしろっていうんだ私はただの庶民だぞ。

 まともな人間関係築くことができない落ちこぼれ人間に魔法使いの怒りを収めるのは不可能すぎる。

 どうすりゃいいんだ、言い訳を連ねたところでそれはそれで不誠実な気がする。

 だからといって無言を貫き通すのも駄目だろう。

 謝罪の言葉を重ね続けたところで、なんか嘘っぽくなりそうな気がした。

 あ、駄目だ。

 なんかメンタルおかしくなってきた。

 普段最低限持ち合わせている倫理観とか思いやりが、なんか全部クソくだらないものに思えてきた。

 もう全部どうでもよくね? って感じになってきた、ヤケクソだこれ。

 どうしようもない大問題を前に今、何もかもが面倒臭くなってきた。

 だってもうどうしようもないじゃんこれ、世界の終わりとほぼ同等じゃん、多分。

 死んで詫びろと言われたらそうするしかない。

 あーあ、終わっちゃったな、人生。

 買ったばっかのゲーム、まだ遊び尽くせてないのになあ。

 ファミレスに行く道中で落ちてきた雷、あれをモロに喰らって死んでた方がマシだったかもしれない。

 頭がぐるぐるする、何をいうべきなのか何をやるべきなのかわからない。

「はは、ははは……ぜーんぶ、嘘ってことになんねーですかね。終わりじゃねーですか、こんなの。どうしろっていうんですかこれ。もうどうしようもない……あなたがマジカルロマンス詐欺師だった方がずっとよかった」

 こちらを睨みつける目に苛烈な光が宿った気がした、その激情のままに殺してくれと思った。

 何が正しくて何が間違えなのかわからない。

「死んで詫びろっていうんだったらそうしますよ。わかりました腹切りますね。誰か、刃物ください刃物、切腹用の短刀をここに」

 私一つの命でどうにかなるのならそれでいい。

 ここで腹いせに私の身内惨殺してやるとか言われる前に、覚悟見せるしかない。

 最低限の犠牲だけで済むようにしなければ。

 なんかもうそのくらいしか思いつかない、全部嘘になればいいけどなってくれないのならもう強制的に終わらせるしかない。

 帰りたいとか面倒よりも先に、全部どうにでもなれと思いつつ身内に被害が行くのは駄目だと思える神経が自分に残っているのが意外といえば意外だった。

「は? ふざけないで」

「ふざけている顔に見えるのなら心外です。それ以外に何ができるというのですか私に。なんの才能もない無能の出来損ない人間にできることなんかそのくらいしかねーんですよ。謝って許してもらえる問題じゃないんでしょうこれ。だからといって謝らないわけないですしものすごく申し訳ないとは思ってますけど、その罪を贖える方法を持ち合わせてないんですよ死んで詫びる以外になーんも思いつかないんですよ。頭働いてないんですよ今、普段は最低限持ち合わせてる人間的に大事な部分も消し飛んでるんですよ今」

 喋りすぎか息がしにくくなってきた、視界もどことなくおかしいような、そんなことがないような。

 頭がぐるぐるしていて、手足がやけに冷たくて、なんだか現実味というものが薄れていく。

 誰か私に短刀を、くれないっていうのなら、誰もくれないんだったら。

 舌を噛み切って死ぬのは難易度が高いらしい、刃物の類は持っていない、ボールペンでも持っていればそれで喉をブッ刺してとかできただろうけど、それすら。

 視界の端の机の角が、いい感じに尖っている。

「これだ」

 私は机の角目掛けて頭を勢いよく振り下ろした。

 一回目痛い、痛いだけなのでもういっちょ、もういっちょ。

 ヘドバン、というやつである。

 周囲が何やらざわついている気がする。

 切腹なんかよりも何十倍見苦しいだろうけど、どうか見届けていただきたい。

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