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二つのR ~ 守護霊にResistanceとReactionを与えられた  作者: サクラ近衛将監
第五章 日常と非日常

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5―10 D国調査団の日常と異常 その四

 私は、カナダのマギル大学医学部助教授のマイク・キャベラスだ。

 D国の調査団員の一人として選抜され、今回は、新種の病原体の調査という名目で、多国籍研究チームの一員として参加している。


 メインである米国からは三人、ロシアから一名、日本から一名、豪州からも一名が参加しているよ。

 一時、世界を騒がしたカザフ出血熱は、異界から持ち込まれた病原菌が此方(こちら)側の病原体と出会うことにより突然変異を起こしたものと言われてはいるが、実のところ、検証は未だ出来ていないんだ。


 謎の組織であるPemburuが、世界初のカザフ出血熱のワクチンを製造し、これをWHO(世界保健機構)に無償で提供したので、一頃随分と話題になった。

 このPemburuという組織(個人?)が異界から出現した大型モンスターを退治したとされているんだが、その実態が不明なので真実かどうかは今以て不明なんだ。


 但し、米国等の偵察衛星の情報でも、D国、C国はもちろんだが、広く中央アジア領域まで進出した大型モンスターは間違いなく討伐されているようだ。

 尤も、東南アジア方面に出没している小型(?)のモンスターは手つかずであったことから、東南アジアのASEAN加盟国が中心となって、現在は合同の討伐戦を行っているところだ。


 Pemburuもそこまで手が回らなかったということかもしれないね。

 ただ、Pemburuなる組織の正体が不明なことから、一部ではマッチポンプじゃないのかというような意地悪いSNSもあるようだが、私自身はPemburuの善意を信じているよ。


 何せ世界中にワクチンを無償で提供したんだからね。

 実は、マギル大学でも一頃カザフ出血熱のワクチン開発を手掛けたことがあり、私もそのチームの一員だったことが有る。


 だから、カザフ出血熱の病原体を入手するだけでも結構大変な事なのに、そのワクチンを開発するというのは世界規模の秘密ネットワークでも無ければできそうにはないと思うんだ。

 いくら天才が居たとしても、一人や二人でモンスター退治から、ワクチン開発、その秘密裏の輸送までできるわけが無いと思っているからね。


 ところで、D国にやって来てから、周囲の微生物からウィルスまでを探すために様々なものを持ち込んで調べているんだが、今のところ、新種の病原体は発見できていない。

 だが、一週間も経たずに、病原体では無いんだが新手の菌類らしきものを日本の植物学者が発見し、アラートを出したよ。


 見た目はThistle(あざみ)なんだが、菌類のように有機物を捕食する性質が有るようだ。

 アラートに添付された画像を見ていると、胞子と思われるものが風も無いのにモルモットへじわりじわりと寄って行くのが見えるんだ。


 早回しで8時間をわずかに一分ほどに縮めたものだが、この間に数センチも自力で移動するというのは、植物としては異常だよね。

 植物に擬態した動物に近い。


 捕食植物では、捕食の際に速度が速まるものはある。

 食虫植物で、|Venus flytrap《ハエトリソウ》、|pitcher plant《ウツボカズラ》などが有名であるが、冬虫夏草と云う菌類のように動物に取り付いて栄養を吸収する生態のようだ。


 少なくとも実験に使われたモルモットは、取り付かれた8時間ほどで瀕死状態になっている。

 アラートでは、この植物を見つけたら不用意に接近しないこと、1m程度にまで接近すると胞子が拡散し、空中を飛散して動物を追いかけて来ると警告している。


 その距離は、無風状態で概ね10m程度とされている。

 植物の群生地を地図上で明示しているから、当面の間はこの近辺には近寄らない方が良いということだろう。


 それと、風向きによってはより遠くまで胞子が飛ぶ可能性もあるので、アラート発信者のKaneda氏は、群生地から100m程度を危険地域と設定しているようだ。

 いずれ評議会でその処理を巡って検討されることになろうが、こんな植物が繁茂して仮に人間にも取り付いて人を培養体にするようであれば一大事だよね。


 アラートが出たその日には、病原体チームの中でもその件が話題になったよ。

 日本から来ている病原体研究所のYamagiwa氏は、Kaneda氏とも親しくしているようで色々と話を聞いているらしい。


 病原体ではないが、仮に人体に害を与えるとするならば、医学上の問題にはなるよね。

 より大型の動物で実験することが望ましいんだが、生憎と、ここには我々が持ち込んだモルモット以外には動物が居ないんだ。


 仮に有機物で良ければ大量に持ち込んでいるであろう魚肉等を実験体にしてみるのも一つの手かもしれないという意見が出た。

 何しろKaneda氏のアラートでは、培養地が普通の土壌では発芽しないことが分かっているようだ。


 ならば、培養地としてタンパク質の塊である肉を与えて様子を見るというのも一つの手法だろう。

 取り敢えず、医学上の知見を探求するために、Yamagiwa氏を通じてKaneda氏に、未だデシケーター内で発芽しない胞子の一つを分けて貰って、こちらのチームで肉に寄生してはどうかという話になったよ。


 仮に、たんぱく質に寄生するとなれば、人類にとって明らかな脅威になる。

 翌日には、Kaneda氏から胞子一個をもらい受け、試したのは三種類の肉、牛、豚、鶏であった。


 しかも、それぞれ、冷凍、常温(摂氏25度)、人間の体熱(摂氏37度)、より高温(摂氏40度)の四種類にして、周囲に並べ、その中央に胞子を置いてみた。

 どれに反応するかが最初の問題である。


 仮に、生体エネルギーのようなものに反応しているならば動かないだろう。

 ならば死体には見向きもしないと云うことにはなるんだが・・・。


 結果としては最悪だったね。

 胞子が動いたのは人間の体温に近い摂氏37度の肉の方向だった。


 で、途中で、当該37度氏の肉を三方向に分け、なおかつモルモットを加えた四方向にしてみた。

 結果は驚くべきことに、生きているモルモットに向かったのである。


 モルモットでの発芽実験は、既に終えているからその時点ではモルモットを救出、残り三つの肉だけを残しておいた。

 結局胞子は一番近い鶏肉に向かって動き始めた。


 では、肉の距離が問題なのかもしれないので、次に豚肉を近くに置き、次いで牛肉を近くに置いたところ、いずれも最も近い肉に反応することが判明したよ。

 更に、少し離れた位置にモルモットを追加すると、今度は最も近い肉ではなくって、やはりモルモットににじり寄るのである。


 ここまでの実験を繰り返すのに都合三日ほどかけたよ。

 一応の推論として、この胞子はたんぱく質に引き寄せられること、また同じたんぱく質でも生きているものに引き寄せられることが分かった。


 では昆虫ではどうなのか?

 昆虫も豊富にたんぱく質を含んでいるんだ。


 次の段階では、実験体に生きている昆虫を選ぶことにした。

 もう一つ、この胞子は生命体としてえらく長命のような気がするな。


 採取してから既に十日近くになるんだが、未だに肉類が最寄りに有れば、その方向ににじり寄るんだ。

 一体どこにそんなエネルギーを蓄えているのやら・・・。


 なんとも不思議な生物ではある。

 ここでの成果は、当然のようにKaneda氏には知らせているよ。


 昆虫と大型動物は、急遽日本から輸送されることになった。

 昆虫は、カブトムシ・クワガタ・カミキリムシの甲虫類三種で、そのほかにショウジョウバエである。


 大型動物は、ウサギとビーグル犬が運ばれて来た。

 問題は、実験体に比べて胞子が少ないことである。


 結局は、評議会で群生地の焼却処分が実行される前に、胞子をより多く採取しようということになって、そのためのチームが編成されたよ。

 Kaneda氏にもチームに加わってもらい、全員P-Ⅳクラスの防護服(数は少ないが調査団が保有している)に身を固め、例の群生地に向かった。


 Kaneda氏がやったように採取用の粘着紙を順次地表に置いて行って、風下側から接近したところ、やはり群生地まで約mの距離で最寄りの胞子が破裂、風に乗って近づいてくるので、囮役は逃げるのが大変だったようだ。

 風は3m程度だったけれど、結局は胞子が50mほどまで飛散した。


 しかも全部の胞子が囮役を目掛けて浮遊しているのである。

 この様子はビデオに撮られたが、ある意味でとんでもないことであるよね。


 その後、全部が地上に落ちたことを確認してから、用心しつつ回収した胞子は、全部で23を数えた。


 おそらく採取用の粘着紙にくっつかなかったものもあるだろうから、飛散した胞子の実数は50を超えるのじゃないかと思われる。

 採取した胞子は、厳重に採取用紙ごと密封され、クーラーに保存されて持ち帰った。


 その後で、この胞子がどこまでの耐性を持っているのか、色々な実験が行われたよ。

 乾燥実験では、湿度が限りなくゼロに近いデシケーター内で何日生存できるか?。


 次いで、温度では常温よりも5度ずつ下げて零下15度までの環境で生存できるか?

 さらに摂氏45度以上の高温下で、どの程度まで生存できるか?


 また、三日間マイナス40度以下の環境で生存できるか?

 更に、日本からモルモットに代わる実験動物を特別注文に応じて輸送されて来たことで、更なる実験を行った。


 少なくとも昆虫は、本能的に敵性動物と認定して可能な限り、胞子を避けようとしている。

 特に、ショウジョウバエでは、その動きが顕著であった。


 モルモットのように、同じ空間内の一番遠くに逃げて動かないのである。

 ショウジョウバエは、一度に30匹ほどを放り込んだから、隅に固まって黒く固まっているのは明らかに異常であるよね。


 実験開始から四日間もショウジョウバエが逃げ続けたが、最後にエネルギー切れになったのはショウジョウバエの方だった。

 片隅で集団になって動かなくなるとついに胞子がその群体に辿り着き、そこで根を生やし始めたんだ。


 面白いことに発芽するまでは光合成は必要が無いらしいが、一旦発芽して緑の葉を出すと光合成も始めるようだね。

 こいつは暗闇では成長しないことが後に判明した。


 次いで、昆虫類も同じだね。

 餌を与えないと先にカブトムシ等が死ぬから餌を与えていても、最終的には二週間で胞子に取り付かれたよ。


 胞子に取り付かれた途端に、昆虫は動きを止めるので、明らかになんらかの麻痺状態になるようだ。

 その異常状態については、他の生物学者にもチームに加わってもらって検討を開始している。


 問題は、ウサギとビーグルなんだが、こっちの方はある意味で無警戒なんだよね。

 同じ狭い領域に居ても、何ら関心も注意も払っていない。


 但し、被検体の方が盛んに動き回るから、胞子が取り付くのには結構時間がかかる。

 偶々、近くで動きを数時間止めた際(睡眠等)に取り付けたり、被検体が動いた弾みで気流が起き、その流れに乗って取り付いたりしているようだ。



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