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二つのR ~ 守護霊にResistanceとReactionを与えられた  作者: サクラ近衛将監
第五章 日常と非日常

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5―11 D国調査団の日常と異常 その五

 私はマギル大学医学部助教授のマイク・キャベラスだ。

 調査団内で特別チームを編成して、問題のヴォラクサン・アザミの胞子を採取して動物実験を進めているんだが、とにかくこいつは非常に危険な植物であることには間違いない。


 単なるタンパク質にも反応はするが、植物を除き、動物であれば、なんにでも反応するようだ。

 ウサギもビーグル犬も例外ではなく、胞子に取り付かれると身体が麻痺し、動けなくなることが分かっている。


 その状態で当該動物の身体に根を張り、成長するにつれ、当該動物の生命力を奪って繁殖するようである。

 概ね一月で、ビーグル犬は骨だけになっってしまったよ。


 その代わりに、かなりの範囲で培養地にヴォラクサン・アザミが繁茂した。

 これが万が一にでも、人間社会に入り込んでしまったら、当該地域に人は住めなくなるだろうね。


 人だけに限らず、動物全般が居なくなるだろうことは十分に予測できる。

 この特殊な植物が広がっていないのは、たまたまこの地域に動物がほとんどいないからだと思うのだ。


 仮に核爆発以前の様に、多数の動物が生息していた状況であったなら、恐らくは、この一帯は間違いなくヴォラクサン・アザミで埋め尽くされていたことだろう。

 この胞子が、過酷な環境下で、どれほど耐えられるかの実験では、胞子状態で湿度がゼロのデシケーターで既に一月も生き続けていることが分かっている。


 もしかすると、この状態でずっと生き続けられるかもしれない。

 また、完全に凍結させても、解凍すれば蘇ることが分かっている。


 そうして、液体窒素に漬けて、丸一日経ってから、解凍しても死滅していないことが判明している。

 まるで、古代から蘇(よみがえ)ったウィルスのようでもある。


 それでも、繁茂状態のヴォラクサン・アザミは、火炎放射器で焼き払えば、死滅することが分かっている。

 また、摂氏50度以上の高温下では、概ね三日で干(ほ)せ乾(から)びるのだが、これに水分を与えると再度復活するという厄介なモノであることも分かっている。


 炭化していたなら間違いなく死滅しているが、そうでなければ、ほとんど塵のようになっていても生き残る可能性が有るということだ。

 特に、この胞子は非常に軽いので、季節風等により、遠くに飛ばされる可能性もあり、その点で非常に危険性が高いのである。


 乾燥した状態で埃状になって、日本へでも辿(たど)り着いたら恐ろしいことになる。

 その意味でKaneda氏とも協議した上で、第二のアラートを発令すると同時に、特別チーム全員の名前で調査団評議会に提言を行った。


 この段階で、少なくとも近隣諸国の然るべき機関に対して、注意喚起を為すべきだという提言である。

 軍人も混じった評議会では、米国政府が情報公開に対して難色を示し、かなりの議論があったのだが、最終的にWHOに対して注意喚起をすることに決定したのは、胞子の大量採取作戦から2か月後の事だったよ。


 我々にしか出来ないことでもあるんだが、米国政府としては今回の調査団の成果はとにかく秘匿するのが最優先と考えているみたいで、そのためには多少の安全も犠牲にする覚悟が有るようだ。

 だが、そうした秘匿の陰で犠牲になるのは周辺国家の一般人の生命である。


 仮に、被害が出てから、警告を出しても何の役には立たないと主張する学者連中と米国の官吏組織との間である意味かなりの険悪な状況にまでなっていたねぇ。

 まぁ、なんだかんだ言いながらも、こちらの提言通りになったのだから、取り敢えず、問題は我々の手から別の人の手に移ったとみて良いだろう。


 いずれにしろ、危険な植物(?)であることには間違いないので、我々は手持ちを含めて、その全てを焼却処分して死滅させることにした。

 残る問題は、乾燥状態のヴォラクサン・アザミの胞子が既に拡散していないかどうかである。


 調査団では、とにかくこの植物を見つけたら、即時に焼却することにしているんだが、例の群生地以外にも存在する可能性は否定できないんだ。


 ◇◇◇◇


 俺は、秦山英一郎だ。

 2042年8月20日、WHOが異例のアラートを発した。


『本年5月中旬から調査を開始したD国調査団が、特殊な植物を発見し、同植物が動物に寄生し繁殖することが判明した。

 この植物に寄生された動物(昆虫をも含む)は、寄生された時点で麻痺状態に陥(おちい)り、そのまま同植物に養分を吸収されて死に至る。

 未だ人体実験は行われていないが、獲物として動物の如何を問わず、通常の食用肉にも寄生することが判明していることから、人体にも取り付く可能性が極めて大であり、仮にこの植物を見かけたなら絶対に近くに寄らないようにすることが肝要である。

 このヴォラクサン・アザミは、胞子状の状態で移動し、湿気の無いところに長期間放置されると乾燥し、風に乗って埃のように舞い上がって遠方へ拡散する恐れがある。

 隣接する各国の動植物検疫機関は一層の注意を払うとともに、医療関係者も特段の注意を払うことが必要と思料される。

 ヴォラクサン・アザミに関するデータ等関係資料は以下の通り。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』


 このアラートには、かなり長い学術データが続くんだが、ネットで確認できるようになっている。

 まぁ、いろんな専門家とやらがうじゃうじゃと出て来て、テレビを賑わせているようだね。


 うーん、やっぱり、厄介な奴だったか・・・。

 でも、こいつには有効な防止策なんて無いような気がする。


 特に、埃で飛んで来るのというのは、ある意味で物凄くやばいぜ。

 今はC国も国家としては存在しないから、昔のように無駄な排ガスなどは出してはいないけれど、依然として黄砂は大陸から日本へやって来るからねぇ。


 そんな中に大量に乾燥した胞子(種子?)が紛れ込んで日本各地に飛来したら、たちまち大パニックになるのが目に見えている。

 都市部に飛来したらもちろん大変だが、仮に人気のない山中に飛来しても、そこで虫でも鳥にでも取り付いて繁殖し、再度胞子を飛ばして別な動物に取り付くって奴だろうから、一旦繁殖が始まるとその拡散防止がかなり難しいよな。


 その周辺の動物が全部死滅すれば、それ以上の拡散は無いかもしれないが・・・。

 特に、日本の場合は、D国と比べると雨が多く多湿な環境だから、何処やらの砂漠みたいに乾燥するのが難しいだろうとは思う。


 但し、データから見る限りは、非常に寿命が長く生命力が強いみたいだから、本当に注意しないと危ないよな。

 取り得る対策としては、基本的に見つけたら即時に焼却処分らしいけれど、そのためにこの発表から二週間後には各地の保健所や自衛隊に臨時の特殊部隊ができたよ。


 防毒面に防護服で身を固め、簡易な火炎放射器を手にした一団だぜ。

 仰々しいかもしれないが、そうでもしなければ、万が一にでも近くに寄ってこいつに取り付かれたらおしまいだからね。


 傍に同僚が居れば、助けてもらえるかも知れないが、一旦、当該人の身体に根を張った奴が取り除けるかどうかも怪しいもんだよな。

 ちぎっても、ちぎってもまた生えてくるような奴であれば、根を張った箇所全てをごっそり切除しなければならない可能性だってある。


 がん細胞のように身体の別の部位に根を張り、発芽したりするようなものならば、もっとややこやしいことにもなるよね。

 うーん、この件で俺の出番はまず無いな。


 寄生に対する抵抗?

 そんなのは、考えたこともないし、イメージが全然湧かないよ。


 仮にあるとすれば、寄生された人体に当該植物に対する抵抗力を与えることはできるかもしれんが、大勢の人用ではなくって個別対応にしかならんよな。

 誰にでも有効なワクチン開発というわけには行かんだろう。


 アズにも相談してみたけれど、アズにもそんな薬剤は思いつかないという。

 だいたい植物に毒になる薬は、往々にして人体にも害を与えるのが普通なんだそうだ。


 それに、今、生(は)えている植物の伐採除去ならともかく、小さな埃状のものを対象にする薬は無いそうだ。

 まぁ、埃に対するアレルギーを緩和する薬品はあるけれど、こいつは埃を撲滅するものじゃない。


 二人で色々検討したけれど、精々、空気清浄機か集塵装置の設置ぐらいしか思いつかなかったな。

 ところで、全く別の話になるんだが、ついにアズのお腹に命の灯が宿ったよ。


 俺とアズの初めての子だ。

 今のところ妊娠三か月ぐらいだから、受胎から十月十日で生まれて来るなら、来年三月くらいには生まれてくれるのかな?


 俺としては、男女どちらでも構わない。

 五体満足に生まれてくれればそれだけでいい。


 アズと二人で、お腹の子を話題にして話し合うのが夕食後の日課になったな。

 そして、俺の事業の方は、全然問題が無いぜ。


 優良企業としても広く知られ始めたからね。

 依然として競合するライバル会社があれこれとちょっかいをかけて来るが、俺の会社の秘密はどうやっても探れないでいるようだな。


 ウチの従業員に手を出されても困るんで、色々なところで警備体制を強化しているよ。

 うちの会社の社宅に該当するマンション等にも会社の経費で監視カメラ等の警備システムを導入した。


 もちろん、管理者に対して所要の許可等は取り付けた上での話だよ。

 典型的な話では、玄関の鍵の厳格化だね。


 身体的特徴をキーとしているんで、AIによる顔認証システムとドアノブにおける指紋認証のダブルチェックが必要なシステムにしているんだ。

 もちろん同居する家族のために認証枠の追加は可能だが、その情報は会社にも通知されるようになっているので、無関係の第三者がドアを開閉できるようにはなっていないんだ。


 流石に個人のフリーな活動時間にまで警護や監視はできないが、最低限度の警護はできるように配慮しているよ。

 そのために黄さん達にも別途の監視体制をお願いをしているんで、今のところ従業員に問題は生じていない。


 新入社員の面接は、依然として継続しているけれど、8月下旬でほぼ一段落というところだね。

 概ね、優秀な人材確保ができそうだと手ごたえを感じているところだよ。


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