4―20 結婚と新婚旅行 その十三
エディンバラ三日目、例によって朝食でイングリッシュ・ブレックファストを食べて、一旦部屋に戻り、10時まで待ってから、ホテルの前にある靴屋さんのFoot Lockerでスニーカーを買ったよ。
そのまま履いていた靴を持って歩くのも可笑しいので、ホテルに戻ってから再出発。
最初の目的地であるスコット記念塔にたどり着いたのは10時半近くだったね。
スコット記念塔は頂上まで階段で登れるんだ。
ここは見晴らしがよいので、エディンバラを見渡すのにはとても良い場所だった。
尤も、ここで、ロシアの工作員が仕掛けて来たね。
黄さんの通報で事前に分かっていたんだけれど、こいつら車の中に爆発物を持ち歩いて、俺達の後を追いかけていたんだよ。
俺達がスコット記念塔に登り始めたのを見て、爆弾を内部に仕掛けることにしたらしい。
但し、爆弾を車から取り出そうとした際に暴発したんだよね。
奴らは人気のないところを選んでいたから、俺にとっては好都合だった。
爆発物は車の中で爆発したんだ。
念のため、爆発力は燃焼速度を押さえて四分の一以下に弱めていたんだけれど、それでも周囲百メートルほどの範囲にあった建物の窓ガラスが割れるぐらいの破壊力があった。
仮に、そのままの爆発力のものをスコット記念塔の中層に仕掛けられていたら、基部の破壊は無理でも、爆発により塔の上部ごと地面に落下させていた可能性がある。
スコット記念塔の周囲には、結構観光客が居たからね。
そういう人たちも巻き込む恐れがあったということだ。
20世紀後半、英国ではIRAのテロが頻発していた時期もあるんだけれど、最近は余り無かったよね。
むしろ、昨今ではイスラム過激派の連中が、ロンドン各所で爆破事件を引き起こしているからね。
そう言った奴らの犯行と見せかけるつもりだったのだろうけれど、関わった奴の死体が、スラブ系で中近東に多いアラブ系とは違うから、その死体からイスラム過激派の犯行と言う線は薄れるよね。
まぁ、犯人はかなり爆散していて、結構凄惨な状況だけれど、多分英国にも科捜研ぐらいはあるでしょう。
ロシア人の犯行とは断定できないまでも、それなりの捜査はするのでしょうね。
そうして、これはもう間違いなくギルティだから、今晩にでも非合法工作員の始末と、ロシアの首謀者どものお仕置きは決定だよね。
放置すると、僕らの周辺に居る無関係の人まで巻き込んでしまう。
取り敢えずは、僕らを追尾している連中の胃の中に、取り敢えずのサービスで下剤を入れてあげた。
また、ロシアの工作員が俺達に近づいてきたら、下剤を入れるか若しくは彼らが所持しているリシンを少量ぶち込むことにする。
正直なところ、リシンの致死量がどれほどなのか俺は知らないんだが、彼らが使用する量と考えている量の取り敢えず三分の一程度にするつもりだよ。
それで死んだら、『ごめんなさい』と心の中で思うだけだ。
俺も随分とワルになったもんだね。
爆発物の爆発による周辺の騒ぎをよそに、俺達は時間が無いから次の観光地へ向かったよ。
次の目的地は、エディンバラ宮殿の予定だったんだけれど、生憎と今回の爆発事件の所為で、エディンバラ宮殿の見学そのものが急遽中止されちまったんだ。
止む無く、厳戒態勢のエディンバラ宮殿を横目に見ながら、次の予定地である|The Scotch Whiskey Experienceに行ったよ。
うーん、この調子では、今日の計画にずれが出そうな感じだよね。
本当は、エディンバラ宮殿で、衛兵の交代式を間近で見るつもりだったのにそれが出来なくなったし、午後一番の予定だったスコッチウィスキーの見学が前倒しになってしまったからね。
どこかで時間調整する必要があるかもしれない。
ところで、スコッチウイスキー・エクスペリエンスでも、急遽入場者の所持品検査が行われるなど、一時的に警備が強化されたみたい。
それでも見学はできたんだから良しとしよう。
ここの庫には、三千本を超えるスコッチウィスキーが保管されており、それ見ているだけで酒飲みの心をくすぐるんだろうね。
生憎と俺とアズは、それほど酒が好きと言うわけじゃない。
でもせっかくスコッチウィスキーの本場に行くんだから、話のタネに是非見学しておこうというのが、新婚旅行の計画段階でのお話だ。
ここでは、スコッチウィスキーの製造過程を学びながら、実際に試飲することもできるんだ。
面白いのは、ウイスキーの樽に見立てた乗り物があって、それに乗って見学できることかな。
ウイスキーの原料や製造工程について詳しく学ぶことができるんだぜ。
さらに、希望すれば、スコットランド各地の代表的なウイスキーを味わうことも可能だ。
まぁ、日本で言う利き酒みたいなもんだね。
酒飲みは勿論だが、酒を飲めない者でも楽しめるよう、要所要所で丁寧に解説してくれるし、希望者には日本語でのオーディオガイドもあるんだぜ。
予約していたのは50分コースでの見学だったから、土産物屋さんに寄って、スコッチウイスキー入りのチョコレートを土産に買ったりしたけれど、それでも12時前には終わっていた。
土産が結構な量になり、それなりの荷物になってしまうから、ホテルで日本へ送ってもらう予定なんだ。
当初は昼飯は12時半か1時頃になると踏んでいたんだけれど、ここにあるAmber Restaurant & Whisky Barでランチを食べることにした。
まぁ軽いランチだからね、左程に沢山は食べないよ。
次の目的地は、Royal Mileを散策予定なんだ。
いかめしい名前ではあるけれど、エディンバラ城からホリールード宮殿へと続くメインストリートで、石畳の路地にレンガ造りの建物のパブやショップが立ち並んでいる。
ある意味で、スコットランドらしい雰囲気の歴史ある街並みを楽しめるんだ。
ネットでは、沿道にバグパイプを吹くパフォーマーがいることもあると記載されていたけれど、今回はバグパイプ奏者は見かけなかったね。
代わりに居たのは、とある映画の出演者を模した扮装でマジックを見せるストリートパフォーマーだった。
この通りは観光客が多いから、目立ちたがり屋のこんな人も出て来るんだよね。
因みに俺達を付け回していたロシア人の工作員たちは、俺の秘密処置の所為で、順次トイレに飛び込んでいるな。
従って、ロイヤルマイルに来てからは少なくともロシア人の尾行者はいないね。
なにせ、原因不明の下痢が続いているから、尾行どころの話じゃないんだ。
中には血便まで出している奴もいるみたいだ。
傍から見ると、一体何を食ったんだということになるんだろうね。
ところで、このロイヤルマイルは、約1.6キロの長さがあるんだけれど、ロイヤルマイルから枝分かれしている細い路地が多数あって、思わず寄り道したくなる風情があるんで、ついつい、アズと二人で中に入り込んでいるよ。
そのおかげで、多少の時間潰しにはなったかな。
そうして、ここのでこぼこの石畳の道を歩くために、わざわざスニーカーに履き替えたんだぜ。
因みに故エリザベス女王が、たびたびエディンバラを訪れていたようで、その際に御忍びで行ったパブなんかがこの道筋にはあって、結構有名になっているようだ。
うーん、このパブでランチを食べたほうが良かったのかなと後で思ったよ。
次の目的地は、ホーリールード宮殿。
ホーリールード宮殿は、ロイヤルマイルの東端にある英国王室の公邸で、王室の方がスコットランド訪問時に利用するオフィシャルレジデンスになるんだそうだ。
この宮殿は、1128年にデイヴィッド1世が建てた礼拝堂が元になっているようで、15世紀からスコットランドの王族の住居として使われてきたらしい。
見どころは、メアリー・ステュアート女王の悲劇的な歴史を伝える寝室や、秘書リッツィオが暗殺された謁見の間、華麗な装飾が施された大広間らしいんだが、生憎とここも、門と鉄柵が閉じられており、今日の見学は中止にされてしまったみたいだね。
俺達の新婚旅行をこんな風に邪魔するなんて、返す返すも、憎き奴らだね。
でも、まぁ、俺も悪かったのかな?
全く爆発しないようにも出来たんだけれど、安易に爆発力を弱めれば大丈夫だろうと考えてしまったからなぁ。
まさか、これほどの大騒ぎになることは想定していなかったんだ。
ホーリールード宮殿の代わりに、The King's Gallery, Palace of Holyroodhouseの見学に行こうと思ったんだが、ここも見学は中止になっていたな。
まぁ、王室関係の場所は、皆駄目と言う事かもね。
ここは、以前はクイーンズ ギャラリーとして知られていたアートギャラリーで、ロイヤルコレクションが展示されているんだ。
止む無く次の目的地カールトン・ヒルに向かったよ。
ここは170mの標高を持つ丘で、旧市街の立ち並ぶエディンバラを眺望できるんだ。
時間が有り余っていたから、丘の上にある1818年建造の旧天文台(City Observatory)に行き、内部の現代アートを見て来たよ。
ほかにも、ナポレオン戦争の戦没者を追悼するのナショナル・モニュメント(国民記念碑)(但し、こいつは予算不足で未完成のままなんだ)、トラファルガー海戦の勝利を記念して建造されたネルソン記念塔、ギリシャの円形神殿をモチーフにしたデュガルド・スチュアート記念碑などの見どころもあったよ。
何だか不完全燃焼で終わったエディンバラの二日目の観光だが、こういう時は、おとなしくホテルに戻るに限る。
俺達はホテルに戻ってプールでひと泳ぎした後、フィンランド式サウナに入り、しっかりと汗を流した後で、ホテル内の食事に行った。
ディナーは美味かったが、何となく俺は機嫌が良くなかったな。
でも、アズに当たるほど大人げなくはないぜ。
ひとしきり、夫としての務めを果たした後、良く寝ているアズを置いて俺の暗躍の時間だ。
エディンバラどころか英国中のロシアの非合法工作員をリシンで処刑して回り、最後にモスクワに跳んで数人の政府高官にもリシンをぶち込んだよ。
この処置は殺すためであり、リシンは通常使う量の二倍にした。
俺自身は、丑三つ時には何事もなくホテルに戻っていたけれどね、
もう一つロシアにお土産も残しておいたんだ。




