4―5 新規採用と懸念事項
2040年10月以降、秦山電子の従業員は、俺以外で7名体制を維持してきたが、色々忙しくなってきたので、従業員の補充のための活動を始めたのが2041年2月の半ばからだ。
手っ取り早いのはコネである。
SE/プログラム部門では、現在職員となっている一条欣也、それに三宅凛の後輩を辿り、さらに、K大学卒業生で俺の同級生で比較的優秀な者をピンポイントでヘッド・ハンティングをした。
この結果、一人は、原田晋(27歳、T工業大学卒業生、一条の後輩)をSEとして採用した。
二人目は、島津さくら(22歳、S工業大学卒業生、三宅の後輩)を、さらに、三人目に大岩慎吾(22歳、K大学卒業生、俺の後輩)の両名をプログラマーとして採用することにした。
さらに、工房と言うか、MPU製造工場の作業員として、佐野洋二(24歳)、福島博史(27歳)、相沢義三(26歳)、そうして、栗原寛治(24歳)の四人を採用した。
また、受付及び庶務担当職員として、矢尾のぞみ(23歳)と桜井由紀(24歳)を採用した。
この六人は、いずれも元派遣会社社員でくすぶっていたのを、俺が直接交渉で採用してきたんだ。
俺の鑑定能力と黄さんの仲間からの推薦が有れば、面接で為人を確認して採用するのは特に問題はなかった。
更に、経理関係と庶務関係の管理職員として、経理課長として元金融系課長職経験者である中尾修一(66歳)と、庶務課長(総務課長?)として元某社団法人の総務部長経験者である奈良山司(66歳)の両名を雇うことにした。
この両名についても、黄さん達のネットワークで選び出し、個別折衝で来てもらった人物だ。
この二人は、いずれも最寄りのA市内に住居を構え、子供たちは巣立っていて、奥さんと二人暮らしをしている。
この三月まで再雇用で勤務していたが、俺のところに引き抜かれた形になっている。
因みに、課長職は月額50万円、SE/プログラム部門の職員は月額42万5千円、庶務系事務員と工場従業員は月額37万5千円の給与を約束している。
4月~9月、10月~3月の販売実績如何にもよるが、おそらくは最低でも15%~30%のベースアップは間違いないだろうと思う。
その辺は俺の匙加減にもよるが、俺の会社で働く限りは、高給を保証してやるつもりだ。
もう一つ、今年10月までに営業職員を一人若しくは二人採用しようと思っている。
こっちは少なくとも英語等の言語がどうしても必要になるんだが、まぁ、採用してから教育してやっても良いと思っている。
アズで脳内のリミッターを解除してやった経験が生きているから、相応に言語の取得能力等を上げるのは難しくないと思う。
後、必要なのは交渉術だろうな。
交渉事と言うのは簡単には覚えられないから、天性のものが有るようにも思うんだ。
生憎と鑑定ではそこまでの能力の確認は今のところ難しいんだが、あるいは、使い続けているうちにレベルアップして化けるかもしれない。
そういうことで、新入社員の面接では鑑定を盛んに多用したよ。
今のところ能力の数値化まではできていないんだが、それができれば鬼に金棒かな?
少なくとも人を見る目は養えることになるだろう。
出来るかどうかわからんが、チャレンジする価値はあるだろう。
そんなことで、2041年4月からは新たな体制で臨むことになった。
昨年10月からの従業員は全員3割増しのベースアップだったよ。
俺の給与もキリの良いところで月に350万円とした。
ところで、会社の従業員の福利厚生関係で宿舎の手配もした。
自宅のあるやつは原則として除外だが、N駅近くの中古マンション等を12戸分押さえている。
社宅だが、入居するにはただじゃない。
管理費等もあるから場所にもよるが、単身用で月額4万円程度、妻帯者用で6万円を徴収することにしている。
これでも実勢価格に比べれば半額以下の家賃になると思う。
これにかかった費用は、ある意味で職員に対する投資だな。
一応名義上は、会社になっているから会社の資産ともなる。
いずれにしろ俺を含めると19名の社員で再スタートになった。
◇◇◇◇
ところで、昨年11月以降、秘密裏に生産し、WHOに供給を始めたX-1抗体だが、今もってどこの国でも当該抗体の生産ができていないようだ。
止む無く、二か月に一度、WHOに14.4トン配分しているんだが・・・。
無料での供給を止めにしようかとも思っている。
別に俺が金儲けをしたいというわけじゃないんだが、このX-1抗体を巡って、配分に際して多額の献金が必要とされ始めた様なのである。
このまま続けると介在する者がぼろもうけするだけのように見えたことから、WHOに警告を与え、当該無駄な金のやり取りがなされるのであれば、供給を停止せざるを得ないとして、一時的に供給を停止したのである。
WHO及びX-1抗体の配分先に、今後とも自浄機能が認められなければ、供給をしないと脅したんだ。
WHOでは総力を挙げて、当該配分先でのブラックリストを作成し、配分に際して不当な金のやり取りがあった組織、個人をリストアップし、抗体の配分先からオフリミットさせた。
そのために各国でも当該不当な要求で金儲けをしていた組織を処罰し、一応の正義を見せることとなった。
供給が止まって4か月後、WHO等からのアピールもあって、X-1抗体の供給を再開したよ。
但し、この時点でカザフ出血熱の発症率は半減していた。
おそらくは一年か二年で、新たな発症自体はほぼ根絶できるのではないかと考えているんだが、問題はワクチンとしての配分をいつまで続けるかである。
X-1抗体は、副作用も無い予防薬としての効果もあるんだ。
従って、一度摂取すれば体内に抗体が出来上がって、カザフ出血熱にかかることはない。
また、カザフ出血熱の病原体は、突然変異で生じたものではあるが、こちらの世界に居ついてしまったので、特段の変異が無い限り、そのまま存続する可能性が高いものだ。
大本の異界の病原体は既に絶滅していると思われるが、突然変異により誕生した病原体は砂漠のような気候でも、長く生存できることが分かっているんだ。
どうも仮死状態で冬眠するみたいだ。
従って、何らかの生きている細胞との遭遇が、冬眠状態から再起動するための契機だとすれば、ワクチンを接種した者との遭遇が無い限り、生き残っているものと考えられる。
因みにX-1抗体接種者に接触した病原体は、その時点で抗体によって殲滅されることが判明している。
然しながら、X-1抗体非接種者との遭遇では、発症することになるのである。
X-1抗体自体は、常温で間違いなく1年間の保存は可能だが、長い時間が経つと変質もあり得るが、明確な耐性実験は行っていない。
今のところは、昨年9月頃からデシケーターに抗体を入れ、乾燥状態でどの程度持つかを監視し始めているわけだが、少なくとも1年半程度は効能は保てるようだ。
いずれにしろ、X-1抗体の保存と有効期間についても、WHOやその他の期間で検証を推し進めるようお願いはしているところだ。
それにしても、ある程度提供している抗体の分析はできている筈なのに、世界でも有数の生化学者たちが《《多糖カリウム》》を製造することができないのは何故なんだろうねぇ。
彼らが抗体を造れるようになれば、この面倒な秘密の仕事から俺も解放されるのにとアズと二人で内緒話をしているところだよ。
そうして、少し気になっているのが渡り鳥かな。
日本にも、冬場には厳寒のシベリアを避けて南へ移動して来る渡り鳥が居る。
これらの渡り鳥が別の病原体を運んで来ないかどうかがちょっと不安なんだ。
別の病原体がX-1と同じような性質を持っている場合、潜伏期間が多少あっても渡り鳥で発症してしまえば、鳥が死んで渡っては来られないんだと思うんだが、異なる性質の病原体の場合もあり得る。
例えば。人には感染して発症するけれど、他の動物には感染しないか若しくは感染しても発症しないという病原体が有り得るんだ。
飽くまで可能性の問題ではあるが、俺が大陸で人型の人型モンスターを見かけなかったのは事実だけれど、居なかったとは言い切れないんだ。
苛烈な生存競争にも簡単には負けない種族が居た可能性もあるんだ。
そうした種族であって、特に霊長目に属するモンスターが媒介する病原体が有ったとすれば厄介である。
仲介する渡り鳥には何の害も与えないけれど、霊長類に遭遇すると発症するような事例も考えられるからだ。
俺が大陸で退治したモンスターに霊長目のモンスターは居なかったと思うが、異界からこの世界に来ていないと断言はできない。
何故ならモンスター同士で壮絶な殺し合いをしている場面にも遭遇したからな。
弱肉強食の世の中では弱い奴が先に死ぬ。
だからと言って、こっちの世界に来なかったとは言えないんだ。
特に危ないのはD国なんじゃないかと思う。
D国については、異界との空間亀裂を塞ぐために、俺が無理して原発施設に行ったけれど、それ以外ではユーラシア大陸のモンスター退治で中央アジアから極東地域に向けて探査を続けた時ぐらいしかD国を訪れていないんだ。
特にD国の原発付近は放射性物質の濃度が高い恐れがあったことから、高々度から監視をして大型モンスターの存在を確認できなかったという記憶が有るだけなんだ。
最初に原発施設に侵入した際には周囲を金属で覆って、放射線を避けていたから正直なところ俺には外界の様子がよくわからないんだが、黄さん達の話ではモンスターがうろうろしていたらしい。
幸いにもその時点では俺が遭遇することはなかったというだけの話だ。
いずれにしろ俺が原発の稼働を停止したことで電力供給が止まり、亀裂は消滅した。
従って、その後は、モンスターが異界から侵入してくることはなかったものと信じている。




