6-4
【リッガルト】
誰だ? 俺を呼ぶのは。
ほっといてくれ。俺はこのままでいいんだ。
「・・・・・・! ・・・さん! 兄さん!」
!!
テュテュリンなのか?!
薄闇の中に浮かび上がった妹の姿に驚いた。ここには誰も入って来れないはずだ。
「やっと気付いた!! このまま気付いてくれなかったらどうしようってあせってたんだからね、もう!」
久しぶりに見るテュテュリンの顔はうれしそうで、そして、やつれている。
「おまえ、どうしてここに?」
ここは俺の心の中だ。たとえ妹であっても干渉できない世界だ。
「キャナがね、わたしと兄さんの心をつないでくれてるの」
その名に胸がうずく。キャシュトニーナはルシオンが好きなんだとテュテュリンから聞かされていた。さぞや、俺を恨んでいることだろう。
「なんだってあいつがそんなことをするんだよ?」
テュテュリンはまつ毛を伏せた。
「ルシオンくんの最期の言葉を聞いたんだって。
わたしたちのことを助けてほしいって、頼まれたんだって」
なんだよ、それ!
なんだよ、それ!!
なんだよ、それ!!!
俺に殺されながら、俺の心配をしてたって言うのかよ?
「そんなことがあるもんか!」
「だよね。わたしも最初はそう思った。でも、本当なんだよ」
テュテュリンの顔は真剣そのものだ。
「なんだってそんな・・・・・・
どうゆうことだよ?・・・・・・」
さっぱりワケがわからない。
「それについては後でゆっくり考えて。すぐに答えをだす必要はないから」
頭がヘンになりそうな俺はテュテュリンの言葉にのっかることにした。とりあえず脇に置いて、何か言いたそうな妹の顔を見る。
「わたしね。兄さんにあやまらなくちゃならないことがあるの」
「謝る?」
料理に俺の嫌いな豆をこっそり紛れ込ませていたことか。
俺の白シャツはちゃんと二度洗いしてるとウソをついていたことか。
「兄さんのこと、ずっとだましてた」
やっぱりか。さあ、どっちだ?
「内緒にしている特殊能力があるの。不運って言って、自分に災難を引き寄せる能力」
なんだ。そっちか。
「そんなものあったって仕方ないよね。でも、わたしは使ってた。兄さんには守るべきものが必要だと思ったから」
「そうか。」
なんとなく、そんなことじゃないかって気はしてた。
「父さんも母さんもいなくなって、兄さんまでいなくなったらわたしはひとりぼっちになってしまう。だから、兄さんにはずっとそばにいてほしかった」
「そうか。」
「ごめんなさい。わたしはひとりがこわくて兄さんを利用したの」
「そうか。そうか。。」
テュテュリンは赦しを請うようにまつ毛をふせた。
おまえが謝る必要なんかないんだがな。
「俺だってひとりはイヤだ。だからおまえを守りたかった。守れるくらい強くなりたかった。強く、なりたかったんだ。。」
それがなんだ? このザマは。
こんなことでしか妹を守れないなんて情けない。
俺にはもう、何が正しくて何が間違いなのかわからない。
俺は正しいことをしたのか?
俺はどうすればよかったんだ?
これは俺が背負うべき問題だ。
ルシオンを殺すと決めたのは俺だ。テュテュリンは殺したくなんかなかった。なにしろヤツにホレていたんだからな。
正しかろうが間違っていようが、責任は全部俺にある。
悩むのも苦しむのも全部俺であるべきだ。妹を巻き込むんじゃない。
だから、俺はここにいる。
だから、放っておいてくれ。
「いつも守ってくれてありがとう。でも、わたしはそんなに弱くはないよ。兄さんがわたしを守ってくれるのなら、兄さんはわたしが守る。
兄さんがひとりで全部引き受けることない。半分はわたしの分なんだから」
これがあのテュテュリンなのか?
いつもうつむき加減で他人と目を合わせられずにいた妹が、今、まっすぐに俺の目を見つめている。
「おまえ、本当に強いんだな・・・・・・」
「そうだよ。知らなかったでしょ」
いたずらっぽい笑みには余裕すら感じる。
「俺は・・・・・・弱いな」
「知ってる。兄さんは弱い。昔っからそうだよ」
「そうか。そうだよな・・・・・・」
身体中から力が抜けていく。
「だからもう、ムリしなくていいんだよ。ひとりでがんばらなくてもいいんだよ」
全身が暑くなって涙があふれてきた。
みっともないぞ。妹の前で泣くなんて。
それでも、涙は止まらない。
テュテュリンの手が俺の頭を優しくなでる。いつも俺がしてやってるみたいに。おまえの手はいつの間にかこんなに大きくなっていたんだな。
「とりあえず、えらそうにしていてよ。いつも通りに。わたしは強くあろうとする兄さんが好きなの」
今の俺にそれを言うか。
「悪いな。今は虚勢を張る気力もない」
「今はいいよ。どんなに弱音を吐いても、みっともなくても。いつの日か、強がりの兄さんに戻ってくれれば」
「そうか。それでいいんだな」
大きな荷物をひとつ下した気分だ。それで俺の心が軽くなることなどありはしないが。
ルシオンを殺したという事実は一生背負っていかなくちゃならない俺の罪だ。
それでも、ひとりじゃない。ひとりでは耐えられなくともふたりなら・・・・・・
一緒に生きよう。
これまでそうしてきたように。これからもずっとふたりで!
薄闇の世界に太陽が昇ったように光が差し込んで来た。
何もかもぼんやりとしか見えていなかった世界がはっきりと輪郭を取り始める。




