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【テュテュリン】
わたしと兄さんは軍本部に連行された。
取り調べは別々に受けることになるらしい。まともに会話もできない兄さんからはなにも聞けないだろう。
憲兵が来るのを待っているとドアが開いた。取調室に入って来たのはキャシュトニーナだった。
キャナがルシオンくんを好きなのは知っていた。でも、わたしは知らなかった。
ミュウディアンでありながらセイラガムを好きになったキャナの想いが、どんなものなのか、どれほどのものなのか。
泣きはらした赤い目が、哀れなほど弱りきった姿が、すべてを物語っている。
友達だと言いながら、わたしはキャナをこんなにも傷付け悲しませてしまったんだ。
友達を裏切っておいて自分の心配ばかり。
こんなエゴイストは、地獄に落ちればいいーーーー
かける言葉なんてない。その資格もない。それでもキャナから目をそらすな。彼女の怒りも悲しみも全部受け止めなくちゃならない。
キャナは静かに向かいのいすに座った。
「はじめに言っておきますが、わたしにウソは通用しません」
「知ってる。そんなことよりもっと他に言うことがあるでしょう」
「取り調べをはじめます」
キャナはあくまで取調官でいるつもりらしい。
どうしてそんなに冷静でいられるの? ルシオンくんが殺されたんだよ! 犯人が目の前にいるんだよ!!
「怒ってよ! 大きな声で罵倒してよ!! どうしてあんなことしたんだって、わたしをぶってよっ!」
「後悔、してるの?」
キャナの言葉が身体の内にしみていくのがわかった。わたしは後悔しているのだろうか?
「後悔しちゃいけない。わたしたちは正しいことをした。そうでなくちゃならないの」
自分に言い聞かせる言葉だった。
「なにがあったのか話してくれる?」
友だちに戻ったキャナの顔を見ていると、なにもかも全部吐き出してしまいたい、そんな衝動がこみ上げて来る。
本当は、ずっと苦しかった。
だれにも言えない想いをかかえていることが。兄さんをだまし続けていることが。
「わたしの心を読んで。なにもかくすつもりはないし、キャナには全部知ってほしい。だから、わたしの心を読んで」
増えてしまった心の重荷に、もう、耐えきれない。だから、少しだけ下すのを手伝ってほしい。
「本当にいいの?」
差しだしたわたしの手を前にキャナがたずねた。
「いいよ。裸を見られるようではずかしいけど、キャナならいい」
「わかった」
心を決めたキャナがわたしにふれる。
冷たい手だった。
目を閉じて意識を集中させているキャナの顔を見ながら感じていた。冷たかった手がだんだん温かくなっていくのを。
キャナは泣いていた。
あふれる涙も、こらえきれずにもれる嗚咽も、全部わたしのものだ。キャナは泣くことすらできないわたしの代わりに泣いてくれている。
わたしの心を読み終えたときには、キャナはボロボロだった。
泣きはらした目をもっと赤くして、ハンカチで顔をふいて、ついでに鼻もかんでどうにか涙を止めることに成功した。
「わたしね。。あなたちのことを殺したいほど憎んでたの。顔を見たら自分がなにをするかわからないと思ってた」
なにを言われたって言いわけなんてできない。ひざの上の拳を握りしめキャナの言葉に耳をかたむける。
「でも。。ふたりを見た瞬間わかっちゃったんだよね」
キャナの目はうるんでる。
「ルシオンくんの、最後のメッセージの意味が」
・・・・・・え? 最後の、メッセージ?
「それはいつのこと?! ルシオンくんはなんて言ってたの?!!」
いすを倒して立ち上がったわたしの前で、キャナは左手首のリストバンドを見つめてる。
「昨日の15時少し前だった」
ああ。本当に最後の最後。ルシオンくんの命がつきる寸前だ。
そのせつな、キミはなにを思っていたの?
「突然、声が聞こえてきて、そのときはなんのことだかわからなかった。
でも・・・・・・ あなたたちを見てそういうことかって」
「ルシオンくんは、なんて言っていたの?!」
知りたい。でも、知るのがこわい気もする。息をつめてキャナの言葉に耳を澄ます。
「レイン少尉、お願いです。ふたりを助けてあげて、って」
ちょっと待ってよ!!
「キャナはそのふたりっていうのが、、わたしたちのことだって思ってるの?」
「そうだよ。あなたたち以外にない。たった今、リンの話を聞いて確信した」
「そんなわけない! 違うよ、絶対に違う!! キャナのカン違いだよ」
「違わないよ」
キャナは憎らしいほど冷静だった。
「そんなのおかしいでしょ! わたしたちがルシオンくんを殺したんだよ!!」
「そうだね。それでも、あなたたちのことが心配でたまらないんだよ」
「違う!違う!違う! ルシオンくんはわたしと兄さんを恨みながら死んだんだ!!」
わたしは頭をかきむしりながら叫んだ。
ルシオンくんはわたしたちを憎んでいるんだ!
そうでなくちゃならない。
じゃないと、わたしたちは友達を、本当の友達を殺したってことになる。
どんなときでも、それこそ今際のきわでさえ、わたしたちのことを大切に思ってくれる友達を。
これじゃ、まるで、ルシオンくんの片思いだ。
わたしの片思いのはずだったのに。。
わたしがルシオンくんを思っている以上に、ルシオンくんはわたしたちのことを思っていてくれたって言うの?
リトギルカ人だろうが、セイラガムだろうが、
父さんとシャルロットの死に関わっていようが、
6歳も年下だろうが、
友達だったって言うの?
「ルシオンくんはあなたたちを憎んでなんかないよ」
キャナの言葉はまちがってない。
わかってるよ、そんなこと。
あのときのルシオンくんは優しかったんだ。すごく、すごく優しかったんだ。
兄さんの涙をふこうとしてくれた。
ちゃんと自分を終わらせてって言ったのも、もしかしたら、わたしたちの罪悪感を減らすためだったのかもしれない。
わたしたちは大切な友達を自分の手で葬ってしまったんだ!
泣きくずれたわたしの肩を抱いてくれるキャナの手も、優しかった。。




