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ジグゾーパズルの兄弟  作者: 青と黄色の人
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3章

東京に到着した光月はスーツケースを引き、ビルの前で立ち止まった。



「うわぁ・・・。本当にここに住んでるのか・・・?」



高層ビルと聞いていたがあまりの高さに驚いて見上げ続けていた。50階はありそうだ。


僕はビルの入り口を通ると、休憩スペースもある広い空間のエントランスに入り、急に緊張が湧き体が硬直し始めた。

「3806号室・・・3806・・・。38階か。」


エレベーターに乗り昇っていく。

その途中、母さんと話した事が頭に浮かんできた。



「兄さんは僕が住む事に何か言ってた?」



「大歓迎って言ってたし、そんなに心配しなくて大丈夫よ。1人になって寂しがってるんじゃないかしら。」


そう言われても不安は綺麗に失くならなかった。


数多くのドアの前を通り過ぎ3806号を見つけ、ドアの前に立った。


心臓が奥の方でドキドキしていたが思い切ってすぐに呼び鈴を鳴らした。




「はい。」


男の澄んだ低い声がした。



「あ・・・こんにちは、鈴村光月です。」



「・・・ガチャッ」




中から出てきたのは、185cmくらいの長身で緩いウェーブのかかった髪に垂れ目で色白の青年、光月の兄、本多優貴(ほんだゆうき)である。



優貴は優しく微笑みながら言った。


「いらっしゃい、よく来たね。長い間移動して疲れたでしょ?さ、どうぞ中に入って。」


「う、うん。」


最初は思わず敬語になってしまったが、兄さんの柔らかな雰囲気に少しだけ緊張が溶けた。


ドアを開けると白い大理石のフラットな床の玄関が広がり、リビングへ繋がる広い空間があった。


「これどうしようか。ひとまずリビングに運ぶね。」


優貴は光月のスーツケースを持ってリビングへ向かう。


「あ・・・ありがとう。」




リビングに入ると一番に目についたのが眺めの良い辺り一面のガラス窓。


窓に近づいて外を眺めた。



「うわー!すごい。一面が見渡せる。」


少しはしゃぎぎみに言うと


「高い所がダメじゃないみたいで安心したよ。ちょっと心配だったんだよね、ははは。」



「すごい家だね。」



母さんが言っていたように確かに一人で住むには持て余すくらい広い家だ。

物が少ないせいかより広く感じる。


床や壁にキッチンや家電が白に統一されていて緑の観葉植物がいたる所に置かれている。

僕はリビングの様子を興味津々に見ていた。


イーゼルが部屋の角にあり、立てかけてあるキャンバスの絵をみつける。


そこには油絵の具で苔むす小川の絵が美しく描かれていて、その絵に惹かれてしばらくみていた。


「ガリガリ」

優貴はキッチンへ行きコーヒー豆を挽き始めた。



「これ・・・もしかして兄さんが描いたの?すごい綺麗。」



「え、ありがとう。一年くらい前から趣味で描き始めたんだ。」



「兄さん画家になれるよ・・・。え?1年って噓でしょ?」



「嘘じゃないよ。」


昔からなんでもできた兄さんの事だからたぶん嘘ではないがまるでプロが描いたような完成度に驚きと静かな嫉妬がよぎった。


しばらくすると、キッチンからコーヒーの良い香りがしてきた。


優貴は注ぎ口が長細いドリップポットで挽いた豆へと丁寧にお湯を注いでいた。



「そこのソファーにでも座って。コーヒー淹れてるから一緒に飲もう。」



僕の前にコーヒーとチョコレートが出された。

コーヒーは深緑の陶器で作られたおしゃれなカップでチョコレートは丸くてシンプルにデコレーションされたものだった。


「あ・・・ありがとう。なんだか本格的だね。」


対面のソファーに優貴が座った。


「お茶やコーヒーは好きなんだ。そうそう、そこのキッチンも自由に使っていいからね。あ、でもご飯のことだけど俺、料理好きだから作ってもいいかな?」


すると僕は少し呆れたように笑いながら言った。


「母さんが全然料理できないから、僕も料理したことないんだ。お湯沸かすくらいならできるけど。」


「ははは。そうだった。そういえば俺も母さんの料理食べたこと無かったな。よし、料理当番決定だな。」


僕はカップに口をつけた。何口か飲んだ後、少し大きめのチョコを半分くらい食べた。


「このコーヒーおいしい、、、芳ばしい香りがする。チョコはお酒入りなんだね。」


「ウイスキーボンボンっていうんだよ。光月はまだお酒飲んだことない?」


光月は少し反抗するように言った。


「もう20歳だからお酒くらい飲んだことあるよ。チューハイをたまーに飲んでたよ。ウイスキーはまだ飲んだことないけど・・・。」


「ふふっまだお子様だね。」


すると光月は少し頬を膨らませて言った。

「もう大人ですー。」


朗らかな会話に僕にさっきまであった不安感は消え去っていた。


そんな中優貴は口元に自分のコーヒーを持ち上げるが飲まずにじっと光月のことをみていた。


「ふぅーおいしかった~。カフェみたいだったよ。あれ、兄さん飲まないの?」


優貴は目が陰るように少しうつむいている。


「・・・。」


「兄さん・・・?」


優貴の頬に涙がつたう


「え・・・?」


「こんなことで泣いてごめん・・・。」


「僕何かしちゃった?なんであやまるの?」


「いや・・・。家族にお茶とか料理作ってあげるの久しぶりでなんか・・・感動しちゃって。」


「そんな大袈裟だなぁ」


「本当に来てくれてありがとう・・・。

実は父さんがいなくなってからずっと一人で悲しかったんだ。だから昔みたいに一緒に住めるのがすごいうれしい。」


完璧だと思っていた兄さんが涙を流し、弱い一面を見せたことにびっくりする。


「なんか照れるな・・・僕も昔みたいに兄さんに教えてほしいことたくさんあるし。これからよろしくね?」



「ぐすっ・・・お兄ちゃんって言ってみて。」


「え・・・なんでよ。お兄・・・ちゃん?」



すると優貴はうれしそうに言った。


「ほら、昔はよくお兄ちゃんって呼ばれてたからさ。思い出すなぁ。お互い姿は大きくなってもあのときのまま。兄弟なんだよ。」



「そういえば兄さんは昔もかなり泣き虫だったよね。そこはあまり変わってないみたいだね。ふふっ。」



完璧のように母によって脚色された兄さんの記憶から泣き虫だったという欠点を思い出し劣等感から少し解放され自分に近い存在ということを実感できた。


ムッとしてる兄さんが可愛くて僕は笑ってしまった。



「言い忘れちゃいけないことがあったよ。大学合格おめでとう。よくがんばったな。」


「ありがとう。兄さん。」


「部屋を案内するよ。」


廊下の両側に部屋があり、衣装部屋、納戸まであった。


僕の部屋は8畳ほどの広さですでにベッドと机が用意されていた。



「さすがに昔みたいに一緒に寝るとは思わなかったからベッドは個室に置いといたよ。」


「ははは」


「俺の部屋はお向かいだからなにかあったらすぐ頼っていいからね。」


「うん、ありがとう。」



僕は自分の部屋に入りドアを閉めて大きく息を吐いた。



兄さんがどのような人物になっているか不安だったが昔のような優しそうな人格と朗らかな会話にとても安心できた。


僕は楽しい大学生活を送れそうだと高揚するのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

まだ続きます。

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