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「おっ、通信だ。ちょっと待ってな。写すから」
卓上に設置されたガラス製スクリーンに「トミー・トラス」の表示がクローズアップする。シノメの連絡相手、もとい仕事を斡旋してくれる仲介屋といったところだろうか。
「さっきぶりだなシノメ。トミー・トラスだ。新しいお仲間もいるようだが──元気か?」
柔和な声とは裏腹にパネルに映された白いスーツを身に纏う男の目は鋭く、見つめていると今にも刺し殺されそうで、思わず気を張った。
「こいつが言ってたスコーピオン。つーか、あんたらのいざこざで仕事取られる身にもなってくれよ.......んで、結局どうだったんだ?」
シノメの馴れ馴れしい口調は相変わらず、トラスとの空気の差に少し風邪を引きそうになる。
「結論から言わせてもらうと、君達に仕事を頼む事になった。我々が手を出すには少し複雑な状況にある。頼めるか?」
神妙な面持ちで、両手を組むトラスの声には重みが増した。
「あたしらの経済状況知ってて聞いてんだろ、お前」
「同感。背に腹はかえられん、受けよう」
呆れたシノメに次いで言葉を続ける。
こちらとしても断る道理は無い。この世界で生きるにも金というものは切っても切り離せない。今の私たちはスクリーン越しに微笑するトラスの駒だ。
「よろしい、ではデータを転送する。」
転送されたデータを読み込み、スクリーンの下にある映出機から小さなホログラムマップと十数階はあるビルへの侵入経路、目標地点が出力された。
「端的に話そう。目標はこのビルの最上階にいる私の同業者「ゴルド・マーセナル」の捕縛だ」
話に合わせゴルドの写真が赤点から拡大表示される。少々肥満気味の顔からは不敵な笑みが見え、トラスとは別のやり手の気質を憶えた。
「彼は自身の保有する路地裏の土地をオモテに売り出した我々路地裏連合の裏切り者だ。既にそこの住民の大半は警察組織に面倒を見られている。シノメの警備ルートに警察が来たのもそういう理由だ」
窓から微かに入っていた陽光もどきはふつと消え、明かりは部屋の時折点滅するか弱い照明に限られる。
「おい、てことはそこオモテじゃんか。警察沙汰はごめんだぞ」
オモテ──表社会での活動はただでさえリスクが高い。身分を持たないスコーピオンにとっても避けたい所だった。
「残念だがそれは不可能だ。彼も計算高い、警官の一部に自身の保護を根回ししたようでね。このチャンスを逃せば二度と彼との接触は今後一切出来なくなると考えて良い。だが、相応の報酬は約束しよう」
シノメは肩をすくめ、こちらに目線を向ける。言葉に詰まったが、それでも進む以外に道はない。
「質問。時間はいつからだ?」
「決行は明日の十三時だが、渡すものがある。朝9時に私の事務所に来てくれ。そこからは徒歩でも間に合う。出来るな?」
トラスは手を組み直し笑みを漏らす。
「せいぜいそうやって椅子に踏ん反り返ってなよ、トラス」
「無論、大往生させてもらうよ」
シノメの嫌味は軽く受け流され、通信は向こうから切られた。短かったが、気を張ったせいか、あの戦闘からか、どっと疲れが全身に巡る。横目に見た彼女も同様だった。
「明日もあるし、今日はもう休むか」
「同意」
シノメは無造作に置かれたベッドへ倒れ込み、そのまま就寝する。
スコーピオンは新しい生活の到来に、相応の期待が生じていた。しかし不安も同じ程に──。
窓の締め切ったカーテンが風で大きく揺らされる。微かに聞こえる雨音にランナーの音がいつもより大きく感じた。




