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シノメの案内は街に住むガイドのように隅々まで知り尽くしていた。
何かと因縁をつけて来る武器屋の人狼店主、腹の内が読めない猫人マジシャン、腕は確かだが少々サイコな無免許医.......挙げればキリがないが、互いに互いをバカにし合い、それでいて助け合っている。それが微かな光しか見えない路地裏の内情らしかった。シノメとスコーピオンがそうだったように。
「あんた、うちと同じクチでしょ?」
街の案内が済み、彼女の家で立ち話している時だ。シノメはこちらを覗き込むように口火を切る。
「理解不能。もう少し詳しく話せ」
「だーかーら! 人の身から怪物に転化した奴だろって事だよ!」
「否定。私は人間だ。」
シノメは狐に摘まれたようだった。
実際、スコーピオンは人間だ。ただ、普通の人間より機械の配分が多いサイボーグというだけ。
路地裏で見せた溜め息より重い雰囲気を、それとなく肌で感じ取り、本心から軽く「すまない」と返した。
「いいのいいの、ここに来た時点でうちらは仲間さ」
シノメは破れて中が剥き出しになったソファに身を任せるように座り込む。
「路地裏連合は来るもの拒まず去るもの追わず、流れ者たちの安息場だからね」
横の空いたスペースを叩く彼女に、スコーピオンは促され、叩いた場所へ静かに座る。
「質問。私達は今何を待っている?」
居場所なき者同士の縁というものだろうか。スコーピオンは微かに不思議な心持ちになり、今すぐにでも仕事をしたい気分だった。
「落ち着けっての。さっきの警察騒ぎあっただろ? あれどうやらあたしの請け負ってた仕事と関係してるっぽくてね.......」
要はクライアントからの連絡待ちらしい。机に置かれた栄養液剤を吸入口からストローで取り込む。
「仕事とは何だ?」
「オモテに繋がる路地裏の警備さ、明らかにあっち側の人間とか、見慣れない奴をあんなふうに追い返すのがあたしの仕事」
まぁ、だったがつくけどね。と小言を漏らす。
警備の仕事が業務中に中止になるというのは、余程の事情があったのだろうか。
もしくは──大きなヤマが訪れる可能性に期待を膨らませ、液剤容器を握る手につい力が入る。
「あんた、それが良いって言ったから買ってきたけど──もしかしていっつもそんな食べ方なのか?」
丁度飲み終え、クシャクシャになった栄養液剤の捨て場に困っているとシノメが端にあるゴミ箱を指さした。
「肯定。この身体になってからはずっとこの食生活だ。」
「あたしよりずっと人間やめてるね.......」
ゴミを捨てて戻ってきたスコーピオンへ、軽蔑する視線は話すたび点滅する口元に向けられる。
無理もない、普通の食生活を送る人間が見て快く思う絵面ではないのだから。合成音声の自身の声も機械化前に近いとはいえ、やはり違和感を覚えられるのはオモテでも同じだった。
「同類。似た者同士だろう?」
「バッカ。あたしは技術をその身に享受してるだけさ、あんたみたいに魂売る度胸はないよ」
お互い怪物であることに違いは無いのだろう。だが、真に分かり合えるのは到底遠い話のように思えた。
外が暴動で騒がしくなってきた頃合い。考えも束の間に、シノメが反応し、耳元の通信機器に手をかける。




