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「はぁ!? なんでサツが.......」
音は次第に鮮明へ、かつ頭を破るように近づいて来る。蜘蛛女は展開していた六本爪を身体に沿うように仕舞い込み、慌てて地面に落ちていたジップパーカーを羽織る。
「さっさと来い! ハコにぶち込まれたいか!?」
黒衣もここで果てる訳にはいかなかった。突き刺した機械化尻尾を離し、2つの壁を交互に蹴り降り着地すると、戦闘中に破き水溜りに濡れた黒衣を再度着込んだ。
幸い、破れはしたが機械化した顎から脊椎にかけては隠せそうで安心し、ワイヤーで伸びた尻尾を短くして、左足に巻きつけた。
「そこの二人、所持している武器を手放し、決して動くな!」
サイレンの主、警官二人が車両から降りて拳銃を構えたまま向かって来る。
大人しく指示に従い、二人は持っている武器を地面に下ろし、両手を上げた。
「身元を照会しろ」
手元のおぼつかない新人警官はスキャナーをまず蜘蛛女の顔に向ける。
「で、街の番犬がわざわざこんな所になんの用向きなワケ?」
「黙れ、路地裏のクズが」
スキャンを終えると同時に警官は少女の顔を殴った。新米警官は若干怯えつつも、次に黒衣の方へ向けた。
「顔を見せろ」
「──断る」
「命令だ。二度は言わんぞ」
地に伏せた少女の睨みが刺さり、仕方なくフードを取り顔を見せると、警官達はやはり肝を抜かした。
ベテランも苦虫を噛み潰すような顔をしてその目を見ている。当然とはいえ、この反応にはどうも慣れない。
「せ、先輩! データに登録がありません!」
やはり、という表情でベテランは黒衣の腕に手錠をかけた。動揺するが、下手に動けば殺されかねない。大人しく従わざるを得なかった。
「密入国者かもしれん、連れて行け」
警官は黒衣を連行しようと、一際影の濃い地面に足を踏み入れた。
「おい」
「なんだクソガ──」
手錠のかかった女を連行する警官の顔が影に包まれると同時に、言葉は止んだ。
拘束された身体を捩り背後へゆっくりと目を向けると、そこには、黒衣の使用した2丁のハンドキャノンを両手に構えた蜘蛛女が、しっかりと警官二人の頭部に照準を向けていた。
「そこからはウラだぜ? うちらのシマに入った以上ここにもルールってのがアンだ。犬っころのあんたらでも分かるだろ?」
警官は渋々と黒衣の手錠を外し、地面へ押すように放した。
「チッ、運の良い奴らが。仲間内でおままごとでもしてるんだな」
警察車両はそのまま去り、戦闘前の静寂が帰って来る。
思わぬアクシデントだが一難は去った、だがまだ蜘蛛女との決着が残っている。武器を持たぬ黒衣は両の拳を握り交戦の姿勢を示す。
しかし、彼女の方は戦意というものが見当たらない。というより、誰かに連絡しているような素振りだった。
「はァ!? 仕事は中止!? 何言って.......」
沈黙する路地裏は彼女の怒声で一時の活気を取り戻す。ネズミが黒衣のそばを駆けていった。
「おい! こっちの事情も考えろって──聞いてんのか!?」
暫くして、少女は地団駄を踏み始めた後、大きな溜め息を吐き出す。
「──話は済んだか?」
「まぁね──っと待ちなって、戦いは終わり。今はお互いを知るべきさ」
少女は無造作に置かれた黒衣のハンドキャノン2丁と太刀を投げ渡し、自身のライフルを拾い直す。
「あたし、シノメ。あんたは?」
「──スコーピオン。」
明らかな偽名に彼女は不満気な表情を隠さない。しかし、ここに来る者は皆事情があるのだろう。
「ついて来な、路地裏──あたしの家へ招待するよ」
そうして、スコーピオンはシノメの案内を受け路地裏の奥深くへと潜る。
そこに、私の求めた世界があると信じて。




