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忘魔  作者: かぼちゃ祭り
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第三話 「はじめての言葉」

悠斗は立ち止まった。


「どうした?」


空輪が振り返る。

悠斗は少女から目を離さなかった。


「……やっぱり少し気になる。」

「だろ?」


空輪は笑う。


「昨日も一人だったし。」

「今日もずっと周り見てる。」


悠斗は少し考え、小さく息を吐いた。


「ちょっと話しかけてくる。」

「俺も行こうか?」

「いや。」


悠斗は首を振る。


「二人で行ったら警戒されるかもしれない。」

「そっか。」


空輪は少し考え、小さく頷く。


「わかった、じゃあ俺は先帰っとくわ。」

「バイトもあるし、また明日な。」


空輪は歩き出してから振り返る。


「まぁ、なんか助けが必要そうなら連絡してくれ。」

「分かった。」

「じゃあな。また詳細教えてくれよ。」


空輪は手を振り、そのまま歩いていった。

悠斗は少女へ近付く。

少女は逃げない。

ただ静かにこちらを見ていた。

近くで見ると、自分より少し年下くらいだろうか。

服には土が付いている。

どこか歩いてきたのだろう。


「えっと……。」


悠斗はスマートフォンを取り出した。

翻訳アプリを開く。

英語を選ぶ。

機械音声が流れた。


“Can I help you?”


少女は何も答えない。

悠斗の口元をじっと見ている。

英語じゃないのか。

別の言語へ切り替える。

やはり反応はない。


「困ったな……。」


その時だった。

少女が左耳へそっと触れる。

透明な耳飾りが小さく光った。

数秒の沈黙。


そして。


「……先ほどは失礼しました。」


悠斗は目を丸くする。


「え?」

「まだ、言葉を理解できていませんでした。」


たどたどしい。

けれど、日本語だった。


「急に喋れるようになってない?」


少女は耳飾りへ触れる。


「私の国で開発された……翻訳補助装置です。」

「会話を解析し、言葉をある程度理解できます。」


悠斗は耳飾りを見る。

イヤホンほどの大きさしかない。


「へぇ……。」


思わず声が漏れた。


「今はそんなのも開発されてるんだな。」

「俺、機械とか詳しくないから驚いたよ。」


少女は小さく頷く。

悠斗は耳飾りをもう一度見る。


(見たことないな。)

(海外の最新技術ってやつか……。)

(いや、俺が知らないだけか?)


その時。


ぐぅ……


小さな音が聞こえた。

少女はぴたりと動きを止める。

悠斗も一瞬固まる。

目が合った。

少女は何も言わない。

ただ、少しだけ視線を逸らした。

悠斗は苦笑する。


「腹減ってる?」


少女は意味を考えるように少し止まる。

悠斗は食べる真似をした。


「あぁ。」


少女は小さく頷いた。


「……食べます。」

「近くに店あるから。」


少女は静かについてくる。

少し距離を空けたまま。

やがてガラス張りの店が見えてきた。

悠斗が近付く。

扉は音もなく開いた。

少女の足が止まる。

開いた扉を見る。

悠斗を見る。

もう一度、扉を見る。

恐る恐る近付く。

扉は再び開いた。

少女は上を見上げ、小さく呟く。


「……近付くと、開く。」

「そう。」


悠斗は笑う。


「便利だろ。」


少女は返事をしない。

扉を見つめたまま、何かを考えているようだった。


(自動ドアを見たことないのか……?)


悠斗は少女を横目で見る。


(海外でも普通にあるよな。)

(それとも、山奥みたいな場所で育ったのか。)


そう考えると、少しだけ納得できた。

店へ入る。

少女は商品より先に店全体を見回した。


人。

棚。

出口。

天井。

視線がゆっくり動く。

悠斗はその様子を不思議そうに見ていた。

ゆっくりと店内全体を見回してから、ようやく商品棚へ目を向ける。


(店の造りが珍しいのか……?)


悠斗はそんなことを考えながらパン売り場へ向かった。


「何か食べれそうなのある?」


少女は悩んだ表情をしながら並んだ商品の中から、一つを指差す。


「これ……です。」


悠斗はクリームパンを二つ手に取りレジへ向かった。


店を出ると、近くのベンチへ腰を下ろした。

悠斗はパンを一つ少女へ渡す。

少女は包装を何度も見返した。


表。

裏。

切れ込み。

しばらく考えてから、力一杯引っ張る。

勢いよく袋が裂けた。

パンが袋から飛び出し、地面へ落ちる。

少女は動きを止めた。


「……失敗してしました。」


悠斗は落ちたパンを拾い上げる。

袋がクッションになり、土は付いていない。


「大丈夫。」


そう言って軽く払ってから一口かじる。

少女は少し驚いたように悠斗を見る。


「捨てるのはもったいないし。」


悠斗は笑いながら、もう一つのクリームパンを差し出した。


「…よろしいのですか?」

「今度はゆっくり。」


切れ込みへ指を掛ける。


「ここを少しだけ開いて。」

「そのままゆっくり引っ張る。」


袋は綺麗に開いた。

少女は中のパンを見る。


一口。


「……甘いです。」

「クリームパンだからな。」


少女はもう一口食べる。

さっきより少しだけ早い。

悠斗はその様子を見て、思わず笑った。


「そういえば。」

「そろそろ名前教えてほしいかも。」


「……ニコ…」

「え?」

「みんなからは、ニコと呼ばれていました。」


悠斗は小さく笑う。


「じゃあニコって呼ばせてもらうよ。」


少女は静かに頷く。


「はい。」


それだけだった。

二人の間に、静かな時間が流れる。


少女は空を見上げる。

悠斗もつられて見上げた。

同じ空を見ているはずなのに。

少女には、まるで違う景色が見えているような気がした。

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