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忘魔  作者: かぼちゃ祭り
2/5

第一話 「なに、これ」


白い光が視界を満たしていた。

音はない。

重力もない。

身体の輪郭だけが、ゆっくりと溶けていく。


『転移準備、完了』

感情のない音声が響く。

少女は静かに目を閉じた。

胸元のペンダントを握る。


『識別番号、SGN-558』

『最終確認を開始します』

「はい」

『帰還経路は確保されていません』

「理解しています」

『調査終了後も帰還保証はありません』


少女の瞼が少しだけ伏せられた。

脳裏に浮かぶのは、父、母、妹の顔。

もう一度会える保証はない。

ペンダントを握る手に力が入る。


「……理解しています」

『契約内容に変更はありません』

『調査の成否に関わらず、ご家族への補償は継続されます』

少女は小さく頷いた。

迷いは、もうない。


「お願いします」


世界が白く弾けた。



柔らかな土を踏む感触。

頬を撫でる風。

鳥のさえずり。

少女はゆっくりと目を開いた。


青い空

白い雲


深く息を吸う。

湿った土の匂い。

資料では知っていた。

けれど、本物はずっと綺麗だった。


静かに周囲を見渡す。

木々が風に揺れ、草花が静かに揺らめいている。

聞いたことのない鳥の声。

ここまでは報告書どおりだった。


その時。


低い音が近付いてくる。

少女は顔を上げた。

黒い大きな物体が目の前を横切る。

四つの丸いものが地面を走り、人を乗せている。

私たちの技術とは違う。

それでも、人を運ぶ道具なのだろう。

姿が見えなくなるまで目で追う。

やがて森を抜けた。

視界が開ける。

少女は思わず足を止めた。


黒く平らな道が遠くまで続いている。

その両脇には細長い柱。

柱と柱を結ぶ細い線。

赤や青に光る箱の前では、人々が足を止め、また歩き始める。


どれも見たことがない。

空を見上げる。

今度は巨大な金属の物体が音を響かせながら横切っていく。

翼はある。

けれど羽ばたかない。

それでも飛んでいる。

理解できない。

それでも、目を離せなかった。


左耳の耳飾りが淡く光る。

人々の話し声。

店の中から聞こえる音。

子どもたちの笑い声。

耳飾りは静かにそれらを集め続けていた。


少女はもう一度、街を見渡す。


「……なに、これ」


耳飾りが小さく明滅する。

『言語解析 開始』

少女は静かに前を向く。

この星を知るために。


そして、小さく一歩を踏み出した。

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