31.黄色荘3
「それがねぇ、人が近づくと明るくなる、だけなんですから、私もちょっと納得できないのよ。このランプの名前には」
「名前」
「ええ。亡くなった夫が買った時は、たしか、隠された真実を照らすランプ、という名前だって得意げに言ってたわね」
シエラはランプを見た。
乳白色の笠の奥で、光が小さく揺れていた。ぼんやり明るくなっている。
「真実を照らすのか」
「照らさないわねぇ。」
ロザ夫人は、少し申し訳なさそうに言った。
「照らすのは、足元くらいかしら」
シエラは少し考えた。
「足元が明るくなれば便利ではないのだろうか」
ロザ夫人は目を丸くしたあと、小さく笑った。
「あら。たしかにそうね」
ランプは、まるで褒められたように、少しだけ明るくなった。
シエラはランプへ顔を近づけた。
「明るくなった」
「ただ、時々こうして、ちょうどよい時に光るのよ。だから始末が悪いのよねぇ」
「始末が悪い?」
「ええ。役に立たないなら、片づけてしまおうっておもうでしょ。でも、夜には足元を照らしてくれると、やっぱり便利だからついつい、このままずっとこのままおいてあるのよ。」
シエラはランプをじっと見た。
ロザ夫人は少し声をひそめた。
「夜中に、こっそり下宿の方が食堂へ行こうとなさる時にも、光ってしまうから、うちの下宿人には評判はあまりよくないのよ」
それから、楽しそうに笑った。
「夜中にお腹が空いたという真実を、遠慮なく照らしているのからよねぇ。」
ランプは、また少しだけ明るくなった。
ランプの光は、シエラの近くで淡く揺れていた。まるで、何か言いたそうにも見えた。
ロザ夫人はそれ以上ランプのことを説明せず、南側の窓へ目を向けた。
「ここは、下宿の方が少し腰を下ろしたり、湖を眺めたりする場所なのよ。ほら、窓から湖が見れて素敵でしょう」
シエラは窓によって外を眺めた。
二階から見る湖は、午後の光で輝いている。
ビリエラの病室は一階にある。ここから見えるはずはなかったが、シエラは一度そちらを見ずにはいられなかった。




