13.王都の屋台
王都の精霊教会から、午後二時を告げる鐘が鳴った。
ゴーン……
ゴーン……
通りのざわめきの上を、重い鐘の音がゆっくり流れていく。
助祭が空を見上げた。
「もうお昼を過ぎましたね」
それからラモンのほうを向く。
「そろそろ食事にしませんか」
ラモンは通りを見回し、にやりと笑ってシエラに言った。
「そうだな。助祭殿の腹が鳴る前に行こうか」
少し間を置いて続ける。
「祈りが長くなるからな」
助祭は一瞬きょとんとして、それから苦笑した。
「……精霊よ」
シエラの唇の両端が、ほんの少し上がった。
ラモンが屋台の並ぶほうを顎で指す。
「王都の屋台はうまいぞ」
「競争が激しいからな。まずい店はすぐ消える」
シエラが言った。
「おいしそうな匂いがする」
肉の焼ける匂いも一緒に炭の煙が風に流れてきた。。
三人は人混みの間を抜け、屋台の前で足を止めた。
炭火の上で肉が焼かれている。脂が落ちて、ジュウ、と音を立てた。香ばしい匂いが通りに広がる。
屋台を切り盛りしているのは若い夫婦だった。男は炭の前で肉串をひっくり返し、女は隣でパンを切り分けていた。屋台の横では、小さな兄妹が遊んでいた。兄は木の棒を振り回し、妹はその後ろを追いかけていた。
ラモンが言った。
「三つくれ」
男が顔を上げ、にっと笑う。
「いらっしゃい!」
女も振り向いた。
「あら」
「今日は三人ですか?」
ラモンが頷く。
「そうだ」
女が笑って聞いた。
「いつものように、スープも付けますか?」
ラモンは即座に答えた。
「頼む」
男が串をひっくり返す。ジュウ、と脂が炭に落ちた。
「今日は出来がいいですよ!」
助祭が周囲を見回した。
「にぎやかですね」
男が笑う。
「五日市ですからね!」
妹が木の棒を振り上げた。
「私がこんどは冒険者!」
兄が逃げる。
「魔物だー!」
妹が棒を振り下ろす。
「えーい!」
兄は大げさに倒れた。
「やられたー!」
女が木の椀を三つ並べた。湯気の立つスープをよそう。赤い油が表面に浮いて、香辛料の匂いが立ちのぼった。皿には肉串と温かいパンが置かれる。
助祭は椀を受け取ると、すぐには口をつけなかった。胸の前で手を組み、目を閉じる。
「精霊よ」
「女神よ」
「この食事をお与えくださったことに感謝します」
祈りを終え、助祭はスープを口に運んだ。
「……辛いですね」
女が笑った。
「身体が温まりますよ」
シエラは串を受け取った。炭の香りと焼けた肉の匂いが立っていた。シエラは一口かじり、それからスープを少し飲んだ。舌に少しの辛さと旨味が広がった。思わず、もう一口飲んだ。
その横で、また兄妹の声が上がった。
「やられたー!」
そんな声を聴きながら、シエラは肉を食べ続けるのだった。
とてもおいしいと感じながら食事してるんです。皆で食べるとなぜかご飯は美味い。




