10. 装備屋
装備屋の扉を押すと、革と油の匂いが静かに広がった。
壁には盾や革鎧が並び、棚には靴や手袋が整然と積まれている。奥には槍と弓が立てかけてあった。
カウンターの向こうで店主が顔を上げた。
「……おや」
目を細める。
「ラモンじゃないか」
ラモンは軽く会釈した。
「久しぶりだ」
店主は頷いた。
「最近は景気がよかったのかい」
少し笑う。
「帰郷するって噂を聞いた」
ラモンは肩をすくめた。
「そういう話もある」
店主の視線が司祭とシエラへ移る。
「護衛か?」
ラモンが答えた。
「精霊教会都市だ」
店主の眉が少し上がった。
「遠いな」
ラモンはシエラを店主の前に押し出した。
「この子の装備を一通り頼みたい」
店主はシエラを見た。
「装備は?何を持ってる?」
シエラは首を振った。
「なにも持ってない」
店主が棚を指した。
「それなら、まず靴だ」
店主は棚から丈夫そうな一足を取り出した。
「旅用だ」
「底が厚い」
シエラは受け取り、靴底を指で押した。
「硬い」
店主が言った。
「岩道でも滑らない」
シエラは椅子に腰を下ろし、靴を脱いだ。店主の出した靴に足を入れ、立ち上がる。床を数歩歩いてみて、つま先を軽く動かした。
「少し重い」
店主は別の一足も取り出した。
「こっちは少し軽い」
シエラは履き替え、もう一度歩いた。
「こちらがよい」
ラモンが頷く。
「それでいこう」
助祭が自分の靴を見下ろした。
「……私も、買った方がよいのでしょうか」
店主は即答した。
「当たり前だ」
ラモンが助祭の足元を見た。
「その靴で街道はやめておけ」
助祭は小さく息を呑んだ。
「精霊よ……」
店主は靴を脇へ置いた。
「他はどうする」
ラモンは店の中を見回した。
「背負い袋、水筒、小袋、革紐、油布、それと手袋だ」
店主は頷き、棚から手早く品を下ろしていった。大きすぎない背負い袋、革張りの水筒、小物を分けるための小袋、結び直しのきく革紐、薄く畳める油布、掌の厚い手袋が、順にカウンターへ並べられていく。
助祭が少し感心したように言った。
「思ったより多いのですね」
ラモンは並んだ品を見たまま答えた。
「道具が一つ足りないだけで、道中はすぐ面倒になる」
「袋が足りなきゃ荷が分けられん。紐が切れりゃ結び直せん。油布がなけりゃ、濡らしたくない物まで濡れる」
ラモンは手袋を持ち上げた。
「これは手綱用だな」
店主が答えた。
「そうだ」
店主が聞く。
「馬だろ?」
ラモンは首を振った。
「雷駝鳥」
店主の眉が上がった。
「王都まで連れてきてるのか」
「ギルドの厩舎だ」
店主は頷いた。
「それならもっと厚い手袋にしたほうがいいな」
「岩場を走るなら、掌が擦れる」
ラモンは受け取って確かめた。
「ああ、これでいいだろう」
シエラは黙って二人の様子を見つめている。旅のための品が、少しずつ目の前に揃っていった。
店主はその様子を見てか、シエラに聞いた。
「旅は楽しみか?」
シエラは頷いた。
「はい」
店主は並べた靴を一度見て、笑った。
「旅を楽しくする方法は、いい靴を履け、だ」
「とくに遠くまで行くならな」
ご安心ください。もちろん、手袋も助祭さんの分まで購入してますよ。助祭さんは行きは王都まで馬車でした。




