第八話「定時制高校」
進学した定時制高校は、これまでの学校生活とは全く違う世界だった。
制服はなく、細かい校則もない。
多様な背景を持つ生徒たちがそれぞれの時間を過ごすその場所は、ある意味で非常に自由だった。
しかし、その自由さは同時に、人との交流の圧倒的な希薄さを意味していた。
クラスメイトたちはお互いに深入りせず、授業が終わればそれぞれの生活やバイトへと散っていく。
もともと他人に心を開けず、同世代への恐怖心が抜けない虹夏にとって、その距離感は好都合だった。
友達と呼べるような存在はほとんどできなかったが、誰の邪魔も入らない空間は心地よくすらあった。
そんな環境で、ただ「普通に」過ごしていただけだった。
家での地獄から目を背けるために、出された課題をこなし、時間を守って席に着く。
義務感と責任感だけで動く虹夏にとって、それは呼吸をするよりも簡単なことだった。
気がつくと、虹夏は周囲から「勝手な優等生」として扱われるようになっていた。
テストの点数は常に上位、提出物は完璧、授業態度も真面目。
教師たちはこぞって虹夏を褒めちぎった。
小学校や中学校で貼られた「おかしな子」というレッテルは、いつの間にか「優秀な生徒」という都合のいい看板にすり替わっていた。
しかし、高校1年の7月。
所属していた卓球部で、些細な行き違いから部全体を巻き込む大きなトラブルが起きた。
かつての小学校での記憶が蘇り、虹夏は「またあの時と同じだ」と心を閉ざしかける。
しかし、高校側の対応は違った。事態を隠蔽せず、理不尽に誰を責めることもなかった。
この時、高1の担任が見せた真摯な対応に、虹夏は生まれて初めて「大人のことを、ほんの少しだけ信頼してもいいのかもしれない」と感じた。
結局部活は辞めることになったが、担任の勧めもあり、虹夏は校内のボランティア活動に精を出すようになる。
同時に「勉強で結果を出さなければ」という強迫観念から、英検や漢検の取得に猛進した。
この頃から、原因不明の激しい吐き気や食欲不振が虹夏の体を蝕み始めていた。
しかし、虹夏はそれを無視して、何かに取り憑かれたようにタスクをこなし続けた。




