[#8~15-Advanced Judas Fort]:1.111+0.1-9/4119
アドバンスドユダフォート。
[#8~15-Advanced Judas Fort]
翌日。作戦決行日。
ラティナパルルガ大陸とユレイノルド大陸を結ぶ、トリカノン海域のカデシュ・シーを航行中のアドバンスドユダフォート。その上空にエゼルディがマーク。エゼルディはステルスモードで、最接近を遂げた。
「これより、“オペレーションボウディッカ”に参加するメンバーを改めて伝える。ヴィアーセント、スターセント、メイベースト、ギレイク、フェルメイド、ニケリアス、精鋭部隊アルマダ、攻撃部隊テストゥード、防衛部隊メロヴィング、外索敵部隊シェネール、応急処置部隊プリティゲイン、爆弾奪取作戦部隊クテシフォン、飛行部隊ポンペイウス、緊急応援部隊グレイアヌス、サリューラス、そして私、ニーディール。このフェーダ主力戦士78名で、カチコミに向かう。上空から落下し、母艦高甲板へ着地を挑む。落下プラットフォームに急ぐぞ」
「私とヴィアーセントとサリューラス、そして各部隊(クテシフォンを除く)から3名を選出構成した、“マザーコピー干渉&破壊組”。他のメンバーは“ツァーリ・ハーモニーの強奪組”。2つのチームに分けて、作戦を遂行させる」
「フゥーーー、アドレナリン出るなーー。今から…あの、でっかい母艦をぶっ壊しに行く。ワクワクするなァ」
スターセントは興奮しっぱなし。
「スターセントさん、私もです。身体がゾクゾクして来て、なんだかどうにかなってしまいそうですわ」
「もうメイベースト、君のそんな姿を見てしまったら僕は抱きしめずにはいられないよ」
「もう!ギレイクったらぁ、恥ずかしいから…や・め・て」
「やめないよ…僕はずっと君を見てる」
「あのさァお前ら、あたしの前でキッショい事しないでくれる」
「だってー、ギレイクが私を濡れさすんですもの」
「君はほんとに欲情がお得意な変態さんだね」
「キッショ」
「観測衛星からブラックハックデータを受信。以後5時間以内に異常気象の恐れ無し」
「作戦参加メンバー、飛行部隊ポンペイウス以外はジェットパックを装備」
「アドバンスドユダフォート高甲板に人影なし」
「ゲッコウブリッジ、全オペレーター作戦準備セクションの全作業完了」
「ラティナパルルガ大陸、ユレイノルド大陸のターミナル都市への情報回線を遮断」
「全部隊、降下シークエンスへの最終安全プロトコル達成。いつでも作戦の発動が可能になりました」
「よし…オペレーションボウディッカ、発動。降下先行部隊はポンペイウス。降下軌道を確保しろ」
「了解。ポンペイウス降下を開始します」
アドバンスドユダフォート飛行甲板への降着フェーズが始まった。ステルスモードが解除され、降下ドックが開く。ライディングタイプを特性として持つ、飛行部隊ポンペイウスが降下軌道を確認しながら、先行して出撃。続いて、各部隊が降下した。
サリューラス、ニーディールの降下行動が終了し、本格的に降下フェーズが始まった。作戦展開メンバーがエゼルディから居なくなった事を確認。降下ドックが閉じる。そして、ステルスモードが再起動され、目視にてエゼルディの所在が不明となった。
───Alert────
「信号来ました。セカンドステージチルドレン反応を確認。母艦直上から高速降下侵攻中です」
「SSC遺伝子信号キャッチ」
「フェーダが…?何故ここに…まさか…!まずいぞ…アンチSゲノムブッシュ生成、ミニマムバリア展開」
「ダメです!突破されました!」
「信号検知即敵レーザー発射」
「トリカノン海域、全方位に航行中のフリゲート艦、駆逐艦、パトロール艦へ連絡。母艦がSSCの襲撃を受けている。母艦空域の座標を送った。“0023:RPYN6410”。この空域に今現在SSCが高速接近中だ。攻撃方法は問わない。撃ち殺せ」
「了解」「了解」「了解」「了解」「了解」「了解」
「早期警戒ナノマシン アシッドビット飛行甲板より離陸。戦闘行動開始」
「アンチSゲノムブッシュは?」
「微力ながら搭載しています」
「期待は薄いな」
「アシッドビット、ブルパップフォーメーション」
────────────
「うっげぇ。なんだアイツらあ」
「スターセントー?アシッドビットよ。何回も破壊したことがあるでしょー?」
「あー、あれね。忘れてた忘れてた。楽勝過ぎて忘れまくってたよ。思い出に残らないんだよねー。弱い奴ってさ!…んて、、おい!!邪魔すんな!!」
飛行部隊ポンペイウスの面々が、自由自在に飛行能力を有し、67機のアシッドビットを撃滅。
「で、ですが…これは我々の役割のはずでは…」
「軌道確保。そう皇帝は言っていましたよ。“スターセント第2皇女”さん?」
飛行部隊ポンペイウスの隊長に、迫られるスターセント。
「ぶぅー、うっさいわね。殺りたかったのニィ!」
「第2皇女様の出番はまだまだ先ですよ。ここは我々に任せてください」
「はァ、わぁっーたわぁーった」
「スターセント、ポンペイウスに任せて、私達は着艦」
「どいつもこいつもうるさーい!!」
遠方から発射された巡航ミサイルがポンペイウスによって迎撃された。SSC遺伝子能力を最小限に抑えながら飛行が可能な飛行部隊ポンペイウスのメンバー。この作戦にピッタリの部隊だ。
「飛行甲板に到着した。ポンペイウス、空の状況は?」
「飛んでくる弾頭はありません」
「3名を飛行甲板へ要請する。残りのメンバーは空域警戒態勢を維持」
「お父さん、来たよ」
「ああ、ぶち殺すぞ…」
母艦内部から次々と剣戟軍兵士が現れる。剣戟軍は銃を構えると共に、直ぐさま攻撃を開始。
「調子に乗るんじゃないよー?このクソ共が」
剣戟軍兵士に向けたフェーダの武器は、SSCアンプルカービン。SSC遺伝子細胞粒子を弾丸に内蔵させた特殊兵器。事前に取り込んだ物という事で、現在の自分達のSSC遺伝子使用ゲージに影響を与えないというメリットがある。SSC遺伝子攻撃に変わりは無いので、威力は極大。人間に対しては相当な重引力で、身体が上半身と下半身で異なる方向へ回転する。やがて、上と下が断絶され内臓が露出。特にこの惨状を喜んでいるのが…
「やっぱ最高ーーー!!!もっと出てこーい!殺したーい」
「弾が無駄になっちゃうでしょ」
「姉さん、躊躇するなって〜。まぁいいや、さ、誰も居なくなったし、いこーいこー」
「お父さん…スターセント注意してよ…」
「まぁいいじゃないか。スターセントだって何も考えてない訳じゃないんだからな」
「お父さんってばあ…はぁ」
飛行甲板に現れた100を超える兵士を全て殺した。その殆どは“スターセント戦姫隊長”による猛攻撃。所構わず暴れる訳ではなく、しっかり外敵を見据えて自身の攻撃を振り払っている。
「ちょっとーそれ、あたしの相手だから」
「申し訳ありません、戦姫隊長!」
初っ端から他のフェーダメンバーが、相手をしていたターゲットはいつの間にか、スターセントによって殺される。その繰り返しの惨い大虐殺。フェーダメンバーの様子を見るに、これに慣れているメンバーとそうでも無いメンバーが少数いる。
俺も…僕も…私も…自分も…。みんなが人間を殺したがっているのに、次々と手柄を奪われていく。そんな果たさなくてもいい、どうしようもない、暴虐の精神が芽生える。SSCに生まれた者としての罪と罰。サリューラスは、暴虐の心を持ち合わせている…という事では無い。作戦展開メンバーの中で、そこまでダイナミックな動きに転じてない。緩やかな戦闘行動が、逆に良く目立つ。ヴィアーセントとニーディールは、サリューラスがどこまで我々に着いて来れるのか…心配したが、一人また一人と人間を殺めていく姿に、安堵した。
攻撃方法が部隊それぞれで、味が出ていた。各部隊に配属されたメンバーの特性が色濃く反映され、連携攻撃もユニットを即席で結成。部隊の枠を超えた団結力で、人間兵士を圧倒した。
──re:alert──
「ユダ母艦全区画員へ、緊急事態発生の通知を報告。SSCの飛行甲板侵入を確認しました。非戦闘員及び、開発研究員は指定の待避マニュアルを参考に緊急エスケープシステムでのカプセルリンク脱出を速やかに実行してください。甚大な被害が予測されます。可及的速やかな待避行動をお願いします。繰り返し、全区画員に向けて…」
───────
「うるせぇんだよ」
攻撃部隊テストゥードの戦士が、アナウンス機器を殴り壊した。警報音と共に鳴る機械口調のアナウンス。これが、まぁ鳴るわ鳴るわで聴覚に障害が起こりそうになる。恐らくこの聴覚障害を起こすレベルの音量設定は、海域を伝い、大陸海岸に響かせるという副次的な作用もあるのだろう。そうでもしなきゃ、ここまでデカい音量に設定する必要が無い。
飛行甲板に集合する作戦展開メンバー。ニーディールが指揮を執る。
「ここからは予定通り、2つのチームに分かれて行動する。ヴィアーセントとサリューラスとクテシフォン以外の部隊から3名、私と一緒に第1区画のコントロールブリッジへ。母艦占拠と制御ロックダウン、そしてマザーコピーだ。残りのメンバーはスターセント戦姫隊長を中心に、ツァーリ・ハーモニーが格納されている第5区画ハンジャールデッキ。指揮を頼むぞ、スターセント」
「はーい、パパも気をつけてね。……サリューラス」
いつもと声色の違うスターセントから、凛々しい声が掛かる。
「頑張って」
「…うん」
◈
ニーディール、ヴィアーセント、サリューラスを始めとする干渉破壊チームは、第1区画に繋がる第2区画シーウィードプラントへの侵攻を開始。敵兵は区画を侵攻する毎に、減少。
「本当はまだまだいるんだろうが、もう既にここから脱したようだな」
「船で?そんなこと出来ないと思うけど…」
ニーディールの考えに、サリューラスが疑問を抱く。
「エスケープシステムを使用したのよ。簡単に言うと転移装置ね。本当はうじゃうじゃいたんだろうけど、もうこの有様。閑散としてる。ここを捨てたのかしら。無理もないわね…どうせ私が殺すんだから」
ヴィアーセントが、眼光を滾らせながら殺意剥き出しの言葉を吐く。
「警戒は怠るな。レッドチェーンがどこからか、飛んでくるかもしれない…。当たらなければいいんだ。お前達の回避行動力に期待している」
「皇帝、我々インターセプト特化能力で、皇帝と皇女、そしてサリューラスをお守りしてみせますよ」
「ああ、頼んだぞ防衛部隊メロヴィング」
母艦に侵入してから、何かの異変を感じずにはいられなくなっている…。僕だけなのか…。苦痛。苦痛の果て…心の中に眠る新たな生命が開花する瞬間を今か今かと待っているかのよう。この異変は自分に、どういった影響を与えるのか。危険因子なのか。全く定かじゃない。
────◇
逃避夢
────◇
ドリームウォーカーが運ぶ、夢の痕跡。
7年間眠っていた中で、僕は夢の住人を見た。
見た…というか、情報を運んでくれた。
近づいてきたんだ。呼んでもないのに。ニケリアスが言ってた。SSCは共通して見ているんだな。
言葉と感覚と機転と可用。
ドリームウォーカーが運ぶ情報を蝕む勢力がいるのを知っている。敵対視しているのか、僕に運ぶ未来と過去の遺産に、泥を投げた。破壊行動と捉えるのが自然。
僕にとって受け身の破壊は、物理的なものでは無い。精神面を侵食する意味に相当する。個体生命の形を完結させたまま新たな情報を書き加え、確かな変革を完遂させる。僕はこの破壊と7年前から向き合っている。親2人を壊した僕の能力とは相反する特異な方法で。
爆弾奪取チームは階下。目標物が格納されている第5区画ハンジャールデッキに到着した。道中に会敵した兵士の行く末は…最早、語るべき必要でも無い事だろう。
「あたし…もう飽きたかも」
「ええー、もうちょっと…戦姫隊長、あなたは強すぎるんですから、後方にいといてくださいって言いましたよね?この前の作戦で」
「だってぇつまんないんだもん。つまんないつまんない!」
「戦姫隊長は切り札としての自覚を持つべきです。我々が死んだ後に、戦姫隊長が出るのが、テンプレートというものです」
「切り札?それって…出す戦闘シーン無いって事でしょ?」
「そうですね、我々ユニット部隊で人間なんて片がつきますから。戦姫隊長の出番は死ぬまでありませんよ」
「ちょっと!それは嫌だ!絶対嫌だ!あたし、殺したい殺したい殺したい!殺したーーーああああーい」
「それでしたら…“弁えてください”。そもそもあなたはアルシオン。エゼルディに待機しててもいいぐらいなのに…」
「フン!バッカじゃないの。あたしがやる事に意味があるのよ」
「ほぉ、なるほど…。では、私達はあなたの支援に尽くしますよ」
「当たり前でしょ…、あんたらはあたしが殺した人間たちと屍姦プレイでもしてなよ」
「なんとも卑猥な…」
「誰とでもヤるフェーダには言われたくないわ」
向かって来る剣戟軍兵士がゼロになった。通路が蒸し暑くなる。
「暑い…もう、、なんなのよ」
「戦姫隊長、着きましたよ」
第5区画ハンジャールデッキの中枢、大容量大質量格納コンテナ。
「よろしいですね、戦姫隊長」
「早くやって。もう暑すぎここ」
「クテシフォン、奪取作戦開始だ」
対象物を捕獲・奪取することに有効的な特性を持つ戦士が集う、特殊作戦対応型ユニット。こういった作戦には必ず投入される。先ず、この規模で作戦が展開される事は少ない。78名のフェーダメンバーが参加する作戦など、稀だ。
「キャプチャー展開。エレクトロキャプチャー起動」
「これ、捕獲のスキルが無くても、あたしに出来るんじゃないの?装備なんだから」
「戦姫隊長、そんなことを言わないでください。クテシフォンの戦士は、キャプチャーのプロです。ここはプロフェッショナルに任せて、我々は爆弾奪取時の防衛に努めましょう」
「わあっーたわァっーた」
クテシフォンの戦士10名が、格納コンテナの扉をこじ開け、中身を確認。エレクトロキャプチャーの磁場で、コンテナの奥に備わる爆弾へ、電磁浮遊機能を持たせる。
「これで、直接触れること無く、我々の元に引き出す」
「意外と小さいんだな」
「ええ、今は…ですね。爆弾起動時は肥大化を遂げ、とてつもない爆発を巻き起こします。能ある鷹は爪を隠す。よく言ったものですね」
「あー、そう。…フェルメイド、それ合ってんの?」
「奪取成功」
「戦姫隊長、奪取成功しました」
「時間取りすぎ…もう外出るよ。あっちあっち…」
「了解」
「もう、敵兵はいないみたいだね」
「そうね。私とギレイクの美しさで紡がれた旋律とハーモニーを、少しでも見て欲しかったのに」
「2人とも、イチャイチャするのやめて」
「あらぁ、ニケリアス、あなたにもお相手さんいたんじゃないの?」
「そう、そこでヨイショヨイショに及んだら、僕とメイベーストのような関係値を築けるはずだよ」
「恥ずかしいし…私はそこまで興味無いから」
「ええー、またまた強がっちゃってー。可愛いこと可愛いこと」
「うるさい」
次の瞬間、第5区画に正体不明の轟音が鳴る。
「侵入者を確認。対象、セカンドステージチルドレン。一部にオリジナル遺伝子反応検知。生死及び、捕獲か抹殺の承認を問う。……了解。カタパルト式自律稼働限定兵器・ジャガーノートグレイブ、最終防衛ラインでの戦闘行動開始」
「やっと、お出ましですね」
「ギレイクいくわよ。2人の愛を感じるのよ」
「戦姫隊長、出ました」
「でっけ。殺りがいありそー」
「ぶっ壊す…」
「アルマダ攻撃態勢」
「テストゥード攻撃軌道調整完了」
「ポンペイウス特殊攻撃準備完了」
「プリティゲイン蘇生結合組織新式組み換え」
「メロヴィング防御膜展開」
「グレイアヌス各部隊アルファエネルギーチャージ」
「シェネール外敵情報を高速検索。ヒットしました」
「早く言って」
「ジャガーノートグレイブ。電磁波帯電ゼロ距離突撃兵器パイルバンカー、リニアレーザーキャノン、多連装ミサイルといった重装備を携える二脚戦車。アドバンスドユダフォートの最後の切り札です。無人運転起動、軍事式人工知能の搭載。あらゆる攻撃と防御パターンを予測し、行動。戦闘経験を積みながら相手の戦闘パターンを読み取る学習機能も備わっています」
「そっかー。じゃあ、、、早くぶっ壊さなきゃねえ!」
スターセントの号令で、フェーダメンバーが攻撃を開始。それぞれの特性を活かした戦闘で、ジャガーノートグレイブを圧倒…しているかに思えた。
「なによ…この盾…」
攻撃部隊テストゥードの戦士が、ジャガーノートグレイブが展開するパルスアーマーへ攻撃。
「どうしたの!」
「戦姫隊長…!!なんだか…力が……ぬけ、、て、、、」
「まさか…この機体…。戦姫隊長、この戦い…苦戦を強いられる可能性があります」
「……アンチSゲノムブッシュ…」
盾に攻撃してしまった戦士の身体からSSC遺伝子能力が抜かれていく。そして地面に身を伏せてしまった戦士に、ジャガーノートグレイブが裁きを下した。
「そんな……」
「全部隊へ告ぐ。相手はアンチSゲノムブッシュを搭載している。しかも最新式だ。マザーコピーから放出されているエネルギーを新鮮なまま味わってるようだ」
「あーあ、容易な作戦…敵だと思ってたのにぃー」
「姫のお守りに努める予定でしたが…そうもいかなくなりましたね…」
「フェルメイド!あたしを持ち上げて!」
「了解」
フェルメイドの近接武器、両刃大剣の面にスターセントが飛び乗り、フェルメイドの大振りで勢いよく跳躍を成した。空高く舞うスターセント。
「プリティゲイン、煙幕弾!」
「りょうーかい!」
多量の煙を放出し、ジャガーノートグレイブの視界を奪った。
「ウォオオォオオオ!!!ドリャアア!!“ドロップミスト”!」
煙幕を切り裂き、天空落とし蹴りが目標に炸裂。スターセントを中心とした作戦の際に発動されるユニット技だ。SSC遺伝子が含有された特殊煙幕。その煙幕に轟速回転で突入し、切り刻みながら煙幕を抜け、回転の際に収束されたエネルギーを足へ集約。一点に注ぎ込まれたSSC遺伝子能力を叩き込んだ。誰もが目標の沈黙を予感した。だが、その時、SSCにのみ視認可能な世界がフェーダ各戦士の視界に映し出される。
「そんな…」
「戦姫隊長!」
「嘘…でしょ…」
やがて煙幕弾の効果が消え、辺り一面が元通りとなる。
改めて通常視覚にて目視された現実は、スターセントを握り潰そうとしているジャガーノートグレイブの姿。スターセントは今にも身体が拗られそうな程の湾曲を実行されていた。
「戦姫隊長!」
「スターセント戦姫隊長が…手を加えられてる…そんなことって…」
「お、、ま、、、ら……、、に、、げ…、…ロ…、、」
「戦姫隊長!」「戦姫隊長!」「戦姫隊長!」「戦姫隊長!」
信じられない光景だった。戦姫隊長があんな簡単に、大敗を期している。攻撃は当たったはずだ。あの一瞬の時間で何があったんだ…。フェーダは、真っ先に彼女の救出行動に出た。
「戦姫隊長を救出する!死なせてはならない!絶対にだ!」
「だ……め、、、み、、み………ンな……、、に、、か………て、、、…………な、、い」
◈
第1区画コントロールブリッジに向かう干渉破壊チーム。
「お父さん、結構長い道が続いてるけど…人間、現れないね」
「ああ、もう脱出したんだろうな」
「となるとさ…マザーコピーはどうするの?脱出してるんだったらそのまま持ち出してる可能性は…」
「無いな。脱出転移で持ち運べるほど、簡単な代物じゃない。母艦と一体になっているからな。取り外すにはそれ相応の代償が伴う。労力というな。だからマザーコピーはある」
「うん、あるよ。すぐそこに」
「サリューラス?どうしたの…?」
「感じるのか…?」
「うん…2人は感じない…?」
「ああ、私は感じない」
「私もよ。みんなもそう?」
干渉破壊チームのフェーダメンバーが頷く。
「そうなんだ…」
「サリューラス、きっとお前に信号を送っているんだろう…」
「信号を…?」
「ああそうだ。サリューラス・アルシオンを求めてる」
「僕を…」
「そうこうしてるうちに、着いたな。扉を超えた先がコントロールブリッジだ。まず先にこの母艦の制御を乗っ取り、完全な制圧下に置く。いつまでも航行移動されていては拉致があかん。エゼルディが空域の警護を行っているが、ずっと剣戟空軍と海軍の相手をやらせるのも負担がかかるからな」
「中に誰かいる?」
「聞こえないが…一応、戦闘態勢だ」
「お父さん、私が開けるよ」
「私も行こう」
「だめ。私とメロヴィングの戦士で開けるから」
「大丈夫だ。安心しろ。老体を舐めるな」
「……うん、判った」
「後の戦士は、サリューラスを後方に、守護するんだ。グレイアヌスは最後方にて待機。第1区画へ誰も入れさせるな」
「了解」「了解」
「いくよ」
「ああ」
ニーディールとヴィアーセントが扉を開け、先行して第1区画に侵入した。その刹那、白い煙幕が立ちこめた。
「なんだ!?これは…!」
「これって…ドロップミストじゃないの!?」
「ドロップミスト?スターセントのユニットが使うやつか?だが…、、、なんで…、ち、か、、、ら、が…、、抜け…、」
「おと…、、さん………」
「皇女!皇帝!………クソ…なんだ…いっ、、たい、、」
最後に位置していたサリューラスとグレイアヌスの戦士はその異変を直ぐに察知した。
「何かあったんだ」
「だめです。サリューラス様は、ここにいてください」
「でも!ニーディールとお姉ちゃんの信号が消えた!あの霧のせいだろ!!」
「……そうですが…」
「家族が危険な目にあってる、僕が行かなきゃ」
「止まってください!…おい、いくぞ」
「りょ、了解」
第1区画に先行して侵入したニーディールとヴィアーセント、各部隊員の信号が消えた事で危険域を予感したサリューラスは、第1区画に発生した霧の中へ飛び込んだ。
「ニーディール!ヴィアーセント!どこへ行ったんだ!」
「皇帝!皇女様!……ブフォ…」
「おい!どうした…!」
「…え、、、どうしたの…?」
「分かりません…、、、急にこいつが倒れて…」
グレイアヌスの戦士が一人倒れた。
「……後ろ!!」
「…え…」
グレイアヌスの戦士がまた倒れた。何かが攻撃して来ている。この濃霧に包まれた異常空間。ニーディールとヴィアーセントは無事なのだろうか…。自分以外の生命反応が確認出来ない…。呼び掛けをしても応答が無い。喋れない程のダメージが何かから与えられているんだ。その思考に行き着いた時、寒気がするぐらいの妙な感情が沸き立つ。
「サリューラス…、、、こないで…」
「お姉ちゃん!?どこにいるの!」
「サリュ、、…ラス…、、、にげ、るんだ、」
「ニーディール!!ヴィアーセント!どこだ!どこにいる…どこなんだ!信号が無い…消えかけてる…返事を…言葉をもっとしてくれ…、」
途切れた息苦しい声色。正常では無い。ようやく霧が晴れる。眼前に映されたのは、あの時…自分の身を拘束していた赤い拘束器具。それが、ニーディールとヴィアーセントと各部隊の戦士を締め付けていた。全員が苦しそうに悶えている。その様を取り囲むようにマスクを装着した人間の姿。
「これは、、、」
───
「やぁ…、、、もう一人のアルシオン…」
───
奥から言葉をかけてきた男がマスクを外しながら、現れる。
「第5区画ではよろしくやってるよ。君のお仲間は、かなーり苦戦しているようだねぇ。結構頑張ってるよ。アンチSゲノムブッシュに対して。アルシオンが一人、いるようだけど…握り潰したから、もう終わったも同然かな」
「貴様は誰だ…」
「俺は…、、剣戟軍だ。って言えばいいんだろうけど・実際は…剣戟軍の科学研究使節団っていう所の団長をやってる、ネクロバと言います」
「皆を解放しろ…」
「それ、よく言えるねー。こんなにもの兵士を殺しといて、襲撃しといて…もう一回言うね…“よく、言えたものだよねー”」
嘲笑うように、接近しながらサリューラスに暴投する。フェーダメンバーの生命反応が激減している。このままだと死ぬ…我慢の限界に達したサリューラスは、一気に力を貯め込められた能力をこの男に目掛けてぶち込もうとする。
「おおおーっとー。なぁにやってんのーお?君、今、どういう立場に置かれてるか分かってんのかな?この人たち…レッドチェーンに締め付けられてるんだよ。このままの状態…これ以上締め付けが…圧迫を展開すると…、、、あーあ、結構グロテスクな結末が待ってるんだよねー。この女の子は、首に絡まってるから、頭と胴体が真っ二つ。この男は、腰に巻き付いてるから股関節から下と上が真っ二つ。いやぁ、非常にグロいねーグロいねー。だから、、君、動く立場に無いから。次、動いたら、皆に巻き付いてる赤い鎖、凄い速さで回って身体ぶっ壊しに行くからね。判った??ねぇ」
「……殺してやる…、、」
「君たちフェーダは、マザーコピーを壊しに来たんだろう?“接触”も視野に入れてるのかな?その、勇気!勇気は買ってあげる!対等にやり合える兵器を作ったんだ。少しはこっちにも経験値が欲しいんだよね。まぁ、少しとは言っても最近は結構セカンドを殺せてるんだけどさ」
憤怒の顔を浮かべるヴィアーセントとニーディール。
「うァァァァァァァアアア!!!!」
ニーディールが絶叫。巻き付いているレッドチェーンから高出力アンチSゲノムブッシュが高速回転。奇怪な音を発生させながら“纏い”が劇的に強まる。
「お父さん…!!この……死ね…死ねってえぇえ!!」
「そんな口調していいのかなぁ…?SSCって可愛い人多いからさぁ、君ぐらいは助けてやってもいいんだよー?皇女さん?」
「…触んな…汚れる…」
「ハハハ…冗談だよ。…お前も殺す。ここに攻め込んだフェーダは全員皆殺しだ。下で戦ってる奴らもな。間もなくジャガーノートグレイブが戦闘を終える。足を立てている者は…まぁいるみたいだね。だが、一人。君だ。サリューラス、君だけは助けてあげよう」
「…?」
「困り果てた顔をしているなぁ。そのままの意味なんだが…もう少し深く伝えよう。人類の未来のために、遺伝子情報をくれないか。永久機関として君の身体が必要なのだ。君達が破壊しに来たこのマザーコピー。オリジナルはもう…119年も前の遺伝子情報だ。簡潔に言おう、賞味期限なんだよ。劣悪な状態にある。だから、君の遺伝子情報を主のエネルギーとしたい。そうすれば、向こう100年は安泰な生活を送れる」
「僕たちフェーダを制圧する以外に、SSC遺伝子を使う必要性があるのか?」
「中々、尖った質問をするね。それは単純だよ。人間をSSC化させるのさ。人間からSSC化…後天性セカンドステージチルドレンを生めば、人間時の人格概念を移行させたまま超次元的な能力を得ることが出来る。人類の新たな進化形態の誕生なのさ。そうなると、根幹からSSCとして生きている君たちは…邪魔な存在となるよね。この世界に攻撃性、復讐心、憎悪は不要だ。こんな危険な存在を野放しにする訳にはいかないだろう。だからと言って、SSCが滅んでもらっては困る。人工的なセカンドステージチルドレンの再現。それが大陸政府の企みだ。大罪を贖罪で覆う。だがこの罪は、未来への大いなる一歩だ。混血児であるサリューラス・アルシオン。君にしか成せない、神への道。祝福を呪縛にさせたくないのだ。力を貸してくれるか?」
「人間の協力に応じるつもりは無い」
「そうか…こんなに長ゼリフをツラツラと放ったのに、返ってきたのはそんな短文か。割に合わないねぇ」
「アアアァァアアアアアァああぁ!!!」
「ヴィアーセント!今すぐにそれを止めろ!!」
「はいはいはい、じゃあ早く決断してよ。お姉ちゃん殺すよ?」
どうすればいいんだ…僕は…。選択を迫られている。過呼吸を起こすように息苦しい。目眩。視界がぼやける。目の前に映る光景が変わった。見覚えのある光景だ。
そう…あの時。
ペンラリスとペイルニース。僕は無我夢中になって攻撃を継続させていた。周囲が黒くなり、2人の姿にだけ赤い照明が当てられた。目と耳を襲う苦痛しか感じない力の絶頂が、感覚器官を攻める。親の命令。そう言いくるめていたけど、結局は自分が起こした行動。自分が殺した。2人を殺した。僕ってなんなんだ…生きていていいのか…。愛されていたのか。2人から。嫌われてる。2人から。
──────────
「お前は、殺したな。」
「そうよ、私達を殺したのよ。」
「お前を道具としか思ってない。」
「何故あなたはそれしかできなかったの?」
「もっと考えれば、打開策はあったはずだ。」
「そうやって育てた覚えはないわ。」
「何ができるんだ?」
「何をしてくれるの?」
「ダメだったんじゃない?
「お前には教育すべき事が沢山あったな」
「あなたがどうして生まれたか」
「何を果たすために生まれたのか」
「意義を」
「憎悪を」
「タマシイを」
「穢れを」
「受肉を」
「拒絶を」
「受け入れろ」
「受け止めろ」
「お前の物語はまだ終わってない」
…
「お前は…産む意味があったのか?」「あなたを…産む意味があったの?」
────────────────────┤
「サリューラス…?ど、、、したの?」
サリューラスが床に倒れ込む。
「サリューラスに何したの!!?」
ヴィアーセントは激情。SSC遺伝子封印を諸共しない、姿に剣戟軍は恐れおののく。
「やれ」
「了解、レッドチェーン高速圧縮回転、開始」
├────────┤
「サリューラス…聞いて…あなたは良い子よ。弟に変わって、、、そう言うよ。アルシオンは…2人になっちゃうね…、、、、あなたが世界を変える瞬間を見たかったよ。人間に…殺される…なんてね。もうほら、お父さんは…だめだ…私もだめ…悔いの無いように生きなさい。自分の力でも無理なら他人を頼りなさい。ペンラリスの子だもんね。アルシオンは…“父親の性格を多分に継承する”と言われている。お母さんは…うん、凄い血を引いたね。“価値”を見つけなさい。見つけられなかったら、価値を付与される事をしなさい。あなたなりでいいわ。他人の脳を使わせちゃダメ。そしたら、あなたの価値じゃ無くなるからね。“現実と虚構”は全ての事象に対して残酷な迄に生物を突き動かす。生物に与えられた生と死は等しいものよ。だけどアルシオンは違う…呪縛の解放と果てなき力の創造がある。いい?アルシオンは、スターセントとサリューラスだけになった。お父さんとお母さんが施設から逃げた時と殆ど同じ構図よ。必ず…この血は絶やさないで。ぜったいよ。約束して」
├──────────┤
「ヴィアーセントーー!!!」
「あー、残念。残念だよ。うん、君が選択の時間をオーバーしてしまったからね。そこの皇帝さんは君が考え事をしてる間に死んだよ。これは我々が最終裁定した訳じゃないからな。勝手に死んでいったんだ。俺らを責めないでくれ。皇女さんは……すまないな。残念ザンネン」
「…殺してやる…、、、」
「まぁ、、、もう判断材料が無くなったからなぁ。天秤にかけるものーー、無いからなぁ。うん、君も殺すか!」
「殺す…殺す…殺す…殺す…殺す…殺す…殺す…」
「やれ、こいつに用は無い」
「了解。レッドチェーン、ハードツイスト」
◈──◈
「くたばれ」
◈──◈
サリューラスを中心とした爆発が発生。前兆も無い、突如の爆発に全くの受身をとる事が出来なかった剣戟軍。
「…、、、な、、んだ、、あい、、つ、い、イケェ!レッドチェーン、アイツを殺せ!しめつけろ!」
「……」
無言の表情貫通弾。18機のレッドチェーンが一斉に、サリューラスへ高速接近。無言を貫き、一切の表情を見せない俯きなサリューラスから高エネルギー収束帯が発現。一本二本三本…次々と収束帯の軌道線は増え、サリューラスの身体を纏う。ただ纏う訳でも無く収束帯に棘を持ち、その棘が一定のリズムで外敵に対しての攻撃を開始。棘から放たれる謎の物質を肉眼で確認する事は不可能だった。剣戟軍はそれに殺られていく。やがて全ての剣戟軍が殺されたのを理解したのか、収束帯の防衛本能が活動を一時停止。
─SSC Original:Online/Connect*Changing─
「サリューラス・アルシオンの自我データがオリジンに切り替わります。サリューラス・アルシオン、消息不明」
├──────────────┤
├──◈
「全員殺す」
◈──┤
◈
第1区画を出る。サリューラスは悠然と歩く。目の前から大勢の剣戟軍が現れた。
「まだ、いたんだ…。だっる」
サリューラスを見つけ次第、発砲を開始した剣戟軍。止まらない銃撃の嵐。サリューラスに直撃している。確実に直撃しているが、爆煙が発生するだけで倒れる気配は無い。サリューラスもこれを受け続ける。全く回避行動を取ろうともせずに。
「終わった?」
右手を前に向け、発現される磁場。
「なんだ…、、、!!」
眼前にいる70名以上の兵士から、何かが流れ出る。
「おい!血だ!俺の血が流れてる!!」
「おい…、、、なん、、なだ、これ…、、からだから……血がな、、く…なって、、、い、、……ク」
血液、唾液…身体に備わる液体を外部に放出させる。そして、血液のみがサリューラスに収束した。
「君達の血液は頂く。これで僕は更なる可能性を秘めた生命体に神化。もう君たちには直立を出来ないまで、血液が抜かれる。血は身体を構成する重要マテリアル。液体が抜かれても、まだ取り込む素材があるよね?内臓ももらうよ。内臓の前に、目玉、爪、髪の毛、舌、歯。人が巨人からもぎ取った部位で世界を作った構成物質。有難く受け取ることにするよ」
兵士達は言葉にならない程の激痛に襲われる。
まだ眼球を奪われていない兵士が阿鼻叫喚の現場を目撃。横を見ると口から、内臓が露呈しているのを目視した。その凄惨な地獄を見た兵士は意識を失い、その直後床に倒れ内臓の引き抜き作業が開始された。
「いっぱい、ご馳走様でした。この光景の方がいいよ。赤い方が僕は好きかな。ごめんね。皆にも家族がいるんだよね。ごめんね。友達がいるんだよね。ごめんね。恋人がいるんだよね。ごめんね。はい……え、そっちから謝ってくれないんだー。僕だけ?謝罪は。双方が謝罪した方がいいと思うけどなー。僕だけが好感度上がっちゃっていいの?うーん、ま、いっか。声帯もぶち壊しちゃったし、喋れないもんね。“残念ザンネン”」
第2区画シーウィードプラント、レッドチェーン生産工場に到着。収束帯を纏うサリューラスに恐れを成す研究員達。
「脱出してなかったんだ」
「く……、剣戟軍は…?」
「あーーーーー、死んだ」
「……こ、、やめてくれ…。この通りだ…命だけは…俺たちは雇われの身だ。政府に無理強いされて働いている。今の今までここに居るのも何よりの証拠だ。政府は俺達をなんとも思っていない。お前達フェーダの事を恨んでないと言えば嘘になる。だが、本心で手を加えようとは思ってない。命令されて動いてるだけだ」
「『美しさを手に入れるためなら、共食いだって厭わない』。狂気の歌姫、ボーヴォワール。食われた器は君主の傀儡として活動を再開させた。あんたらは政府のマリオネットだね」
「……は…た、頼む…殺さないでくれ…負けだよ」
抵抗の意思を見せない者たち。サリューラスは慈悲深くなる。
「いいよ。君たちだけは殺さないであげる」
「本当か…?ありがとう…、、助かる」
──
ころせ
──
「…!」
その声を聞いた途端、サリューラスは光線を放っていた。
「おい…!!見逃してくれるんじゃなかったのかよ」
「黙れ。気が変わった。やっぱ殺す。誰もここに残さない」
ここからサリューラスの暴虐性はエスカレート。先程まで自身の特殊能力を駆使して人外未知の攻撃を繰り出していた。それが一変して、物理的な暴力へと様変わり。見掛けた兵士を次々に殴り殺していく。襲い掛かる兵士は消えた。
「これが…レッドチェーンのサルベージシード」
サリューラスが、特殊な赤い光を放つレッドチェーンに手を挿頭す。脳に直接訴えかける女性の声。あの時の声の主だ。子供の口調。だけど何故か大人の冷静さがある。
きた?きたのね!
君なのか?
そうだよ。わたしだよ?やっときたの
…ていうことは、ここが…
そうだよ、よくみつけてくれたね!
いや、君目当てじゃないんだ。
えー、、、、なにそれ…がっかり。。
あ、、ごめん。酷いことを言った…
ううん、ヘイキ。ちょっとからかっただけだよ、ンフフ。
なんできみがいるの?
ずっとまえからいる。うごけない。
人間の仕業か?
すきでいるとおもう?
どうしたらいい?
はいりたい。
え?
ひとつになりたい。あなたと。とけあうの。おたがいのたましいとうつわが。そうすれば、わたしはここからでれるの。
わかった。
ありがとう、サリューラス。んーちょいまってね。
ねぇ!君の名前は?
ん?、、、、、、…きこえなーい!ンフフフフ…。
なんだ…自分の記憶じゃない…誰かの記憶…彼女…?今話した彼女が紡いで来た記憶だ。とてもクリアな視点映像。誰だ…沢山の子供達…。白い建物。映像が次々と切り替わる。いや、切り替わるという表現が適切とは言えない。一つの映像が一周すると違う映像が上に重なり、今まで見ていた視点映像は後方へ流される。そしてその個々の映像は素人が編集したかのようなぶつ切り。
森…。周りには誰もいない。さっき、あんなに白い建物の中に居たのに。ということは違う場所?違う人の記憶?いや…同じだ。同一人物だ。迷子になったのか…。一人で森を彷徨っている。必死に走っている。兎に角走っている。何回も転んでは立ち上がり、何かから逃げるように走る。警報音が鳴る。そうだ、警報音が聞こえる方向に走っているんだ。次第に音が大きくなる事でそれは明らかだ。だが、中々目的地に辿り着かない。転んでも、木の枝が足を引っ掻いても走り続けた。…なんだ?何だこの地面にまで揺れが響く音は。上からだ…。隕石。隕石が落ちてくる。真上。視界を占める黒の影。映像にノイズが生じる。激しいノイズだ。直撃。隕石が落下。映像は停止していない。激しいノイズだが、粗い画素で内容の確認は可能。多数の人間が包囲。男が多い。女はいないように見えた。男たちの声が微かに聞こえる。助けてるのか…?担架に乗せられ、警報音が鳴る方へ連れて行かれた…。
そんな救出とも取れる視点映像が終了。だがこれには続きがある。黒幕を間に挟み、再び視点映像が続劇。時を刻むごとに早くなる。今までの映像には無い演出。気味の悪い映像だ。高速になり何が行われているのか把握が不可能。やがて解釈完全不可の領域へと突入。秒速で黒と白と赤のバックグラウンドが明滅。
────◇
「彼女だ…判る…僕は彼女を知っている」
────◇
ユベル・アルシオン。SSCで一番最初に人類からの攻撃を受けた者。何十回にも渡る人体実験を繰り返された被検体。何年もの間、誰からも愛されること無く一人で死に絶えた女性。彼女のデータから産出されたのがマザーコピー、オリジナルユベル。
ありがとう、サリューラス。まってたよ。だれのこどもなのかな…。マースレス?フレイジア?ジュエング?あにとあねをおもいだすなぁ。
もうひとりじゃない。俺がいる。だからもう、独り言みたいな、口調はやめろ。俺が聞いてる。絶対に聞いてる…そして答える。もう無視したり、蔑んだり、嘲笑ったり、お前を化け物扱いする者はいない。いたら、俺が殺す。
ほんとうに?ころしてくれるの?
全部、殺してやる。お前が最期に願った事があるだろ?叶えてやるよ。
ほんと!?うれしい!サリューラス!ぜったいだよ?
そのためには、お願いだ…力を貸してくれ。
わたし…つよいよ?ふふふ。つまんないかもよぉ?
見せびらかすんだよ。
いいかおしてるね。カッコイイ。イケメンにはよわいなぁ…いいよ。あげる。うけとめきれるかわからないよ。いちおー、ぜんぶあげるね
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◈
「AJFより剣戟軍総本部へアラート。ネクローシス反応、オリジナルユベルの遺伝子信号を検知」
「なに!?第2区画か?」
「はい、シーウィードプラントです」
「レッドチェーンにオリジナルユベルが潜んでいたか…」
辻斬り状態で烈火のごとく第2区画を後にしたサリューラス。第3第4区画に亜空間フィールドを展開。その生成空間が区画ごと飲み尽くしてしまう。それにより当該母艦の船体構造に異常が生じる。間に空白が生まれた事により、第1第2区画が第5区画に向けて落下運動を引き起こす。海中に存在する第5区画に上層区画が機械音を何も発さずにゆっくりと沈降。第5区画へ衝撃が走る。海中に存在した第5区画は更に下へ。海面から遠かった上層第1第2区画は、一気に海面へ近づいていく。
サリューラスの暴走と亜空間発現による区画消滅は、戦闘中の爆弾奪取組にも当然伝わる。しかし、全員がその驚きを言葉で表現し切れない程に疲弊していた。もう、遺伝子能力が残されている者は極小数。一時、握り潰され倒れていたスターセントは、異変に気づき言葉を呈す。
「サリュー……ラス…、、、やった、、のか……みんな…」
区画消滅した弊害が第5区画に発生する。天蓋が無くなり、第5区画は水没の危機に陥る。メイベーストとギレイクが展開した防御膜により第5区画を一つのコロニーとして再形成。潜水艦のような“弾頭型”が浮上している状態となる。
「こ、、んなに、、、追いつめられるなんて…、、」
スターセントの周りには少数の戦士が立ち上がろうとしているが、それを確認した目標は仕留めにかかる。人間側との交戦でここまでの流血を及ぼしたのは初めてだった。
スターセントは諦めない。相手に負荷が発生する強力な遺伝子攻撃を直接攻撃である双剣の斬撃に込める。だがその全ては、無効化されてしまう。
「は、は、は、は、や…っばいかも…、、あたし……負けそうじゃん………やっばあ…恥ず、、かしい……」
──
「姉さん」
──
SSCが人間に負ける…。そう、失墜していた心の中に、光と闇に包まれた兆しが現れる。スターセントの中に入り込んできたその兆し。特定は容易であった。
「サリューラス……」
「姉さん、ごめんね。遅れちゃった」
「あなた…遅いよ……もう、、、しにそうかも……馬鹿にするなよな……あたし、、がん、ばっ、、たん、だから、、」
「姉さん、もう喋んなくていい。後は僕がやる」
サリューラスの信号が消えた。その瞬間、感じたことも無いエネルギーが光源を発しながら第5区画に現れる。光源は空間内を素早く飛び回る。それも明確な目的を持ちながら。光源は死傷しているフェーダメンバーの身体の上を、数ミリ接触。光源が個々の身体に触れた直後、フェーダメンバーが眠りから起きるように復活。
「え……、、」
理解不能の光景に言葉が出ないスターセント。そしてスターセントの眼前にて停止する光源体。スターセントの傷が癒える。完全なる復活を遂げた。
「戦姫隊長!」
「みんな…大丈夫なの?」
「はい!ですが我々…死んだはずだと…」
「これのおかげみたいね。サリューラスよ」
「ということは…マザーコピーに干渉したんですね」
「だと思うんだけど…サリューラスがいないの」
「戦姫隊長!敵はまだ動いて…」
メロヴィングの戦士が未だに戦闘行動を継続させているジャガーノートグレイブを目視したその時、超高速回転を果たす円環が、目標へ奇襲攻撃。目標はこの一発で大破。周期的な回転火力で、敵を圧倒した。
「戦姫隊長…」
フェルメイドが、スターセントを円環の方へ意識を向けさせる。何者かの影を確認したのだ。
「サリューラスだ」
光の輪を頭上に携えた、サリューラス・アルシオン。様相を変えた姿で、爆弾奪取組と再会。
「サリューラス…だよね」
「うん、姉さん、みんな、無事で良かった」
「無事…というか…」
「サリューラスのおかげでね。あなたが回復させたんでしょ?」
「うん。SSC遺伝子が辛うじて残っている戦士は蘇生出来た」
「サリューラス、皇帝はどこだ?皇女も」
「そうだ、ヴィアーセントさんは?」
「……姉さんとパパは?」
「………死んだ」
◈
「こちらメイベースト。エゼルディ、聞こえてる?」
「エゼルディ応答。状況を報告せよ」
「作戦展開終了。これより帰還する。エゼルディの要請を願う」
「了解。これより母艦へ向かう」
サリューラスが言い放った言葉をどうやったら瞬時に理解出来るのか。皇帝と皇女が殺された…。この事実がフェーダメンバー全員に、慟哭を齎す。
「パパ…お姉ちゃん…、、、」
スターセントはそう一言を残し、告白したサリューラスから、顔を後ろに振った。他のフェーダメンバーは悲しがっていた。当然だ。アルシオンが一気に2人も死んだのだ。皆がそれぞれの思いを馳せる。そして、2人を殺したレッドチェーンの凶悪さを改めて思い知る。だが今はどうこう言っている場合では無い。
「お前達、帰還するぞ」
涙ぐむ姿を見せず、スターセントは高らかに声を上げた。
◈
──2時間前。
母艦から作戦展開メンバーが降下。エゼルディは直上の高層空域へと姿を消した。
「AJFから緊急入電。阻害電波を確認。状況不明」
「周辺海域に航行している艦船の状況は?」
「駆逐艦、フリゲート艦を始めとする全ての海軍艦隊が沈黙した模様」
「こんな事をする奴らなんて他にいない。総員、第一種戦闘配置。地対空ミサイル発射。ホーミング誘導弾のモニター、表示されます」
「第7方面軍からの爆撃航空船団が離陸」
「第8方面軍は現在、無人航空機プレデターを発進させています。間もなく現着」
「AJFは現在。SSCの襲撃を受けています」
「プレデター、モニター表示スタート」
剣戟軍総本部メインモニターに出力される。映されたのは異様な姿を遂げた母艦。飛行甲板の悲惨さが、状況を物語る十分な資料。海上30mを誇る母艦の様はどこへやら。一同は言葉を失う。
「爆撃航空船団、間もなく現着」
ステルスモード起動中のエゼルディが接近中の敵機を確認。
「敵機接近、全翼機がアパッチロングボウを4機引き連れて並列飛行中」
「ンじゃ、ちょっくら我々も、作戦に参加しますかあ」
◈
──戻り、現在。
エゼルディ空挺内 指令所。
エゼルディに帰還を遂げた。
「空域に侵入者は?」
「はい、航空船団と観測無人機がやって来ましたが、アンプルタレットの砲雷撃戦で撃滅しました。あの…戦姫隊長」
「なに?」
「皇帝と皇女は…」
「ええ、、、殺されたわ」
「そんな…アルシオンが殺されるなんて…その場を目撃したのは…」
「僕だよ。僕の前で死んだ。圧縮されて爆殺した」
「サリューラス…お前は、見ていただけか?」
フェーダ戦士、ガルエルがサリューラスに迫る。
「お前は何もしなかったのか?」
「…」
「お前は何もしなかったのかって聞いてんだよ!!!」
「ガルエルやめな。私たちも同じだ。サリューラスだけの責任じゃない」
「そうだ、母艦に備わっていたレッドチェーンは特殊なものだった。太刀打ち出来なかったんだ…」
「……最後まで意識があったのはお前なんだろ?なぁ、何も抵抗しなかったのか?死んでいく様を見ていただけなのか?なあ、答えろよ…」
サリューラスの胸ぐらを掴むガルエル。
「答えろよ!!!」
「…」
「もうやめなって…」
胸ぐら掴みを制するニケリアス。
「いいよ、ニケリアス」
「サリューラス…」
沈黙が解かれる。
「君はガルエルだったね。僕がここに来てから、一回も話した事もないし、目もあってない。だけどなんだい?その僕へのツラは。恨んでるのかい?憎んでるのかい?ちょっとセカンドが死んだぐらいでムキになってどうする?仕方ないじゃないか。君達には僕が必要なんだろ?じゃあいいじゃないか、ボクが生きてるんだから」
サリューラスは途中から不敵な笑みを浮かべ、次第にその笑みが小爆発する。
「テメェ!舐めてんのか!!」
怒りの沸点に達したガルエルは、サリューラスに掴みかかり、拳を作る。その刹那、サリューラスが姿を消し、統括指令所の2階から顔を覗かせる。2階にいたフェーダメンバーは、驚愕する。
「ソルジャーデータ個体No.185、ガルエル・ワイヤード。律歴4116年、二ゼロアルカナ・ラティナパルルガ西方中継施設支部収容者。施設拘留前は、裏社会との密会を繰り返し、遊びに明け暮れる毎日。レイプ魔としても有名。落とし子を多く孕み、君が住む街には、セカンドステージチルドレン予備軍が多くできた。その全ては中絶されている。家族関係にも問題ありで16歳の時に両親を自身の手で殺す。その時、君は遺伝子能力を使わなかった。その時に口にした言葉…「俺を産んだのは、間違いじゃない」。近隣の通報で、剣戟軍が出動。何十人もの人間を殴り殺したが、その反動による加重能力損傷で一時停止。結果レッドチェーンの拘束により、君は捕まった。後に二ゼロアルカナへ、僕のおじいちゃんが奇襲を仕掛け、救出される。それが原因で、二ーディール・アルシオンには感謝の念がある…」
「お前…、、、、」
「他にもガルエルと酷似した境遇を持っている者がいるね。パディック、サーラス、ネジスト、フェンマルク、ダラス、スロースト、マギルガル…」
その後も、名前を上げ続けるサリューラス。
「君達はなんだ?君達はなんだ?なんでそんな“人間”ぶってるんだよ。いい?そんな愛情だとか、感謝だとか、嫉妬とか、情欲とか、そんな人間みたいな感情は捨てろ。セカンドステージチルドレンである事を誇りに思え。神に選ばれたんだ。お前達は、何を見てるんだ?何が映る?何が生まれる?何を求める?その全てのポイントには、必ず人間がいるんだ。僕達は、人間の手によって作られたんだよ。そして、今も尚、その呪縛から逃れる事はできない。人間は“これ”を“大罪”だと言う。そんなもので片付けやがって…。大罪なんかじゃない。神の贈り物…いや、もっと上だ…俺らを創造したのは、もっと上の奴らだ」
「それは、、誰なんだ?」
「宇宙だよ。宇宙が僕達を創造したんだよ。僕はこの目で見た。何故お前らがアルシオンを必要としているのか…よくわかったよ」
「サリューラスは、なにをみたんだ?」
「降ってきたんだ。小惑星が⋯。それだけ言っておく」
「フェーダの新たな皇帝は僕だ。ツァーリ・ハーモニーを手に入れた。今世界では大々的にアドバンスドユダフォートの事件が報道されている。これは明日の大ネタになる確定のサイン、チャンスだ。計画時以上の最高の襲撃に関連するサブイベントだよ。この混沌がね。人類は恐れている。敵意剥き出し?ハハッ…きっとビビってるに違いない。だけど、ある程度の迎撃はしてくるだろう。アンチSゲノムブッシュ。この兵器が如何に我々への極大なダメージを与えるという事が、よくわかった。だから、今までの君達じゃダメだ。」
「だけど、マザーコピーはもう無い。人類には俺達と対等に戦える武器なんて無いはずだろ」
「そうかもしれないけど、もっと人間達を震えあがらせないと。恐怖を与えるんだよ。畏怖。僕の力を付与させる」
「サリューラス、あんたユベルの力を授かったの?」
「そうだよ、僕の身体には今、“胎芽”がいる。もう止められない。止まる気も無い。君達も望んでいただろ?これで終わらせるんだよ。僕達を無下に扱い、蔑み、身勝手な判断、自分が望んでた“代物”じゃ無ければ人身売買に出す、能力者との一緒の生活なんて苦しいから…。皆がされてきた事は、全てインプットされた。全部だ。“ロストアーカイブ”。全てのセカンドステージチルドレンの記憶を追う事ができる。でも、あまり使わないことにするよ。あと、言わない」
「サリューラス…」
「姉さん?」
「お前に託す」
スターセントがサリューラスの目の前に立つ。
「選ばれたんだ。何故ユベルがお前を選んだのか…お前に、フェーダの運命を託そう」
スターセントのこの言葉で、他のフェーダメンバーにも戦いの灯火が点る。そしてサリューラス・アルシオンへの忠誠を誓った。
「ユベル?みんなに分けてあげて」
◈─────Original────◈
◈───────────◈
サリューラスとの融合を果たした“胎芽ユベル”のエネルギーが、具現化される。迸る稲妻と熱炎がその超絶パワーを物語る。その具現化されたエネルギーは、遺伝子の二重螺旋を描くように捻じ巻かれる。その様をフェーダメンバーが見守る。二重螺旋はフェーダメンバー全員の身体に取り巻く。一人一人に二重螺旋は周回行動を続け、未知なるエネルギーを分け与えていく。各々の身体で次第に効果を表す二重螺旋の分与。形成される強靭な肉体と新たなサイコパワー。今までのセカンドステージチルドレンを凌駕する段違いのSSC遺伝子を感じた。
全員への分与が終了する。
─────
「さぁ、戦争が始まるよ」
─────
フェーダメンバーが雄叫びをあげる。
目に見えるまでに漲る位相空間の波長膜がお互いに交差し合い、色彩豊かなカラーを発現させている。
この現象、最初は赤、青、緑、青、黄、水色、と光明な配色が目立ったが、時間経過でそれは陰が中心となるカラーに変色される。
最終的には黒からワインレッドの間を自分達の都合のいいようなペースで循環。漆黒を彷徨う錯綜が、ラティナパルルガ大陸最重要地点“ツインサイド”に猛威を振るう。
もう後でー




