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[#135-ゲヴァリィの穹窿【3】]


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


「ありがとう。⋯⋯⋯⋯御三人には、そう言った方がいいみたい」

サンファイアとアスタリスによる沈黙。長続きするのは宜しくない。解けた緊張の糸は、フラウドレスからの告事が起因である。


「⋯⋯⋯ありがとう」

「⋯⋯⋯⋯」

「アスタリス」

「あぁ?」

「『あぁ?』じゃ無しに」

素直になれないアスタリスを優しく宥めたフラウドレス。その光景はまるで本当の家族のように見えた。

「⋯俺は言わない」

「アスタリス⋯⋯」

「いいよ、フラウドレス。彼らしくていいじゃない────さて。脱出させましたよ?スカナヴィア」

「原世界の召喚者があんな公然の中で、何をするつもりだったんですか?」

「僕とアスタリスは、セラヌーン姉妹と一緒に帝都ガウフォンへやって来た。二人から聞くと乳蜜祭が近日で最も人が一箇所に集まる場所だと聞いた。それと⋯ミュラエとウェルニ、二人の想いも聞いた。アトリビュートの奴隷化制度」

「あんたらァも同じ胎芽少女の遺伝子を刻印されている事は?」

「あぁ聞いたさ。ずっとずっと前の話だったから、胡散臭くて俺は断片的にしか記憶していない」

「断片的にで充分です。長期記憶させるような出来事では無い」

「サンファイアはー、サンファイアはー⋯⋯二人に気を寄せていたみたいだね!」

「⋯気なんて⋯⋯僕はそんなつもりは⋯⋯⋯」

「サンファイア、私じゃなくても⋯⋯⋯誰が見ても、セラヌーンへの愛は了解の意を超えてる」

「姉さん⋯。それは少し恥ずかしいか⋯」

「恥ずかしい事なんかじゃないわ」

「姉さん⋯」

サンファイアの左頬を、フラウドレスは右手で支える。“姉さん”と慕う、この世で最もサンファイアが愛を注ぐつもりである存在からのタッチは、恐ろしい程に凶悪な術式効果が効いていた。

フラウドレスの、眼差しと、温暖であり寒冷を時々感じてならないスキンシップ。

「そうだね。恥ずかしい事なんかじゃない」

取り憑かれたかのような、変動無き呼吸音と、揺れぬ血管。細胞が一定値をマークしており、確実にサンファイアがサンファイアで無くなる瞬間が訪れていた。


「止めとけ、フラウドレス」

ヘリオローザからの警告。ヘリオローザから見えている光景は、他の者とは違うものだ。フラウドレスから顕現されているルケニア“シャルルマルラン”は、サンファイアとアスタリスを食い尽くそうとしている。

それは“殺害”といった虐殺的行動概念による思考結果では無い。当該行動の起因は、セラヌーン姉妹への不要な嫉妬心に他ならない。


「欲情が過ぎた⋯ごめんなさい」

フラウドレスの手がサンファイアから離れる。


「これから⋯僕らはどうしたらいいの?」

「素朴な疑問だなこりゃあ、決まってんだろ?戻るんだよ」

「戻るって⋯元いた世界にか?」

「そこしかねぇだろ?他にどこ行くってんだよ」

「原世界では戦争の真っ只中だァ。それに加えて、メルヴィルモービシュによる位相円盤転移召喚となれば、容易に元通りなぞ、考えない方がいい」

「それにさ!それにさ!あんな血みどろな世界に戻って何がしたいっていうのよ!」

「そんなもん決まってんだろ。あんな世界にしやがった人間たちへの復讐だ。俺らはその為に、施設から“脱出”したんだ」

「脱出?それは間違いです。施設破壊に巻き込まれ、余儀無く、マーチチャイルドを離れたまで⋯では?」

「共鳴現象⋯⋯ですか?」

「はいサンファイア。正しくその通りでございます。皆様の所在国であった土地への重点的爆撃⋯お察し致します」

「もうすぐに!もうすぐに!重点的爆撃の共鳴現象が伝わってくる頃だよ。一週間以内にね」

「復讐心だけを心に宿すのはやめた方がァいい。お前らはもう大罪人だ」

「だったら尚更、元いた⋯⋯“原世界”⋯⋯に戻りてぇんだよ」

「僕は⋯⋯⋯ここに居たい」

「はぁ??」

「ミュラエとウェルニを助けたい。どんだけ時間が経ってもいい。きっと二人はあの中で生き永らえる」

「サンファイア⋯お前、マジで言ってんのか?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「まったく⋯⋯⋯俺はそこまであのイカれ姉妹に肩入れしてねぇぞ」

「僕は、ここに居たい。⋯⋯残るべきだと思う。故郷に戻りたい⋯とは思う。でも、もう既に僕らの知ってる故郷じゃぁ無いんだよ、アスタリス」

「そうした元凶が、原世界には居るんだ。お前らソイツらがのそのそと生き延びてる事に、憤激しないのか?」

「全くしない⋯とは言い切れない。だけど、見切りをつける事も大事だよ」

「意味が分からねぇ⋯全然分かんねぇ⋯フラウドレスは違うよな?お前だって言ってたじゃねぇか散々!」

「姉さんにそんな口使いはするな」

「うるっせぇな黙ってろ。なぁフラウドレス、お前から⋯すごいのが伝わってくるぞ⋯フラウドレスの細胞粒子が、犇めき合っているのを感じる。なぁそれって、ヘリオローザとの再会で強まったんだよな?今のフラウドレスなら、可能なんじゃねえのか?⋯⋯原世界に戻るなんて事」

フラウドレスへと迫るアスタリス。フラウドレスはそれをしっかりと、間近で受け止めた。決してその場から離れたりはしない。

アスタリスの言い分も分かる。

フラウドレスだって、思いは同じ。


“原世界”⋯。

フラウドレス、サンファイア、アスタリス。いつの間にか、その言い回しが共用語のようになっていた。


「アスタリス、私も⋯サンファイアの意見を肯定したい」

「⋯⋯⋯⋯」

迫り寄っていたアスタリスが、後退。蹌踉めくように、後退りするように、自分の居場所が否定されたかのように⋯アスタリスは、フラウドレスの元から離れる。

フラウドレスからの言葉はこの短文では終わらない。


「アスタリスの言い分も判るよ。判る。間違いない。私だって殺したい。あんな目にあわせた敵国の兵士を許すつもりは無い。けど⋯まずは、私たちが生きてる事を先決すべき。それが固まり次第、原世界へカチコミに行きましょう」

「姉さん⋯⋯」

「ええ、アスタリスの言う通り、原世界に行けるかもしれない。そうよね?スカナヴィアの血戦者さん?」

「はい。“ネロヴー機関”が往還を修得出来るに等しい力を付与するかと。確定的な判断は出来兼ねますが、薔薇の暴悪と融合を遂げているラキュエイヌ一族の跡継ぎなら⋯」

「ゲットゲット〜〜!!!」

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