[#135-ゲヴァリィの穹窿【1】]
[#135-ゲヴァリィの穹窿]
「どうすんだァ?このままミュラエを亜空間内に回廊させるのか?」
「それは出来ぬ事です。貴君の神組織がズタズタに引き裂かれてしまいます。亜空間内の磁場物量はシェアードフィールズ現象のソレと同等。人の形を維持する事など不可能です」
「じゃあァ、このままセラヌーン丸ごと置いてくか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
司教座都市スカナヴィアにて行われる緊急会議。
拒絶反応を出す亜空間によって、空間転移は思わぬ問題を招く事態となってしまう。
見兼ねたヘリオローザは、血戦者に待ったを掛け、このまま亜空間回廊を継続させる事を勧めた。
「私がこいつを連れ出す」
「⋯⋯⋯⋯⋯はい。判りました。薔薇の暴悪なら、可能かもしれません」
「⋯⋯⋯⋯⋯本当なのかァ?」
「やらせてみる価値は大アリ大アリ!」
遺伝子螺旋三体は、各々のエネルギーを一つの場所へ集約させる。集約されたエネルギーは、上空にて新宇宙を形成。新宇宙は極彩色で塗られ、直線、曲線、四角形、楕円形、菱形、円柱等の形状に統一性の無い、図像が次々と生み出されていく。これの逆転版の事を、“ジオメトリック”と称するのだが、当該事象は“ジオメトリック・カウンター”として取り扱う事にする。
遺伝子螺旋が新宇宙を創成すると先早に、矮小化現象が発生する。あのまま新宇宙を創成していれば、確実に戮世界テクフル自体が無くなっていたであろう。因みにジオメトリック・カウンターが、生み出される際にフラウドレス、ヘリオローザを筆頭とする者たちへの影響は皆無だ。
極大エネルギーが力点の数を問わず、高速回転しているのに、全くの問題は皆無。
やがて新宇宙は、既出の亜空間と合体。新生した亜空間をヘリオローザへと差し出すと、VキューブSは遺伝子螺旋であった姿から、“二重螺旋”の構造へと形態を変化。
外部へと放出された異形生命体の能力解放と関係があるようだ。ますますその姿は、名前のごとく“遺伝子”の連なりと酷似している。
「血戦者ー、ありがとなー」
「─────」「─────」「─────」
ヘリオローザはジオメトリック・カウンターと亜空間を合体させた張本人たちである遺伝子二重螺旋“VキューブS”及び、血戦者へ礼を言う。当人たちからの反応は確認できなかったが、ヘリオローザは満更でも無い様子。
上空への視線を逸らし、地面へと気絶している“はず”のミュラエを抱き抱えた。彼女を両手で持つと、まるで大きい大きい心臓を両腕で支えているかのような、鼓動の強さを感じた。
「なんだよこいつ⋯頑固な女だなぁ⋯⋯⋯人間なんてどうせ死ぬんだから、さっさと死を選べば良いものを⋯ま、だからそう簡単には死なねぇのか」
両腕にはミュラエ。その横には、彼女が何をしようとしているのかを、マインドスペースにて思い知ったフラウドレス。フラウドレスは、ヘリオローザに“それ”が可能なのかどうなのか⋯不安で仕方が無かった。
◈
「助けてやるんだから、感謝しなよ自己中女が」
ヘリオローザはニュートリノ・レイソ“イヴァンリッピ”を発現する。
イヴァンリッピは発現直後、直ぐにヘリオローザの元から離れ、ジオメトリック・カウンターの傍へと寄る。特に強風等に関連する害悪オブジェクトが近くに無い事は分かり切っていても、たとえ矮小化された新宇宙と言えども、紛うことなき“ダークホール感”漂うその姿は、まさに負の絶頂。イヴァンリッピは余裕綽々とその巨体を、ジオメトリック・カウンターと身体を並べていた。
そして、浮遊中のイヴァンリッピが更なる上空へと白色粒子を散布。ばら撒かれた白色粒子は、“極光抹消”を発動させ、広域型に転変。
光の照射力は他のニュートリノ・レイソとは全く異なる桁違いのパワー。まず、空間を裂傷させる力を誇る光の刃。
刃から始まり、兵器連鎖は留まる所を知らない。
物理攻撃のブツは、遠方攻撃へ。
機関銃へと姿を変えると、光照射は一気に散弾的な能力を見せる。それだと機関銃では無く、“ショットガン”に相当するのだが、そこまで実在兵器への忠実さは無いようだ。
空間裂傷をアートデザインしていき、空は見違える。蒼穹は、純白さを極め、空なのだから“雲海が広がった”とも解釈が出来る。
しかし、そんな所感を述べていては、ニュートリノ・レイソの餌食となるのも時間の問題だ。足掻く必要性のある問題が、他者にとっては発動するのだから。
“新規の空”。
誰も予想がつかない。範疇外の空。
凍てつく氷よりも、颯爽と拡大される、冷酷で非道。場違いなまでに、美しい真っ白なキャンパス。空気の淀んだ箇所は明確になり、発見され次第白色粒子が新たな兵器を再現する。新兵器は、既出の兵器を抜粋するのでは無く、実在から創造まで。それは神話をも切り抜く。
冒険心のある白色粒子“イヴァンリッピ”。
亜空間内からミュラエまでに続く道程が作成された。階段状の形となっているものの、足をそこに付けてはならない。イヴァンリッピの宿主以外は。
それと、ラキュエイヌ一族の裔。
「⋯⋯⋯ヘリオローザ⋯これは⋯⋯」
「視えたんでしょ?戮世界の環境適応で、私は私自身の異能を“思い出した”。思い出したって⋯⋯⋯本当は描けてはいたけど⋯ボンヤリだったっけ。原世界では出せなかったんだ」
イヴァンリッピが作成した新規の空。極光抹消によって新規の空が発生。真理を作るのは如何なる時も、強者のみ。
弱者に理を作る技能は無い。どんな時代でも、当ルールはが逸脱することは無い。
作成された道に、ミュラエは連行される。ミュラエの身体を持ち上げているのは、イヴァンリッピの創造物群。名前は与えられていない。
大量の白色粒子がミュラエを積載し、亜空間内へと回廊するまでの道程を歩む。
「ヘリオローザ」
「分かるでしょ?まだやってほしい事があるの」
「分かっている」
イヴァンリッピが宿主の思想を受け取る。いや、正確に記すのならば、宿主から解放される以前に、イヴァンリッピ、黒色粒子の方も承知していた事だ。
「ウプサラの壁を新たに構成する。崩壊しかけている壁の修復に取り掛かるんだ」
─────────────────
司教座都市スカナヴィア───。
「無茶苦茶な!無茶苦茶な!」
「んはァ⋯だろうと思ったぜ⋯のどうすんだァ?これじゃあ帝都ガウフォンは、政令指定都市の機能を失うぞ?」
「はい。ですが、城塞広場にて充満してしまった悪性ウイルスを除染する必要性が無くなります」
─────────────────




