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[#134-β空間回廊!!法線ベクター反転を拒絶する魔女【3】]


「見えてはいない。だが意識は覚醒状態にある。ただ、眼球の周りにある筋肉組織だけをイキらせてるだけ。五感の一部が欠如したに過ぎない。だからと言って、ここで一人の女が異議を申し立てる事には納得がいかないね」

「ヘリオローザ、あなたがやったんでしょ?あなたの力量不足が招いた事態よ」

「我が母体、そんな言い方は無いでしょ」

「ねぇ⋯さっきまで言ってたのは、何?」

ミュラエが問い質す。それは、空間転移に関する内容に準ずる事。


“ウェルニ・セラヌーンのみ、空間転移が不可能”


「フラウドレス、ヘリオローザ⋯ちょっと⋯さっきのって⋯⋯」


フラウドレスとヘリオローザの言い合い。その乱された輪の中に入ってくるミュラエ。二人の元から感じる、負の混沌をミュラエは忘れないであろう。

この二人の間に挟まれる事が延々と続くのであれば、自分は命の逸脱を考えなければならない。

「やっぱし、完全な昏睡状態にしてた方が良かっただろうに」

「それじゃあパワーコストが掛かる」

「フラウドレス⋯⋯⋯あなたはヘリオローザとスカナヴィア血戦者の行いを知っていたの?」

「知らないよ。私も今さっき知った。ヘリオローザとの再融合で強固な契約が約束されたの」

「まぁそんな儀礼無くとも、母体との繋がりは絶たれないけど」

「二人の事情とかはどうでもいい。ウェルニだけ、スカナヴィアに連れていけない理由は何?」

「それは!それは!こっちから説明するー!」

式フィロクレネーが式セルジュークへ、バトンを渡す。

「はい。考えられる事案としましては、ウェルニの体内に宿されている“暴喰の魔女”でしょうか。魔女受胎を果たした人間は、我々の技能に抵抗を示すよう、古来からの伝承として知られています。今回、血戦者としても彼女の中に魔女が宿しているのは周知済みでした。ならどうして、法線ベクター反転を起こしたのか?⋯それは、ウェルニ・セラヌーンが間違った方法で、暴喰の魔女と契約を果たしたからです」

「お前ェ、姉なら知ってんだろ?ウェルニがどうして暴喰の魔女と契約したのかァ」

「多くは知らない。ウェルニはウェルニで抱えてる重さを安易に他者へ一任出来なかったんだと思う」

「あんた、姉なんでしょう?」

ぶっきらぼうに、どうでもいいような素振りを見せながら言うヘリオローザ。

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯暴喰の魔女が何なの?ウェルニはレピドゥスと契約してるから、あなたたちのワープシステムが組み込めないって?」

「はい。仰る通りです」

「冗談じゃない⋯」

「はい。時間がありません。このままだと⋯」


「壊れるー!壊れるー!ウプサラの壁が崩落するよ!!」



「ウェルニへの贖罪だ。スカナヴィア血戦者の異能とマズルエレジーカ=デイドリームの系譜は相容れない。罪を贖う良い機会じゃねぇか、アァ?それともなんだ?ウェルニが空間転移出来ないんなら、姉としてここで妹の死を受け入れながら、ウプサラの壁外縁側に居るヤツらと戦うか?」

「ミュラエ。ウェルニは私たちと明確に違う異能を持ってるよね?“暴喰”だよ」

ヘリオローザがミュラエに近づく。ミュラエは意気消沈としており、どんな声を掛けてやればいいのか不特定な状態。だがお構い無しに、ズカズカと他者の境界へ土足で踏み上がろうとするのは、薔薇の暴悪たる所以。

「そんな⋯足枷になってるとでも?レピドゥスが⋯」

「一度契約してしまった魔女受胎を切り離す事は高難易度。出来たとしても、ウェルニはその後、“暴喰の魔女無き生活苦難を習慣”とし続けなくてはならない。暴喰の魔女の思考⋯計算、文学、智慧、感覚、明晰。その全てがアウトプットされるもの⋯と考えたらどうだ?魔女受胎を受けた人間はいつの間にか、異形生命体ティーガーデンへ信頼を置きすぎてしまう。恩恵の排除は、将来の人生を大きく左右する転轍機なんだよ」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯私はここに残る」

「ミュラエ⋯」

「ラキュエイヌを一度でも見れてよかった。あなたの先祖は逞しくやったと思う」


「時間がありません。ミュラエを連れて行くのですか?このままここに居残すのですか?」


式セルジュークからの催促。このままミュラエをここへ残して、私たちは奴隷帝国都市ガウフォンから逃亡を図るか⋯。はたまた教皇ソディウス・ド・ゴメインドとの再戦を待ち構えるか⋯。

この時、サンファイアの意識信号が私へ向かって強く発信されている事が分かった。内容は不明瞭。ヘリオローザによる覚醒直前の昏睡状態へ導入させる劇薬は、直弾に決まっているのがよく分かる。

サンファイアは、ミュラエとウェルニのセラヌーン姉妹へ並々ならぬ思い入れがあるようだ。文字列だけが伝わって来ているのだが、適正な形となって創造されるには、ヘリオローザ状態異常スキルの減衰が求められる。

フラウドレスはヘリオローザへ、スキルの減衰を求めた。


「ヘリオローザ、サンファイアが何かを言いたがっている!」

「何かって?」

「分からない!ただ、今の会話を聞いて、思う所があるみたい」

「??⋯⋯??」

ヘリオローザには全く、サンファイアの声は届いていない⋯⋯のか、それともフラウドレスの優しさが気に食わないのか⋯どうであれ、フラウドレスとヘリオローザは融合体である事に変わりはない。つまり、搭載しているスキルも、攻防兵器もほとんどが同一なのだ。

そんな事、説明しなくても分かっているのに、ヘリオローザは文字からでも伝わるようなバカバカしい面倒臭げな面持ちを見せる。

「サンファイアは、私たちに寄り添ってくれた。フラウドレスが居るかもしれない⋯と私たちがガウフォンへ誘ったから。一緒にここまで来たから!」

サンファイアの発信、それはフラウドレス、ヘリオローザ以外の面々には聴こえていない。ミュラエは予想でサンファイアの事を言っているようだ。


「─────⋯⋯⋯⋯────⋯⋯⋯───────」


新規の信号が次々と届いてくる。


「⋯⋯⋯お願い、ヘリオローザ、このままウェルニだけを残す」

「⋯!?ダメ!フラウドレス!ダメ!」


全員に、この決断は聴こえている。何回も言及しているが、この会話の一部始終は、聴覚のみを機能維持させているサンファイア、アスタリス、ウェルニへと絶え間無く行き届く。

ただ、動力が一向に筋肉組織を踊らせない為、抵抗する機会に恵まれない。その中でも何故か、同じ状況に陥れたはずの人物が五感をフル活用。

意識の覚醒が発動した。


しかし、当覚醒問題とウェルニの空間転移無効問題は、別の話。


亀裂が生じ始めた。ウプサラの壁の崩落はもう直ぐそこまで来ている。

時間が無い。このままだと五人は再び教皇ソディウス・ド・ゴメインドを筆頭とする攻撃部隊と相対しなければならない。

ミュラエが攻勢的な態度を取る。それは法線ベクター反転によってカナン城から異能者を空間転移させる基となる、VキューブS及びスカナヴィア血戦者への反抗だった。


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