[#132-胎芽の末裔【4】]
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「さて、お三人さん」
ウェルニが感動の再会を遂げた三人の輪に入ろうとする。物理的な介入という意味でのものでは無い。言葉のみ。
三人はウェルニの問い掛けに頭を向けた。
「感動の再会のところ、悪いんだけど⋯アレ、バーチャリアルキューブサットだよね?て事は⋯⋯スカナヴィアの血戦者。サンファイア、アスタリス、どういう事?何故、血戦者がここにいるの?」
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「それは私からの賓客かな」
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ウェルニの問い掛けに応じたのは、三人の再会を遠目で観測していたヘリオローザだった。応答した時、ヘリオローザは複数輪の黒薔薇を生み出し、自信を消した。空間から消失したヘリオローザは、五人の元へ最接近。
その際に、ワープアウトエフェクトとして黒薔薇が舞い上がった。地面へと舞い落ちる黒薔薇は、地中へと摺り抜ける。
「ヘリオローザ⋯⋯」
「私の母体、はぁ⋯もお!このこのこのこの!心配したんだから!!」
フラウドレスに近づくや、ヘリオローザは黒薔薇ワープを連続。フラウドレスに纏わりついたヘリオローザは、サンファイアとアスタリスという物理的接触を果たしている二人を追いやった。
「おい!ヘリオローザ!お前何すんだ!」
「うっさい!⋯うぅ〜ん!コレコレ!コレなのよね〜ん!フラウドレスはやっぱしイイわぁ。人間の姿で居るのは悪い気はしないけどめんどっちいんだもんねー」
寄生母体であるフラウドレスへ帰還したヘリオローザ。当然ながらそれが意味するのは、元空間に薔薇の暴悪・ヘリオローザなる生物的存在が居なくなる⋯という事。
そしてフラウドレスの身体を借りて、ヘリオローザが話すこのパターン。フラウドレスの人間性からして有り得ない程の能天気でテキトーな口使い。それに加えて、平気で自身の胸を触ったり、お尻を触ったり、生殖器の有無まで確認してしまう。
フラウドレスなのに、フラウドレスじゃない。
サンファイアはともかく、アスタリスはこれが結構、かなり、相当、だいぶ、ムカつく所業なのである。
「これが⋯ヘリオローザ⋯⋯⋯⋯」
「あなたが、ヘリオローザ?」
「ええ、そうよ」
フラウドレスが話しているのに、フラウドレスじゃない。セブンス二人からしてみれば、もう見慣れた光景(アスタリスは苛立ってはいる⋯て事は、慣れが生じているわけでは無い様子)だが、セラヌーン姉妹にしてみれば異質な状況だろう。
「あんたら、アトリビュートね。SSC遺伝子の。あなたたちの先祖には大変嫌な思いをしました。大変ね、たいいいいいいいいんへんな、思いを、しました」
黒薔薇が立体移動。セラヌーン姉妹を取り囲むように、一輪の黒薔薇が数箇所に転移。その速度はヘリオローザの口早と同等。平行的に空間転移が働いている。
黒薔薇が発現する度に、セラヌーン姉妹は驚きを隠せない。どんだけ黒薔薇が現れては消え、現れては消え⋯をリピートさせても、何故か最初にとったリアクションになってしまう。
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「恨むのも分かる。充分にそれは理解出来る」
「ヘリオローザ。二人には何の罪も無いわ。昔の超越者と今の超越者。繋がりがあるのは、体内に宿るSSC遺伝子だけ。それ以外に、先祖との関係性は無いの。だから⋯」
フラウドレスがフラウドレスの言葉を紡いでいる。しかし制御は再び、薔薇の暴悪へと移る。
「んわがってるよ、フラウドレス。母体がお世話になったみたいね。フラウドレスが死んでたら私もそのまま鎮魂の祈りを捧げられる所だった。⋯⋯」
「あ、あぁ⋯それは気になさらずに。私らもラキュエイヌ一族の人間と一緒に居れて良かったです」
ミュラエが感謝を述べる。建前上、なんて事でもなく、フラウドレスが居るから、今自分たちは作り上げられた分断世界の“こちら側”に来れている。
口にしてはいないがウェルニも気持ちは同じだ。
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「フラウドレスをありがとうね。本当に感謝してるわ」
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「あ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」「あ⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
まるで第三の人格でも現れたかのよう。原世界からの仲間である二人に視線を送るミュラエ。すると、なんとまさかの二人も驚いていた。と言うよりも、二人の方がセラヌーン姉妹より驚いている。驚愕⋯といった所だ。
「あなた、真面目にそういう事言えんのね」
「フン!こんなの今日だけよ。マジであなたが死んだら終わりだから私。千年の歴史をこんな簡単に棒に降ってたまるもんかって。てか何あんた死に損ないになってやがったの?」
「あのイカれ化け物のせいだよ」
「あ、そういや母体ちゃん、幻夢郷へ行ったみたいね」
「ええ行ったわ。盈虚ユメクイとか言うやつが首領してる場所」
「まぁ確かにあいつは強いわ。強い強い。今度会ったらタダじゃおかないわ、ねぇ?母体ちゃん」
「そうね、私とヘリオローザが組めば最強よ。私を一気にバトルオーバーにしたあの赤子引き連れた寮母めが⋯⋯」
「ガチで殺そう。ほんと殺そう」
「問答無用よ、ンなもん⋯⋯あとさ⋯ヘリオローザと再接続された瞬間なんか⋯────」
「サンファイア⋯⋯⋯?あの二人っていっつも、あんな感じ?」
「いやミュラエ⋯こんなの初めてだ。と言っても、僕とサンファイアもヘリオローザの存在を知ったの、一昨日なんだよね」
「あ、、、そうなんだ⋯へぇー⋯⋯⋯」
一つの身体で行われる二人の会話。
フラウドレスの顔が美しいがために、見ていられるものではあるのだが⋯やはり、人間は一人の人間として完結してほしいものである。
「両世界の諸君」
VキューブSから語気の強い、不良青年感の漂う声が発せられた。
「どうして血戦者がいる⋯⋯」
「サンファイア⋯⋯⋯!」
ウェルニ、ミュラエが声を震わせながら、怒りを滲ませている。激情に駆られる怒りのレールは、既にセラヌーン姉妹の下に敷かれている状態だ。
「違うセラヌーン。こいつらは“七唇律聖教”では無いんだ」
「嘘をつけ!司教座都市スカナヴィアの血戦者だろ?!」
ウェルニは天根集合知発動フォームを確立させつつ、白鯨ティファレト等級が外部創出。宿主による怒りのエネルギーが白鯨に全て繋がった事で、メインカラーの白色に紅色の放物線軌道が描写されていく。
ティファレト等級の紅放物線軌道が自身の身体を浸食していき、白鯨の顔面にも収束帯が生成される。ウェルニの攻撃指示も無く、白鯨は攻撃を開始。ウェルニの思想理念を具現化させた白鯨は、裂傷光線を繰り出す。
双方向に渡って収束していくエネルギーが、単一の指向性レーザー兵器となり、“空間の刃”となる。
空間を切り裂き、突き進む裂傷光線がバーチャリアルキューブサットに直撃しかけた瞬間、地中から盛り上がる巨大な黒い薔薇が出現。
黒薔薇は滞空状態にあるバーチャリアルキューブサット三体の眼前に、防塞を作った。
指向性レーザー兵器“裂傷光線”が直撃すると、そこには複数輪の黒薔薇が舞い上がる。発現された黒薔薇の壁は、攻撃を受けた後に地面へ拡大される。
血戦者は高度三十メートル付近で滞空中であったが、黒薔薇の壁によってその姿が五人の前から捕捉出来なくなる。
「何⋯⋯⋯」
突然発現された地中からの巨大な黒薔薇。下から上へ、空が引き揚げたようなシーンカットであった。
ウェルニは再びの攻撃を試みようとしたが、無駄な努力だと判断し、ティファレト等級へのエネルギー創出を停止。白鯨の頭上に生じていた、白鯨等級位階を示す光輪は、白鯨が消えた後に消失。
「ヘリオローザ⋯⋯何をする⋯⋯」
「コイツらは違う。話を聞け馬鹿女が」
フラウドレスの身体を拝借したヘリオローザが、ウェルニに苦言を呈す。それと共に、黒薔薇の壁は防塞兵器としての役目を終了。発現した地面へと急落下し、これまた消失した。
「ねぇねぇねえねえ!!怖すぎたんだけど!!なんなの!急に!?」
「式フィロクレネー⋯てめぇのその声、いちいちウゼェんだよ⋯⋯⋯」
「ウェルニ・セラヌーン⋯⋯ダヨねぇ?酷い!酷い!酷すぎる!酷すぎる!どして初対面の相手にこんな物騒な真似ができちゃうの!!」
言葉の抑揚によってVキューブSの身体は、しなる、うねる、伸びる、縮まる。遺伝子螺旋を形成するプロトコル物質はポリゴン状の有機生命体で完結している。行動によってポリゴンの数が変われば、形状変化も生じる。式フィロクレネーの発声器官は、他の血戦者と比較しても自在度があった。
それは、日々、式フィロクレネーがお気楽な話上戸として行動化させているからであろう。




