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[#131-脈劇のラーベザイデ 〜シンギュラリティポイント減衰活動報告〜【2】]


生命動力を駆動させる感覚器官。

心臓の音。

波打つ血流。

壊死した臓物。


現在のミュラエは、肉体を構成するほぼ全ての“中身”が、劇的な死去を遂げる寸前も寸前。

対して、レピドゥスがミュラエにオールドッキングさせようと策略中の“新肉体”は、生存中に暴喰したもの。壊死どころか、未だに現役バリバリに稼働可能な“中身”で詰まっていたのだ。


レピドゥスはミュラエの了解無しに、肉体組織の編集作業に取り掛かる。


結果。ミュラエは生き延びた。

話は漸く、ここから進行する。


「⋯⋯⋯ウェルニ⋯⋯⋯」

「良かった⋯⋯⋯お姉ちゃん!!」

レピドゥスへの神経接続を解除。ウェルニはミュラエの復活に歓喜する。姉の現在を慮り、一応のソフト路線を確保し、ウェルニはミュラエを抱き締めた。

強く強く、姉との再会を喜んだ。


「⋯フラウドレスは?」

「⋯⋯⋯うん、あそこにいるよ。まだ目覚めない⋯⋯」

「そうか⋯⋯⋯」

セラヌーンの二人に赤信号が点っていた中、間一髪の所で死への“悲哀の道行”から逃れる事には成功した。

しかし、二人には“フラウドレス・ラキュエイヌ”の防衛が一任されている。

サンファイア、アスタリス。原世界からの召喚者と約束した事だ。

仮に死んでしまっていても、遺体を弔わなければなるまい。そこには当然、二人も同席してほしい。


だから⋯⋯⋯⋯

だから二人も、絶対に勝ってほしい。


「⋯」

「⋯?────お姉ちゃん今⋯⋯」

「うん、私にも聞こえた」

『ラキュエイヌ⋯生きてるよ』

「⋯お姉ちゃん!ラキュエイヌ生きてるって!」

「⋯⋯⋯分かった⋯⋯」

何がどうなって、こうなったのか⋯⋯とにかく理解に苦しむ流れではあったが⋯⋯フラウドレスの方から微かな“呼吸音”が聞こえたのは事実だ。

怖いのは、私たちが気づいた後に、フラウドレスが呼吸音を停止させた事。


ミュラエは人工呼吸を施す。やり方なんて知らない。無知のままに、ただただフラウドレスの心臓部分へ平手を押し込む。何秒間隔で本行為をすれば良いのか⋯ミュラエの手は震えてきた。

自分のせいでフラウドレスの心臓は更なる悪化への導きとなってしまうのではないか⋯と。


───────

「ミュラエ!!」

───────


「⋯⋯!!」

「ミュラエ、ラキュエイヌが死んじゃう」

「う⋯⋯うん⋯⋯」

妹からの嘆きのような声。今まで接していた聞いた事のない妹の肉声だった。妹⋯からの声?⋯⋯と、一瞬分別のつかない所があったのは、姉として恥ずべき事⋯か。


天根集合知ノウア・ブルーム、使えんじゃない?」

「⋯他者を修復させる天根集合知ノウア・ブルームなんて、聞いた事あるだけで、私には備わっていない」

「幻影空間は?」

「⋯⋯真空の抽象?」

「ラキュエイヌの身体を幻影空間にて取り込み、肉体への重圧をしかける。これは、レピドゥスにはできない。暴喰の魔女が行ってしまうと、今のラキュエイヌなら食べかねないの」

「人間による人間の能力が一番⋯という訳ね⋯⋯分かった」



「⋯⋯⋯私は⋯⋯」

「ラキュエイヌ!」

「フラウドレス!」

「⋯う⋯⋯あなた⋯⋯たちは⋯⋯さっきの⋯影?」

仰向け状態で眠っていたフラウドレスが目を覚ました。身体への裂傷は癒え、内部にて存命を密かに継続させていた組織器官も完全再生。フラウドレスは窮地を脱した。


「大丈夫よもう」

起き上がろうとするフラウドレスの背中を補助するセラヌーン姉妹。

「固まってるみたい⋯私⋯⋯⋯!!ダメ!サンファイアとアスタリスが!」

「ちょっとラキュエイヌ!」

「ミュラエとウェルニよね?」

「どうして、私たちの名前を知ってる?」

「見てたから。幻夢郷ドリームランドから」

「どりー⋯なに?」

「説明はまた今度。とにかく今は二人と⋯ヘリオローザも⋯⋯⋯」


「ここからはどこにもいけないの」

「ウプサラの虚想空間ね」

「フラウドレス、あなた⋯本当に死の淵を見た?」

「ああ、見てたよ。それ見ながら、みんなを見てた」

「⋯⋯?」「⋯⋯?」

セラヌーン姉妹は全く理解が出来ない様子でお互いに目を配る。


「どゆこと?」「どゆこと?」


「長くなるからね。それよりも⋯⋯向こう側の分断世界とご対面しましょう」

「ラキュエイヌ⋯これは、教皇⋯」

「ソディウス・ド・ゴメインド」

「⋯⋯!」

『どうして知ってるの?』という表情はこれで何度か⋯⋯。

「あのガキンチョが無作為に出しまくった結果、セラヌーンの二人が隔離サーバーの鳥籠にINインて事ね」

「⋯⋯⋯⋯⋯」

「ラキュエイヌ⋯可視状態ではあったの?」

「答えに困る質問だよそれ。何を言っても今は反応に時を要する。それに⋯⋯向こう側、最優先事項はそこに行くことでしょ?」

「それは、そう」

「でも無理だ」

ミュラエは言い切った。

「ウプサラの壁はそう易々と人の介在を許さない」

「それは、あなたたちの世界の理論。私は戮世界の人間じゃない」

「フラウドレス⋯⋯⋯」


「そうだ」

フラウドレスは、ルケニアを即座顕現。小規模で展開された黒薔薇は、二人を取り囲む。セラヌーン姉妹は警戒すること無く、フラウドレスの思うがままにされた。

黒薔薇の抱擁が解かれると、その眼前にはウプサラの壁があった。それも先程とは異なる光景。なんと数多あるウプサラの壁で発現された分断世界の一片、半径六メートル程しか無い、極狭空間のワープアウトしたのだ。

辺りを見渡せば、ウプサラの壁しか存在しない。ウプサラの壁を生成継続する、黒色粒子と白色粒子の蠢きがこれでもかと視認出来た。「直視し過ぎない方がいい」⋯と、フラウドレスが、セラヌーン姉妹に言った。

戮世界の定義であるエネルギー源であるにも関わらず、フラウドレスは戮世界の住人に対し、そう言ったのだ。普通、言う立場としては逆な気もするが、セラヌーン姉妹はそこを突っつく事はしなかった。


ウプサラの壁へと近づくフラウドレス。

「凝視しない方が良いんじゃないの?」

自分たちでも聞いた事のない情報だった。

“直視し過ぎない方がいい”という警告。

それを自らで破っていくスタイル。


「私は例外。二人とは違うから」

ウプサラの壁へと視線を送っていたフラウドレスが、振り返りながらそう言った。髪が靡く中で、端麗に整った美しい顔立ちはセラヌーン姉妹の心を撃ち抜く。


「あ、そうだ。二人とも、サンファイアとアスタリスをありがとう」

「私も、ラキュエイヌと会いたかったから、あなたを助けようとした」

「そう⋯私の血が特別だから⋯だよね?」

「⋯⋯⋯⋯」

「ええそうよ。ラキュエイヌ一族は、原世界と戮世界の往還者」

ウェルニの黙りようを切り裂くようにミュラエが介入。ウェルニが黙りこくってしまった訳は他でも無い。過去にラキュエイヌ一族がヘリオローザという寄生因子を帯同しながら行ってきた所業の数々⋯。

良くも悪くも、ラキュエイヌ一族は戮世界の歴史に名を残す出来事に関係のある人物として有力的に上げられる。


「虐殺王サリューラス・アルシオンの時代から始まり、五百年もの間、戮世界テクフルに干渉した一人のラキュエイヌ。律歴4620年から忽然と姿を消してから、戮世界の時空転に障害が発生した⋯人はそれをラキュエイヌの消失による事が原因と言った。⋯⋯⋯エリヴァマシュ・ラキュエイヌ。戮世界に残されたラキュエイヌがその後、どんな人生を歩んだか知らないでしょ?」

「さぁ?離れたんだから、知る由もないわ。それに今、私の元にヘリオローザがいない。後でその話はしましょう」

「いいや、ちょっと待って」

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