[#130-哭刻の枷主・ヴェルミスラーヴェト【4】]
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虚空。
虚無。
名も無き摂理に抗わず、不動の地位のままに、時空を、虚構と現実を、プラスとマイナスを、調律・調和していく。
幻夢郷に地平線の概念は存在しない。地平線と思ってみていた“果て”は、擬装スィアーチュ。その場に所在を置いて、“果て”を視認出来る者など存在しないのだ。
次元裂溝ゲートが発生した訳。
「フラウドレスさん、行っちゃったね」
「⋯⋯⋯⋯⋯これで、良かったのか⋯⋯⋯」
「フラウドレスさんは、原世界の住人だ。ここにいちゃ、人体への過負荷は急速して、身体が溶融しちゃう」
「盈虚ユメクイの炉心が蠢く中、次元裂溝ゲートは開かれた⋯これもまた、多次元生物のお陰だ」
「バルディラス・エリュテイアは?」
「“黄昏の残光”が、ラヴら幻夢人の望みなど叶えるものか⋯」
「でも、オービタルアサルト=ラビウムは、原世界の使者と一緒に居た。こちらに注力するなんて余裕、無いんじゃないかな⋯それに⋯この次元裂溝ゲート⋯⋯⋯血みたいな色してる。さっき、フラウドレスが第14総局を殺した時に流させた、血、みたい」
血液の旋回。平板化された血液が縦方向となり、歯車が回るように作動している。血液は“縁側”。その内側も黒い空白。旋回する血液が、等間隔で内側へ流れ込む。流れ込んだ瞬間、中心地から元空間にて発されている“声”、“匂い”、“色”が齎された。
“色”の齎しが最も、視覚的に言えば分かり易いものと言えるだろう。“声”も“匂い”も、判断が難しい⋯と言うか、そもそも知らない生き物から発出されているものなので、“感動”が無いのだ。
「見たことの無い次元裂溝ゲートだよ────」
「だがこれしか今は無い。元空間へ転移出来る唯一の方法だ」
「フラウドレスさん⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
二人、次元裂溝ゲートを見つめる。その中心地では、フラウドレスが突入した唯一の形跡である、黒薔薇が滞空していた。時間が経つにつれ、黒薔薇は次元裂溝ゲートから剥がされていき、二人の元へ、ヒラヒラと空を舞いながら落下。
落下軌道に干渉した空気は、死んでいった。生物が命を絶やさず生き続けるために必要不可欠な“空気”を、黒薔薇は否定したのだ。
地上への接触。外気への批判を逆撫でするかのように、地面への悪影響は一向に表れない。
一度は躊躇ったが、パシメリアは黒薔薇へ右手を差し出そうと試みる。
黒薔薇を拾い上げた。
他者が、ルケニアの残り香の象徴的なオブジェクトであるモノを。
「─────、───────────..............───.......────......」
「行ったね。アークのキーマン。私と同じ、ディストピアへ」
「故郷じゃない。彼女は再び、“L'Originel”へと向かった」
「へぇー、戮世界かー。」
「─────.......──────..───...........───」
「オーパーツへの接触、許していいの?」
「パシメリアが望んだ事だ。彼女へ、好意を抱いたからな」
「将来は第7総局で彼女のマリオネット・ワーカーでも?」
「パシメリアが嘶夢驅に入る頃には、きっと新たなシナリオが第7総局によって書き紡がれている筈だ。第13総局で、フラウドレスを勝手に役者登録してるかもしれない」
「ンハハ、それはおもしろいね、これからが楽しみだよ。それじゃ。⋯⋯⋯あ、これもうじき閉じるから早目に退散しなねー」
女が消える。
数多の楽譜が開かれるような空間転移エフェクトを発現しながら、消失した。
「シラユリの巫女、シジュカ・タマズサ。同郷の種生命⋯か」




