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110 残したもの




 ーーーー

 どうして、助からない命を救おうとするのでしょうか?


 ワタシはそこに憤りを感じています。

 ーーーー


 脳に直接響くノイズは、私が常に頼ってきたまさに『叡智魔法』の声そのものだった。


 ーーーー

 可能性は提示しました。

 世界の崩壊は免れません。

 再度通告します。

 退避を、推奨。

 ーーーー


 何度も何度も告げられる残酷な通告。

(そんなことは、わかってる!)


 世界の外側から覗く観測者の眼。

 身体に突き刺さるような恐怖感は死を感じさせ、思わず身体が硬直してしまいそうになる。

が、そんな感覚を置き去りにしてしまうくらい、ライムの気持ちには余裕がなかった。


『どうして助からない命を救おうとするのかって……?』


 上空の空間が大きくひび割れて雪崩のように降ってくる。

 直下にはライムとレイラ。

 勢いをつけた歪みは私たちの存在さえ飲み込もうとするのだ。


『決まっているわ!!私が助けたいからよ!私が、助けたいと思ったの!助けなくちゃと思ったの!!』


『おねえ、ちゃん……』


(ーーあなたは9割助からないと言ったけれど、あと1割も可能性があるなら、私は魔法を使い続ける)


 咄嗟に魔法の標準を変えるが、眩暈で上手く合わせられずわずかに外れてしまい、目前まで迫ったかと思えばそれを左手でピタリと静止する。


 焦燥は次第に熱さへと変わり、さらに心臓を焦がしていく。


『逃げるなんて、選択肢、今の私には、ないっ!!』


 トードリッヒさんもライラさんも、、レイラちゃんのために世界を作って、自分を絶望に染めてまで家族を愛しているのに……どうして悲しみが結末にきてしまうのだろう。


 それが、許せない。

 幸せになってほしいと思う。ただそれだけを願う。


 四方八方に魔法を展開する。

 身体が酷く消耗しているのがわかる。

 けれど、辞めることはできない。

 私はーーまだーー



 ーーーー


 …………。


 ーーーー



 再び長い沈黙が流れる。



 ーーーー


 …………。


 ーーーー



 意識が朦朧としてきた。


 必死に魔法を使い、身体を動かしているうちにどんどん感覚がなくなってきた。


 視覚、聴覚、触覚、、、。


 まだ、まだーー、私、はーー。


 ーーーー


 …………。


 ーーーー


 視界は霞み、ほとんど何も聞こえなくなってきた。

 啜り泣くレイラの声がどんどん小さくなっていく。


 世界はどれくらい回復しただろうか。


 レイラちゃんは?

 トードリッヒさんは?

 ライラさんは?


 そこで、ずっと沈黙を貫いていた『叡智魔法』から反応があった。


 ーーーー


 ◇pき€9△○am?&@#!


 ーーーー


 何を話しているのかが分からない。

 今まで一度もこんなことはなかったのに。

 けれど不思議と自分も使っていた言葉のような気もしてきた。


 いえ、もしかして怒りを感じていよいよ私たちを滅ぼしにかかっているのかしら。


『……………』


 すると突然レイラちゃんと思われる人影から膨大な魔力反応があった。


『おねえちゃんっ!!!』


『…………っ!』


 目の前で私に手を伸ばすレイラちゃん。

 思わず手をとり、彼女の淡い蒼色の瞳を見つめると、


『いめーじ!してね!!わたしがそれをかたちにするから!』


 叫ぶ彼女はどこか確信めいた表情をしている。

 私の一回り大きな手が、暖かい小さな手の甲を包むと、トードリッヒさんがスラスルナの学園に残した書籍に書いてあった言葉が次々と脳裏に浮かんだ。


 そうだ。これは、ピアノと一緒に学園の肝試しをした時……。偶然見つけた本に書いてあった内容。

読めるけれど、誰にも伝えられなかった本の真実。

 いったい何故この記憶が……。


『あたまのなかにね、うかんできたの!おとうさんが、みつけてくれたこと。あのね、おねえちゃんといっしょなら、きっとできるよね?!』


 たくさん泣いて目が赤くなっても、レイラちゃんの瞳はキラキラ輝いていて、思わずはっとさせられる。


(まだ、終わっていないんだ……!)


 薄くなっていた意識を覚醒させて、優しい涙を流すレイラちゃんの頬をそっと人差し指ですくう。

 咄嗟に考えることは『叡智魔法』のことと流れてきた記憶のこと。


(脳に浮かんでくるということは『叡智魔法』がレイラちゃんの中にも入り込んだってこと……?)


 あまりにも突然のことすぎてまだ記憶と現実に追いつけていない。

 半信半疑で脳内に浮かんできた記憶とレイラの言葉を重ね合わせていく。


(お父さん……つまりトードリッヒさんが見つけてくれたこと。そして、いっしょならできること……?)


 本には確か……

 思い出そうとすると、ぶわりと記憶の波が押し寄せてきた。



 ーーーー


『深淵を打ち破る手立てを記す』


 破壊・逃避・怠惰を司る黒き魔法を使った者が堕とされるという深淵から逃れる術はない。

 ただ、その深淵を打ち破ることはできる。


 まず一つ目は、『創生の魔術書』を全て燃やすこと。

 ただしこれは、膨大な魔力と魔法力を持つ『神候補』のみ実現可能である。


 そして二つ目は、新しく世界を塗り替えること。『幻影魔術』を行使したあとに『存在証明』を施せば、深淵を塗り替えられるだろう。

 ただしこれには2人の術者が必要となる。


 ーーーー



 詳しい手順や情報が羅列されている……。



 ーーーー


 最後に、娘のレイラへ。

『愛してる』


 ーーーー




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― 新着の感想 ―
[良い点] イメージを「いめーじ」として扱うこと子供っぽさを感じることができる [一言] 待ってました 続編。これからも頑張ってください
2021/06/25 00:17 退会済み
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