111 祈っているわ
泣き声が、聞こえた。
『呪縛転嫁』をライムに施してから、意識がふっと消えたように飛び、感覚だけが残っていた。
寿命も来ていたのだろう。
すでに身体は黒く灰になっていたのだから。
上空へ浮かび上がる感覚と、精神が深淵へ堕ちていく感覚。
娘のレイラが悲しんでいるのに、苦しんでいるのに……何とも思わなくなってしまった心。
『………………』
そこで、絶望を見た。
私にとって1番あってはならないことだ。
守りたかった人を、自分の手で苦しませてしまうこの痛みはーー。
(これが、深淵か……)
トードリッヒは静かに、闇へ沈んでいく。
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レイラちゃんの手をぎゅっと握ると、どんどんと魔力が流れてきたから驚いて目を見開く。
そうすると周りの景色も見えてきて、いよいよ世界は終末に向かっているのか辺りは瓦礫で覆われ影も濃くなっているのがわかった。
未だトードリッヒさんの姿は見えないし、『叡智魔法』の瞳も沈黙を貫いている。
『私が……っ』
ライムは何をすればいいかわかったのだが、レイラに負担はかけたくないと思い、わずかに目を伏せる。
そんなライムを見透かしたように、
『おねえちゃん、だいじょうぶ!わたしもつよいんだから!おねえちゃんのまほう、ぜんぶ、ホンモノにするよ?』
恐怖心はどこへいったのだろう。
私よりも10以上離れた子が、目をキラキラさせて新しく世界を塗り替えようとしているなんて。
『レイラちゃん……こわくはない?』
『ううん、つよいおねえちゃんがいっしょだし……』
『…………』
『これでおとうさんも、おかあさんもたすけられるってわかったら、だいじょうぶになったよ』
にっこりと微笑む彼女にもう迷いの色なんてないみたいだ。
『そっか』
ライムは静かに頷き、
『じゃあ、私に続いて魔法を唱えてね。たくさん魔力を使うけど、私が手から魔力を渡し続けるよ。だから安心して、作っていってね』
『うん、わかった!』
『それじゃあ、『幻影魔法』』
幻影魔法の対象は、この世界の全て。
誰が見てもどこを感じても、私の魔法で全てが幻影に包まれる。
見せる幻影は……そうだなぁ、緑がたくさんで自然に溢れていて、ライラさんがゆっくりと休める場所がいい。
トードリッヒさんは……。
ううん……きっと大丈夫。
レイラちゃんもきっともう知ってしまっているだろう。その事実にそっと胸を痛めるが、それは静かにしまっておく。今は目の前のことに集中するのだ。
『レイラちゃんは、どんな世界がいい?』
目を閉じて集中しているレイラを、優しい眼差しで見つめライムは問いかける。
その目にはつらつらと涙が伝っていた。
『いろんないろがたくさん、あると、いいなぁ……』
『そうだね、黒ばかりはつまらないものね』
ライムはレイラを撫でると、目の前に広がる真っ暗な闇をふわりと鮮やかな翠色にする。
そうして頭の中で、イメージするのだ。
新たな世界の景色を。
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『それじゃあ、レイラちゃん。最後の魔法をお願い』
『うん。わかった。『いぐじすとぷるーふ』
レイラがそう唱えると、ライムと繋いでいる手が熱くなり、どんどんと魔力が広がっていくみたいに全身まで熱が渡っていく。
もうダメかもと思った時に、頭の中にいろんなことが浮かんできて、きっとこれをすれば何とかなる気がしたのだ。これしかないと思った。
(おねえちゃんはすごい……)
この幻影ぜんぶをイメージして、たくさんの色を塗ってくれて、そうして……どんなせかいになるのだろう。
私はおねえちゃんがイメージしたせかいを少しずつ本物にしていくの。
いぐじすとぷるーふ(存在証明魔法)。
幻影魔法で作られた幻を現実へ変える魔法。
(おとうさんといつも使ってた。いろんなせかいを作った……。おねえちゃんも使えるなんて、すごいなぁ……。……おとう、さん)
悲しくなって、苦しくなって、でもお姉ちゃんがいるからきっとだいじょうぶなんだ。
『ねぇ、いるの?わたしは、ここだよ……!くろくなっちゃったって、おとうさんは、おとうさんだよ……!』
『だから、かえってきてよぉ!!』
叫びが、想いが、世界に響く。
ぶわりと光が舞い、輪になって広がる。広がる。
世界の淵までーー。




