第二話
珈琲の旨さとおおらかなマスターの人柄で人気なカフェに入る。ここには俺もよく通っている。事務所から近すぎず遠すぎず。つまり今頃面倒な依頼主の相手をしている秘書に見つかりにくいし、事務の仕事をサボって事務所を抜けだした場合もすぐに逃げ込める。
客に紛れ込んでしまえば気付かれることはない。俺はその道のプロである。ここを毎日たくさんの客で賑わせてくれるマスターに感謝だ。
基本的にどうでもいいことばかり考えていると、ウェイトレスが注文を取りに来た。
「あ、いつもの。」
「かしこまりました〜。」
いつもと変わらないやり取り。俺にしてもウェイトレスにしても時間の無駄なのだが、ウェイトレスはマニュアルに忠実なタイプのようなので好きにさせておく。
注文んだのは珈琲だ。しかもブラックだ。いつもの、でブラック珈琲が出てくる分、なかなかに大人ではないか。
いつか秘書にブラック珈琲が大人の飲み物だという認識が既に子供だと言われたことがあった気もするがそんなことはどうでもいいとしよう。
ひとつ息をつき、座椅子の背もたれに身を預ける。そのまま俯いて目を閉じる。
仕事があった翌日はいつもこうだ。
事務所に行くのを嫌がって、気がつくとここにいる。別に意識しているわけではないのだが。
こうして“普通”の人間が沢山居るところに来ると、まるで自分までもがそれと同種のように感じられるのだ。
それが喜ばしいことなのかどうかは俺には分からない。分からないのに、いつもここに戻ってくるのだ。
人々の明るい話し声に混じって、水音が聞こえてくる。外では雨が降りだしたようだ。
雨に惹かれて少し目を開ける。
自分の手首が目に入った。はずれることのない包帯が今日も巻き付いている。昨夜の殺しでも、“儀式”はいつも通り行った。あれは大切だ。一度忘れてしまったときには気が狂った。あの時は秘書に随分迷惑をかけた気がする。気にしないけど。
秘書といえば、さっきから絶えず鳴っている携帯はなんなんだ。誰からかなんて見なくても分かる。嫌がらせか。はやく事務所に来いと言いたいのか。俺がいつも仕事の翌日は行かないのを知っていながら。
全くあいつもなかなかに面倒な性格をしている。
鳴りっぱなしだと携帯が可哀想なので(携帯が可哀想なんだ、ここ重要。)仕方なく通話に応じることにした。通話ボタンを押した途端甲高い声が早口でまくしたてる。
『先生ぃ!?今どこですか!?今日も来ないつもりでしょう!ねぇ!早く来てくださいよ!もう面倒な客が面倒で面倒な依頼を』
「帰ってもらえ。俺は寝る。」
『なんですかそのやる気のない面倒くさそうな気だるげな言い方は!大体せんせ』
通話終了。
面倒で面倒なのはお前だろうが。小さく悪態をつくと隣の客が不思議そうにこちらを見てきた。
にしても面倒な客ってなんだ。殺しの依頼持ってくる時点で誰でも面倒な客だろう。で、その面倒な客の依頼を受けて金を貰うのが俺の仕事だ。さらにその依頼を俺に持ってくるのが秘書じゃないのか。秘書の心得なんて俺には関係ないが。
「おまたせ致しました〜。」
「お。俺のブラック珈琲。」
さて。これを飲んだ後は競馬でも見に行くか。いや、今日はギャンブルにするか。キャバクラで酒を浴びるほど飲むのもいい。
温かい珈琲を一口啜る。
「…苦いねぇ。」
ブラック珈琲が好きだ。その苦さは俺の奥まで違和感なく浸透していくのだ。
それがどうしてなのかも、俺には分からないのだが。
かくしてカフェを出た俺はどこへ行くともなく街を彷徨いていた。つい最近ギャンブルで負けて大金をスッたばかりだ。そういうことにはあまり気が向かない。となるとキャバクラが残るが、今はそういう気分でもなかった。
未だ止みそうにない雨が一層気分を沈める。傘を持っていないのだ。それなのに雨はだんだん酷くなっているように感じる。
もう既に濡れネズミだからこれ以上濡れたって別に構わないのだが。
それにしても冷たい街だ。大雨の中傘もささないで歩いてるんだ。誰か傘に入れるくらいしてくれてもいいんじゃないか。それが美女なら尚良し。
まぁ実際は見知らぬ男に傘を貸す馬鹿者なんて女でも男でも居ないだろう。
いっそこのまま雨にあたっていれば風邪でも引いて仕事を休めるかもしれない。いや、このままいけば本気で風邪ぐらい引くかもしれない。
カフェを出た頃はまだ小降りだった雨は、今や滝のような土砂降りになっていた。俺が外に出た途端のゲリラ豪雨。神様のいじめみたいだ。いじめでなければ兎に角俺を事務所に行かせたいのか。どっちにしろ神様なんて信じていないけれど。
雨は更に激しさを増す。遠くの空から雷の音が聞こえる。雷雲が近づいているようだ。天気はこれからますます荒れるらしい。
それで構わない。もういっそのことずっと雨にあたっていたい。徐々に冷えていく体に、痛いくらい降りかかる雨粒を感じていたい。
視界を遮る雨に億劫になり、その場に立ち止まる。
冷たい雨に頭を冷やされた。いつまでも逃げていてはいけない。どんなに逃げたって、結局俺の居場所はひとつしかないのだから。ならばいい加減そろそろ事務所に帰ろう。俺は人を殺して生きていくしかないのだ。その事実から目を背けたところで何も変わらない。変える勇気だって俺にはないのだから。
今日何度目かの溜息をつく。
駄目元で携帯電話の液晶を確認してみたが、着信履歴はゼロのままだった。
思わずまた溜息が溢れる。あれだけ何度も電話をかけているのに、先生は真面目に取り合ってくれない。何回かに一回は通話に応じるあたり、着信に気付いていない訳でもなさそうだ。つまり無視をされているのだ。とても無視をされているのだ。
解っている。先生はそういう人だ。面倒な仕事は全て私に押し付け自分は賭け事を楽しむ。そして大抵大負けして酔い潰れて帰ってくるのだ。
その後処理も私の役目だ。酔った先生は非常に面倒くさくなる。道路のど真ん中で寝てしまい車に潰されかけたこともあったし(ご存知のとおり先生はご存命だがそれは私が身を挺して車を止まらせたからだ。)、若い女の子をホテルに連れ込もうとして警察に連れて行かれたこともある。その他にも先生の悪行は数知れない。全く、秘書は苦労の絶えない仕事である。
つまり何が言いたいかというと、先生は根っからのダメ人間なのだ。
仕事である人殺しだって先生は楽しんでいる。相手が沢山苦しむようにしてわざと急所を外し、苦しんでいるのを嘲笑う。殺しをしている時の先生はいつもの軽率すぎる態度から一変し、感情を持たない冷徹な悪魔のようだ。
つまり先生はダメ人間であり人間のゴミ屑であり、もしかしたら人間ですらなく悪魔の類なのかも知れない。そう思い、ずっとまともな目で先生を見たことはなかった。だがそれは随分昔のことだ。
私は知ってしまった。
いつも通り賭け事に負け、酔い潰れた先生を車で事務所まで送り届け、車を駐車しているときのことだった。
「俺が化け物にでも見えるのか。」
唐突に先生がそんなことを聞いてきた。あまりに唐突で、話の趣旨も全く見えなかったので、私は何も返すことが出来なかった。だが先生は続ける。
「俺だってなぁ、好きでこんなことしてるわけじゃないんだ。人殺しなんて好きでするわけないだろう。だけど仕方ないんだ。そうしないと俺が死ぬ、そうだろう?俺は知ってるぞ。お前がいつも俺を見る目が軽蔑とか恐れとか諸々普通ではない感情を持ってることをな。まぁそれもまた仕方のないことだな。俺が人殺しで更にそれを楽しんでいることが気味悪いんだろう。なぁ、何で楽しいと思う?教えてやろうか。そうやって人殺しを楽しめるような人間に無理矢理にでもならないと気が狂うからだ。実際に楽しいわけがないだろうあんなこと。俺はな、俺はなぁ、」
そこでふいに先生の言葉が途切れた。
先生は逃げるように私から顔を背けると、力なく窓ガラスに首をもたれかける。だが窓ガラスの向こう側の闇が鏡のような役割を果たし、顔を背けた先生の表情が私にも見えた。
辛さや諦めや恐怖や不安。普段の先生とは別人のような、複雑な感情。そんな感情が溢れるのを必死に堪えたような表情だった。
その顔が私に見られていることに気付いた先生は、ありがとなとだけ言って私の車から降りていった。酔っていたのが嘘のようにしっかりとした足取りで歩いて行く。細身の身体が闇の中に消えて行くのを見ながら、私はさっきの先生の言葉を思い出していた。
『俺はなぁ、』
―先生はその後に、何を言いたかったのだろう。私に何を伝えたかったのだろう。
その答えは未だに分からないままだった。
だが、先生が今の仕事に負い目を感じているということははっきりと解った。
思えばあれは、先生が依頼で十歳ほどの子供を殺した翌日のことだった。依頼人はあろうことかその子供の親だ。あれ以来先生は子供を殺すような依頼は全て断っていた。
先生の生い立ちなどはほとんど知らないが、幼い頃親に殺されかけたことがある、とだけは聞いていた。
先生は淡々と語っていたが、その話を聞いた当時の私には衝撃が強すぎた。今ではある程度そういうことには耐性があるのだが。
そんなわけで、親に殺意を向けられるというのがどんな気持なのかは非現実的すぎて私には想像することが出来なかった。
だが先生には何か思うところがあったのだろうか。だから子供は殺さない。
一応子供に同情するくらいの人間性は残ってるさ、と先生は言っていた。
その時は少し見直したが、直後の
『今はガキでも大人になればいい女になるかも知れないしな。生かしておく価値はある。』
という犯罪者(変態的な意味で)めいた台詞が全てを台無しにした。
「もう本当先生って色んなとこが残念ですよねぇ。」
思わず独りごちる。
「色んなとこってどういうところだ。」
「色々ありますけどねぇ、まず第一に変態でだらしがなくて」
「ほうほうそうか、そう思ってたのか。」
「…あら?」
いつの間にか先生本人が私の後ろに立ち、冷めた瞳で私を見下ろしていた。
「いやあの今のはですね!先生のことではなく別の先生でありまして」
「ほほう、俺の他にも変態でだらしのない先生が居るなんて、お前も苦労してるんだなぁ。」
「いいいえ恐れ多いですっ!じゃなくて先生のことじゃないってことであのその」
秘書の必死の弁解は続く。全く、主人のいない所でそれの愚痴を零すとは、不出来な秘書である。
本来なら色々といじめてやるところだが、あいにく今俺の興味は事務所に座る人物にあった。
あれが秘書の言っていた面倒な客だろうか。
ここからでは顔がよく見えない。秘書を押しのけるようにして部屋に入ろうとすると、
「って、ていうか先生なんですそれびしょ濡れじゃないですか!?」
「あ?当たり前だろう傘持ってないんだから。」
「せ、せめて外で言ってくれればタオルとか色々ありましたのに…あぁもう、店内までびしょ濡れ…」
「後で拭いといてくれ。カビでも生えたら困るからな。」
「あああそれ以上動かないでください今着替えを」
「別にいらない。おい、お前か。面倒な依頼持ち込んだって客は。」
「ちょ、先生話聞いてください!ってか面倒とか失礼ですよ!?」
「面倒面倒言ってたのはあんただろう。」
「うぐぅ…」
そろそろ足も疲れていたので依頼主の正面の椅子に座る。「うわぁぁ!?椅子が!あぁぁクリーニング代高いのに…」依頼主は肩を狭めて居心地悪そうにしていた。みたとこ五十代くらいのおっさんだ。
「で?どんな依頼だ。一応聞くだけ聞いてやる。」
「えっ!?せ、先生が自分から仕事を…!?」
面倒な客にはとっとと帰ってもらうに限る。話だけでも聞いておけば事務所の評判を下げることにはならないだろう。そう思ったが口には出さないでいた。
「一体何を企んでいるのやら…」
秘書には大方ばれているようだが。
改めて依頼主に目を向けると、そいつと目があった。
こけた頬に青白い肌。無造作に伸びた白髪は、死体を連想させた。
落ち窪んだ目が瞬きもせずに俺を見つめている。見つめるという表現をするにはいささか狂気が過ぎる気もするが。
「…あ、あなたですね、殺し屋ってのは、」
依頼主が俺を品定めするようにひと通り眺めると、ふいに顔を近づけてきた。
「ひ、人を殺すような顔には、み、見えないな…」
息がかかる程の至近距離で俺の目を覗き込んでくる。
「おい、気色悪いな離れろ。」
「だ、だけど、猫くらいは、殺せるかな、」
そう言って更に顔を近づけてくる。その口角が不気味に歪んでいる。
仕草といい話し方といい、個性の強い奴だ。別にこんな奴は珍しくもないのだが。
「殺してくれるかい…猫、」
相変わらず俺の目から目を離さないまま。猫。その言葉を強調するように言う。
なんとなくその“猫”が人間を指すのではないかと口振りで解っていた。だが秘書には解らなかったらしい。
「だからそういう依頼でしたら探偵社かどこかに頼んでくださいよ!うちは人間専門ですから!」
本当に猫殺しの依頼を持ってきたというのなら、まぁ確かに面倒な客だ。
だが人間となれば話は別だ。
「…解った。では詳しいことは後日頼む。明後日くらいにもう一度出向いてくれ。」
「せ、先生!?猫殺すんですか!?」
「あぁ、殺すんだよ、猫。」
それでいいんだな、と依頼主を見返す。
「はは、ありがたい、では、また明後日くらいに来ますから、ね、」
「そうしてくれ。」
依頼主はやっと俺から離れると、一礼して事務所から出て行った。
「んじゃ、後は頼んだ。俺はもう今日は帰るぞ。俺が風邪でも引いたら困るだろう。主にお前が。」
「ちょ、先生…」
「それと、情報屋に連絡を取っといてくれ。明日くらいに向かう。」
「えぇ!?わ、私あの人苦手なんですけど…」
「そうか。じゃあ頼んだぞ。」
「ちょっと!もう!先生私いつか過労で死にますよ!?」
「それは残念だ。」
「ひどい!私が死んだら先生絶対泣きますよ!?泣きますからね!?」
不服そうな秘書は無視して事務所を後にする。
建物の外に出るとすぐに雨に視界を支配された。雷鳴もすぐ近くで聞こえる。納得がいかないらしく追いかけてきていた秘書も雷鳴に怯んだのか、開けかけていた扉をすぐに閉めた。それを後ろ目に見ながら、聴覚を刺激する激しい水音に意識を引っ張られる。煩い。耳障りだ。
全くうんざりする天気だ。これでは交通機関も機能しないだろう。だとしたら歩くしかなくなる。この天気の中を?家に帰るのも一苦労じゃないか。
どうして帰ろうか。もう、その辺りのホテルで一晩越してしまおうか。そんなことに頭を巡らせながら一歩踏み出す。それとほぼ同時だった。
落雷を示唆して、当たりが光に包まれる。その一瞬、白く染まった視界のどこかに、俺はそれを見た。
―フードを目深に被り、俺と同じく大雨の最中
、身一つで立ち竦む人影。
それの口が何かを伝えようと動く。訝しげに目を凝らした次の瞬間、俺とそれを切り裂くように一際大きな雷鳴が轟き、白が失せた視界からそれは消えていた。
「…なんだ?」
あれは、俺を見ていたのか?
『にゃあ』
そう言っていた。確かにそうだと思った。理由は分からないが、あれの口はそう言っていた。
―にゃあ。
猫?
さっきの依頼主を思い出す。
まさか、さっきのが依頼主の言っていた猫なのか?
「おい!猫!居るんだろう?聞こえているか?さっきここから出て行った男を知っているか?」
雨音に負けじと声を張り上げるが、返事はない。
「お前を殺すぞ、猫。お前はそれを知っているんだろう。何を伝えたいんだ?殺されたくないのか?」
返事はない。
変わりに背後に気配が現れた。振り向くより先に目を塞がれる。疾い。全く気配が読めない。
「僕を殺してもいい。だけど誰を信じる?さっきの男を信じてみて、それが正しいという答えは誰が持ってる?」
大きな声ではないのに、雨音も雷鳴も全て差し置いてそいつの声だけが頭に響いてくる。
「僕は持ってる。」
声を潜めて俺の耳元で囁く。
「…話が読めない。まずあんたは何者だ。いつから俺を見ていた。」
「僕はあなたを見ていたんじゃない。あなたも僕を見るべきではなかった。」
目を開放される。振り向くとフードを被った小柄な男。その後ろには、閉めたはずなのに開いてしまっている扉。その理由を考える間もなく、答えは見つかった。
「あなたは間違えたんだ。」
もう一度辺りが光に包まれる。
その一瞬色を持った世界は、しかし俺に赤しか見せなかった。
真っ赤で不思議な形をした何かが硝子張りの事務所の扉に張り付いていた。
―人?
それが人だと解ったのは、俺が殺し屋だからだ。
死体を沢山見てきたからだ。
だから、何故こんなところに死体が出来上がっているのかはさておき、動揺はしなかった。
死体の首は皮一枚で辛うじて繋がり、断ち切られた血管がぶら下がっている。その管からは行き場を失った血液が心臓の鼓動に合わせてまだ噴き出ている。首は支えを失って倒れ、自分が殺されたことを理解出来ずに首を傾げているようだった。
そこまで死体を観察してからおかしな事に気が付く。
死体が着ている服。
それがさっきまで秘書が着ていた服と同じだったのだ。
一瞬頭がぐちゃぐちゃになり、雷もないのに目の前が真っ白になる。
だがそれは一瞬だった。
「彼女は、あなたの秘書さんだ。」
猫、かもしれない少年が静かに告げても、俺は別段何も感じなかった。
「これをやったのは誰だ?さっきの一瞬でやったのか?」
聞くまでもなくそうだろう。秘書がこの扉を閉め、事務所に入っていくのを俺は確かに見た。
それ以降は見ていない。
俺が猫かもしれない少年に気を取られている間にやったということだ。
そもそも、猫かもしれない少年はなぜここにいた?これから起こることを予想していたように。予想していたなら何故助けなかった?俺を見ていたんじゃないと猫かもしれない少年は言った。だったら事務所の中で起こっていたことを見ていたんじゃないのか。
「…訳が解らない。」
考えることが億劫になり、その場にへたり込んでしまう。何から考えればいい。猫かもしれない少年に何を聞けばいい。俺はどうしたい。頭がショートしそうだ。
「…あんたは何者だ。」
結局、もう一度少年に尋ねる。
「それはもう知っているんじゃないですか。」
「…あんたは誰の味方だ。」
「それはあなたが決めたらいい。」
目の前に手が差し出される。包帯だらけの手だった。一瞬自分の手かと思った。馬鹿馬鹿しい。思わず笑みが溢れる。
俺を待つ手を掴んだ。立ち上がるとそいつは微笑んでいた。フードが外れ、大雨のせいで不明瞭だが顔がぼんやりと見える。大きく丸い釣り目。細くふわふわとした髪。薄い唇からのぞく鋭い八重歯。身軽そうな身体。
なるほどそれは、猫の様だった。




