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決闘1


 決闘日当日ーー学園訓練場には生徒と保護者がひしめき合っている。


(人が沢山いるおかげで、目立たずに済みそう)


 

 聖女が来る前は、皇族専用エリアで観戦していたアリスだが、今日は違う。


 フードを深く被り、一定時間しかもたないが、薬で髪と瞳の色を変えた状態で、一般生徒や保護者に紛れて一番最前列を確保していた。 


 決闘は卒業式の正式行事とあって、校長が審判を務めることになった。


「まずは決闘における禁止事項を述べる」


 校長の声が訓練場に響く。


 首と心臓への攻撃、魔法の直接使用は禁止。

 立会人や観戦者の介入、反撃不能の相手への連撃も厳禁だ。


「次に、使用武器について」


 武器は訓練用の剣のみ。刃には切れ味を抑える魔法処置が施されている。

 ただし折損に備え、打撃による攻撃は認められる。


「勝敗の条件は四つ」


 一つ、相手の降参。

 二つ、審判による続行不能の判断。

 三つ、双方の立会人の合意。

 四つ、一定以上の損傷が見られた場合の自動終了。


 要点だけが、淡々と、しかし重く告げられていく。


 一通りの説明が終わると、選手控え室から出て来たアレクとラルフは互いに向かい合い、剣を前に翳した。


 そして、校長から決闘の宣言の口上が述べられる。



「決闘はセレーヌ学園の規定に基づき〝名誉決闘〟として行われる! 


再度述べるが、双方は立会人を最低1名つけ、他の観戦者は介入禁止である!!


以上によりーー決闘の開始を宣言する!!!」



 開始の合図と共に、アリスは外套の中で、祈る様に一輪の花を握りしめた。


 正直、アリスはラルフの実力は見たことがなく、詳細にはわからないが平均的だと言うことは知っている。


 一方のアレクは学年で一位の剣術の成績を収めているので、この決闘でラルフが勝てるとは考えてはいなかった。


 それでも。


『どうみても、大丈夫な顔してないだろ』



 衆人の前に晒されていたアリスを堂々と背に庇い、そう述べてくれた彼の、誠実で真っ直ぐな想いを見届けないわけにはいかないと思っていた。


 それが、今のアリスに出来る唯一の誠意と真心の返し方だとわかっているから。



 晴天ではあるが、やや風が強い決闘場で、アレクとラルフはそれぞれ銀の髪と黒髪を乱されながら、剣を構えて互いを睨み合っていた。



 初めに動いたのはラルフだった。

 剣術の腕は平均的と聞いていたのに、アレクは剣速ではなく初撃の判断を読み違えたことに、わずかな焦りを覚えた。


 その踏み込みの速度は、素人のアリスですら異常だとわかるほど速かった。


 アレクは刃を滑らせて受け流し、その反動を利用して踏み込みを返す。


 土煙が上がり、砂を削る靴音が、決闘場の空気を震わせた。


 剣がぶつかる度に観客が息を呑む。


 

 アレクは、思わぬ攻防に戸惑いを感じながら、ギリギリのところで剣を弾き、後ろへと飛び退いた。



「流石ですね、アレク皇太子殿下」


 ラルフからの賛辞の言葉に、アレクの眉がピクリと反応する。



「頑張ってくださーい!アレク様!」



 皇族用の観戦席から、聖女、天崎陽美の声が響いた。


 アレクがその声に応える様子はない。


「いいんですか?

婚約者に手を振るくらいはお時間を差し上げますが」

 

 ラルフの気遣いが癇に障ったのか、アレクの表情が険しくなる。


「……。レナード皇子。

いやーーラルフ皇子。

随分とアリスの気を引きたい様だが、君の行いは全て無駄だぞ」


 今度は、アレクがラルフに斬りかかり、それを真正面から受け止めた。


 ギリギリと刃がせめぎ合う中で、互いを睨みつけ合う。


(気を引いても無駄だって?ーーそんなこと)


 学園の花畑で本を読むアリスを遠目から見てきたことが脳裏をよぎる。


 政治的に彼女を救えるわけでもない、安心して婚約者でいられる地位の保証もない。初めて見た頃から、彼女は手が届かない存在で。


 退屈な三年間を彩るだけの存在ーー



「ーー今に始まった話じゃないですよ」


 力強く、アレクの剣を上に弾いて、ガラ空きになった胴をめがけて剣の柄の裏で殴りつけた。アレクは思わぬ反撃だったのか目を見開き、片膝をついた。


 それまでアレクが完勝をするだろうと歓声をあげていた会場が途端に静まる。




「…っぐ」


 眉をひそめ、太陽を背に、こちらに剣を構えて見下ろしているラルフを見上げる。


(こいつーー平均的な腕前だと?先ほどの踏み込みといい…学園の授業では手を抜いていたのか)



「手加減はいりませんよ。皇太子殿下」



 その言葉を合図に、観客の動体視力では追いつかないスピードでの斬り合いがはじまる。


 風が強いせいなのか、または彼らの剣圧が風を起こすのかーーアリスは、信じられない展開に呆然としていた。


 風が吹き抜けた瞬間、彼女のフードはふわりと浮き、薬で染めていた髪が白金へと解け、フードが捲れ上がったことも気づかない。



 一瞬ーーラルフの黄金の瞳が、アリスを捉えた気がした。


 


 キィン!


 ザシュッ



 剣が宙を舞いあがり、白い頬に刃が食い込む。


 斬り込みから滲む赤色の血が、ぽたりとしたたる。



 宙を舞っていたラルフの剣が、ガランと音を立てて地面に落ちた。


 誰もが勝負は決したと思った。

 少し想定とは違ったが、やはり自国の皇太子が勝ったのだと、観客が最高潮に歓声を上げた刹那ーー



 ラルフは身を沈めるより早く、影がすっと地面に吸い込まれ、風のような動きでアレクの死角に滑り込んだ。


 それにアレクが反応する前に、剣を持つアレクの手を、左手で弾き、右手でアレクの顎先を掠めながら、力の限り殴りつける。


 瞬時の出来事に、会場は何が起きたのか、すぐには理解ができなかった。


 

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