アレクの誤算3
心からこちらを労るロゼ色の大きな瞳。太陽に照らされた白金の髪ーー思わず私は「天使?」と呟いていた。
「え?」
小さく首を傾げる姿が、また愛らしい。
少女は私が返事が出来ないほど具合が悪いのだと考えたのか、そっと手にしていたグラスを差し出して言った。
「良ければこちらを飲んでください。
少し落ち着くかもしれません」
受け取って、そっと口に含むと、ただの透明な水なのに、華やかで少し甘い香りが、喉奥に広がった。
清らかで優雅、やわらかく深みのある香りは私の鬱々としていた心を優しく撫で付けるようだった。
「……おいしい」
そう言った私に、彼女はにこりと微笑んだ。
「私もこれ好きなんです」
「何を入れたの?」
「飲料用に特別加工をしたアイリスの精油です。
通常は飲用できませんが、こちらは飲用できるよう魔法で調整して作りました。
友人に〝欲しいから今日持ってきて〟とお願いされまして」
「アイリスの精油…君が作ったの?」
「はい。
昨日お母様と張り切って作りすぎてしまいましたの…何本か余ってしまいましたので、良ければ一つお持ちください」
後ろに控えていた使用人から小さな小瓶を受け取り、私の前で両手を開くと、そこには淡い桃色の、目の前にいる少女の瞳と似た色味の液体が入った小瓶があった。
これは後から聞いた話だがーーアイリスの精油は不安や孤独を和らげ呼吸を楽にしてくれる浄化作用があるらしい。だからアリスはお守りとして小瓶を持たせてくれたのだ。
私がその小瓶を手に取り、空へかざしてみると、少女は目を細めて言った。
「私、ウェスタリス公爵家のアリス・ウェスタリスです。あなたのお名前は?」
そうか、遅れて来たから私が誰かまだ紹介されていないのか。使用人もこの場にいる貴族の令嬢、令息も。
皆、第二皇子に集中しているから。
……怖い。この子に、私が平民出の母を持つ子である皇太子だとバレるのが。
「わ、私は…アレク……ただの、アレク」
「ただの、アレク様?」
「ぁあ」
結局直ぐに皇太子だとバレるのだがーーその時にアリスは声を上げて笑っていた。本当に〝ただの、アレク〟という名前だと覚えていたらしい。
アリスは私が平民の子である皇太子だとわかっても、皇宮に訪れるアリスの母に連れて来られて、その母の用事が終わるまで私と遊ぶようになった。
そして一年後、私の状況を理解したアリスは私と婚約を結んだ。
私の母はいたく喜び、アリスに感謝して、私にアリスをうんと大事にするよう再三忠告してきた。
忠告されなくても、そのつもりだった。
私は、初めて声をかけてくれたその時から、彼女に惚れていたから。




