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レモバーム

頭に直接呼びかけてくる声が聞こえてきて、辺りを見渡す。

 しかし、この空間には男の子と自分。

 そして箱の中で蹲っている狐?しかいない。




「もしかして……あなたが?」



 狐に話しかけて見ると、再び頭に声がした。



「それしかなかろう、とにかく。アタシはいいからその子を寝かしつけておくれ。五月蝿いったらありゃしないよ」


 

 男の子にはどうやらこの声は聞こえていないようで、未だにひっくひぐっとしゃっくりをしながら泣いている。


(寝かしつけると言ってもーー昔、お母様が寝る前につくってくれたあれが良いかしら)



 アリスは手荷物から乾燥レモンバームの入った小袋と森蜂蜜入りの小瓶を取り出し、レモンバームをティーポットに入れてお湯を注ぐ。


 

 私に楽しいことや悲しいことがあり心が落ち着かず寝付けないとき、母が作ってくれたレモンバームハーブティー…。


 レモンバームは、不安や緊張をやわらげ、心を静かにしてくれる。私が穏やかに寝眠れるよう助けてくれるからと、泣き疲れた夜にはいつもこれだった。


 魔力でレモンの優しい香りと効能を少し高め、抽出が終わったら小さなカップに半分ほど注ぐ。

 


 子供用に薄めたあと、幼い者にも害のないとされる森蜂蜜をひと匙加え軽くかき混ぜる。





 ーー仕上げに。

 庭先から小さなレモンの花を一輪浮かべると、ほんのり甘い香りが立ちのぼった。





 暖かみのある木の机にそっと淡い湯気のたつレモンバームハーブティーを置き、しゃっくりを繰り返す男の子を椅子に座らせると、獣人だからなのか余計に良い香りに誘われてカップの中を覗き見た。



「おはな、かわいいね。


これ、なに?」

「あなたの為に特別につくったの。良かったら飲んでくれると嬉しいな」

「ボクのため…とくべつ?」

「うん。そうよ。

暖かいからーー少しずつ飲んでね」


 男の子は恐る恐るカップを手に取り、ちびりとすする。

 味が気に入ったのか、パァッと表情を明るくして、その後は夢中になってごくりと喉を鳴らしながら飲み込む。



「おいしい!」


 先程までの青ざめていた顔色に赤みが戻り、垂れ下がっていた耳がピンとたっている姿を見て、自然とアリスの表情も和らぐ。


(かわいい~)


「ふふっ、気に入って貰えて良かった」


「おかわり!」


「今から寝たら、明日はもっと沢山あげるわ。

勿論ーー おやつも添えて」


「わかった!ボクよいこだからねる!」



 幼児と言えど、流石獣人と言うべきか。

 獣のような瞬発力で枕と布団を引きずってくると、狐の入っている箱の横にある机をずらし、地面に寝転んで目を閉じた。



 レモンバームハーブティーにより、張り詰めていた緊張が一気に解けたせいか暫くしてからふにゃ…ふにゃ、と気の抜けた声を漏らし、やがて寝言ともつかない言葉を呟きはじめた。




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