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寿命



 

 アリスが机に残されたコップや使用した道具を洗い終えて戻ってくると、男の子はすでに深い眠りについており、小気味良い寝息を立てていた。


 床の上で眠りについたのを、近くにある小さなベッドへ移し終えると、先程の狐がまた頭に直接話しかけてきた。


「やれやれ。

これでやっと落ち着いて話せるよ」


 アリスは振り返って、箱にいる狐へ近寄る。


「あの…」


 戸惑いがちに声を掛けようとしたが、狐はそれに構う様子もなく言葉を紡いだ。


「あんたあれだろ。

ユリアの子だろ」

  

 意外なところで出てきた母の名前に動揺しながら、疑問を口にする。


「何故私の母の名前を…」



「すぐわかったよ。顔が似てる上に、魔力も似てるからね。

ーーとは言っても、大きく違う点もある」



 九尾の視線がアリスの体をなぞるように動く。 


 長い年月を生きてきた者特有の生き物を見透かすような、古い光だった。



「あんた、聖剣の魔力を持っているね?」



 アリスは驚いて数度瞬きをする。


 この世界は、昔ーー魔法使いが沢山いた。


 けれど時間の経過とともにその人数は少なくなり、今や魔法が使えても僅かばかりで貴族ですら魔力保持の有無が重要視されない。


 魔法がなくとも、誰でも使える魔道具でこと足りるからだ。


 アリスのいたウェスタリス公爵家の祖先は武器魔法や身体強化魔法など戦闘特化の魔法を得意として戦果を上げて繁栄した家紋である。


 そして、アリスにその魔力は正しく受け継がれ魔力量は先祖返りと言って過言でないほど多い。


 とはいえ、現代では魔道具と言う誰でも魔法を使える動画があるし、平和な世ではあまり使い道の無いものとされている。

 


 薬師として草花の効能を高めることにしか、その魔力を使わずにいるので、普段は使い道もなく、その魔力を重視されたこともない。

 だから、アリスが魔力持ちだと知らない人も多い。


「わかるのですか?」

「あたりまえだろ。アタシは九尾だよ」

「ーー九尾?あの伝説の?」



 尾が九本ある狐だ。

 海を挟んだ先にある孤島で神獣となり存在していると、聞いたことがある。


 けれど、二年前の津波で魔物が活性化して、瘴気が蔓延したことで姿を消しとされていた。


「その孤島さ。だがあそこは二年前の災害でね、魔物が増殖して瘴気だらけになった」


「やはり、津波の……」


「そうさ」


 九尾は、遠いものを見るように視線を伏せる。 

 その声音には、抗いきれぬものを受け入れた諦観が滲んでいた。


「アタシはね、隠居するつもりだったのさ。もう寿命でね。

だが孤島を出ようとしたその時に、この子だけが小舟に転がってるのを見つけちまったのさ」


 そこで一度、細く息を吐くように尾が揺れた。


「一人で?」



 熟睡している男の子にアリスはちらりと視線をやる。


 九尾は大きく溜息をつく。



「あぁ。

周りを見たけど、この子の親らしき影は見当たらなかったよ」



「…あなたが、これまであの子の面倒を見ていたんですか?」



「それしかないだろ、孤島から来た獣人の孤児を人間が育てられるもんかね」



 九尾は短く鼻を鳴らした。


「ーーアタシは住処などいらないが、あの子にはいるだろ?


だから、此処を使わせて貰った」



「……もしかして、私の母を、待っていたのですか?」


「……アタシが人間で信用していたのは、あの子だけだからね。他へ預けるよりも、幾分かマシだろう」


「……」


「その様子じゃ、アタシより先にユリアは死んじまったのね」


「すみません…」


「謝らなくていんだよ、あんたがあの子を面倒見てくれたらそれで」


「え?」


「見たらわかるだろ?

アタシの肉体は長くない」



 その言葉に、アリスは息を呑んだ。



✴︎✴︎✴︎✴︎

作者コメント

お礼が少し遅れてしまいましたが、ページコメントくださりありがとうございます。

更新のかてにしております♪


引き続き物語を楽しんでください(୨୧•͈ᴗ•͈)◞︎ᵗʱᵃᵑᵏઽ*

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